【創己祭 60分創作】お題:ラーメン
「すみません、塩。チャーシュー追加で」
残業、残業、有給。残業残業、休日返上、休日。
残業残業残業、と続いた木曜日。
木曜日ってのが1番嫌いだ。先週の疲れを持ち越して死ぬ気で働いた月火水、その疲労とストレスがつま先から頭頂までギッシリ詰まっている。それで翌日も仕事。
もう無理、もう限界ってときに、俺はこの屋台に倒れ込む。
「塩一杯。チャーシュー追加ね」
コトン。
置かれた器は、音に反して重厚感がある。
ぐるりと回った雷紋に、単純な胃はラーメン以外を受け付けなくなる。
波波に入ったスープは白く透き通って、ゆらゆら揺れている。
チャーシューとネギがたっぷりのった細麺は、影から綺麗に並んでこちらを覗いている。追加してもらったチャーシューをぺらりと二枚捲ると、折れたメンマと少し焼き目のついたもやしが出てきた。
腹の虫がひと鳴きする。
チャーシューの布団を掛け直して。
「いただきます」
かさついた指先は割り箸と相性が悪いが、その心地悪さもまた、冬空の下ラーメンを啜る良さである。
熱……。
頭だけ見せていた細麺を伸ばす。知覚過敏の歯に沁みる熱さが、外気に震える首筋の鳥肌を助長する。
ずず、ず。
もぐ……ごくん。
うん、旨い。
ず、ずず、と進む手は、ときおり薄い肉をつまみ、ときおり芯のくたびれたもやしを摘んだ。
ラーメンを食べる時の、この食感のアクセントが良い。
なんて下手くそな食レポを流しながら、蓮華を手に取った。
学生時代にあれだけ気にしていたカロリーも、今ではただの幸福剤である。
少しだけ「糖質制限」の文字がチラつくけれど。
ごくごくと、スポーツドリンクでも飲むかのように油の浮いたスープを流し込む。
これがまた、効く。
「ご馳走様でした。お会計、いいですか」
ああ、つぎの健康ドック、いつだっけ。
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