電子計算機使用詐欺罪が成立するのか?
◆弁護士 飛田 博
2022年10月6日 日経新聞38頁
「誤給は被告側が無罪主張」「阿武町事件『詐欺罪成立せず』」「地裁初公判」という見出しの記事から
(飛田コメント)
刑事事件では、訴えられている人は「被告」ではなく「被告人」ですので(「被告」は民事で訴えられている人のこと。)、この記事の「被告」は「被告人」というのが正しいと思いますが、新聞用語としては、「被告」と「被告人」を区別しないのかもしれません。
その点は措いておいて、憲法31条は、刑事罰自体が人権に対する重い侵害であることに鑑み、「何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑事を科せられない。」と定めています。この条文の中には、いくら社会的に非難を浴びる行為や道徳的・倫理的に良からぬ行為であったとしても、その行為を犯罪として規定する法律がなければ、刑罪を科すことができないという罪刑法定主義の保証も含まれていると解釈されています。
記事の弁護人の主張は、まさに、今回の被告人の行為が犯罪として規定されているかを問うものと考えてよいでしょう。
刑法246条の2の電子計算機使用詐欺罪は「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて」と規定していて、「虚偽の情報」や「不正な指令」を与えなくてはいけません。この被告人は、自分の暗証番号を入力して、誤って振り込まれた給付金を別の口座に振り替えたわけですので、虚偽の情報は入力していません。
そこで、誤送金だと知りながら、他の口座に振り替える指示を与えることが「不正な指令」と言えるかどうかが争点となりますね。従来的には他人からパスワードを盗んで、そのパスワードを入力して指示するような場合をいうのですが、それを今回のような事態にまで適用できるかの問題です。
どのような判断がされるか注目したいと思います。
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