木曜日の素敵なのじー①

木曜日ののじーには「介護予防」で訪問している。のじーは独身で一人暮らしの男性だ。

「介護予防」とは、地域支援型の予防サービス・・・地域において要介護認定されていない健康な高齢者または要支援認定1〜2の高齢者を対象として訪問するサービスだ。

要は、健康そうだけど、ちょっといろいろ気になる存在だから、今のうちから社会とつながってもらっておこうかな〜という感じのサービスだ。

のじーが、なぜ介護予防に目をつけられているかというと、まず年齢。一人暮らし。親戚はいるようだが長ーい間疎遠。生活保護、大昔にアルコール中毒だったことがある。糖尿病・・・といったところだろうか。

私は何しに行ってるかというと、のじーの生存確認、体調管理の相談相手、飲酒はないかなどを見るために訪問している。訪問時間は30分だ。

私は、のじーの訪問が大好きだ。

なぜかというと、のじーはいろいろとセンスがいいのだ。もし私が老いて一人暮らしになることがあったらお手本にしたいナンバーワン!なのだ。

例えば。のじーは朝早起きして家の周囲5kmくらいの範囲を花を摘んだり、タネや実を拾ったりしながら散歩している。
オリーブが入っているような瓶を自分でペイントした花瓶(マイルスデービス画風)に見事なバランスでいけられている。1Kの部屋の台所、トイレ、ベットの横、テレビの横、窓辺・・・のじーの家には花が絶えない。いちど「どろぼーになるんじゃないの?」と野暮な質問をしたら、家の壁の穴から出ているこたちをいただくらしい。「花泥棒は粋のうちってな」だって。

冬は花がないので、散歩中に拾ってきたタネ類をジャム瓶に入れて窓際に飾っている。春になるとそのタネを街のあちこちに密かに蒔いて歩き、人知れず育っていく植物の様子をみながら散歩するのが楽しいのだそうだ。のじーは、ちょっと冷えたたこ焼きみたいな顔だがニーチェみたいな楽しみを持っている。

「ひとりだけど、歩いてるといろいろ楽しいんだよ。暇とか感じないわけ」という。のじーは、どこに何の木や植物があるか、いつ実がなるか、見頃はいつかなど把握しているので「どこの何の植物がきれいだよ」などと週末お散歩スポットを教えてくれる。冬に「はい、いつもお世話になってます」と言って拾ってきて、きれいに処理された銀杏を一包みいただいた。

のじー部屋は六畳の1Kだが、とても綺麗に整理されている。窓のカーテン代わりに手ぬぐいが数枚押しピンで貼ってあり、その色のバランスも良い。さらに季節ごとに手ぬぐいの柄と配置が変わっている。ちなみに小さいキッチンの前に敷いてあるござは、へりがほつれたのか?手を加えたかったのか?猫柄の手ぬぐいでへりを工作してある。

のじーに「どうしてこんなにセンスがいいの?」と聞いてみたら「センスがいいかどうかわかんねーけど、昔、マグロ漁船に乗ってたんだよね」とのこと。
のじーは昔、十数年大型のマグロ漁船に乗って世界中をまわっていたらしい。
当時の漁船には個室などはなく、夜行列車のような二段ベットで”自分の範囲”がある程度だったらしい。休みの日などは船を降りて停泊している国の観光をしたそうだ。でも船には誰もいないのでよく物を盗まれた。だから物はあまり持たない”手ぬぐいのような用途が多く使い勝手がよいものを少しもつ”というのがのじーのポリシー。「狭い・暗い・男臭い」を楽しく、きれいにするにはどうしたらいいか?と考え工夫していたそうだ。”のじーの範囲は”きっと幕の内弁当みたいに整理され、かつ美しい空間だったのだろう。のじーは「だってーきたないのやだもんなー」という。

だからのじーは「部屋が狭くたって平気」なのだ。玄関と和式トイレは共同、風呂なし、洗濯機もない住まいだが「そこら行けばコンビニもスーパーもあるしよー。ちょっと行けば風呂屋もあるし、洗濯場もあるし快適だよ」と言う。街全体がのじーの家と庭なのだ。

看護師として訪問しているが、わたしの方がたくさんの豊かさを教えてもらっていると思う。素敵に感動しすぎて仕事を忘れないようにしないと!


つづく


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