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夏に願いを

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#吹奏楽

夏に願いを(2)

叶居逢花が転校すること。 別に高校生活が永遠に続くなんて思っていたわけじゃないし、誰かが転校したって僕の高校生活は続く。けれど、今あるものが三年間続くものだと信じて疑わずにいた僕にとって、これは大事件だった。なぜなら僕は、叶居さんに片思いをしているから。気持ちを伝える気など全くないけれど、高校にいる時間だけは、あと一年半のあいだは、目で追いかけることができると思っていたから。もうあと少しで会えなくなるなんて、心の準備が全然できていない。 それでも、このことがきっかけで叶居さ

夏に願いを(3)

開け放たれた体育館の四隅に配置されたサーキュレーターが低く唸っている。ジェットエンジンのようなゴツさだ。けれど大きさの割にはあまり効果を感じず、バドミントンは風の影響を受けやすいから、涼しくない上にシャトルのコントロールがしにくいという微妙さ。感染症対策や熱中症対策はバドミントンにとって敵といってもいいかもしれない。他の部活と体育館を共有しているから、バド部だけいりませんと言って止めるわけにもいかない。 座っているだけで汗が滝のように流れてくる。思い付きでほんの少しだけ移動

夏に願いを(4)

叶居さんが引っ越す八月になり、吹奏楽部の県大会の日がきてしまった。あの日の気まずい気持ちのまま、行くか行くまいか迷ったあげく、誰にも会わないようにギリギリに行って叶居さんにも声を掛けないで帰ることにした。会うのも行かないのも、どちらにしても気まずいと思ったからだ。 天気予報では曇りのち雨となっていて、このところのカンカン照りよりはマシかと思って家を出たものの、湿度が高くて殺人的にうざったい暑さが体にまとわりついてきた。あまり気乗りのしない外出な上、こんなサウナ状態。何かの罰