民法改正により瑕疵(かし)担保条項はどう変わるのか?

◆弁護士 飛田 博

まずは、次の条文を読んでほしいと思います。これは、東京弁護士会内の最大派閥・法友会の若手弁護士の会である法友全期会の債権法改正特別委員会が『改正民法 不動産売買・賃貸借契約とモデル書式』という本の中で発表した土地建物売買契約書(例)の条文です。

(契約不適合責任)
第11条 買主は売主に対し、本件物件に下記(1)ないし(4)の瑕疵があるなど、本件物件が本契約の内容に適合しないものであった場合、相当の期間を定めて当該瑕疵の修補等、履行の追完を催告し、その期間内に履行がないときは、買主はその不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる。この場合、減額する代金額は、当事者間での協議により決定するが、協議がまとまらない場合には、契約内容不適合がなければ本件物件が有したであろう価値に対して、本件物件の実際の価値との間で成立する比率に従って代金額を減額するものとする。
(1) 雨漏り
(2) シロアリの害
(3) 建物構造上主要な部位の腐蝕
(4) 給排水管(敷地内埋設給排水管を含む。)の故障
 なお、買主は売主に対し、本件物件について、前記瑕疵を発見したとき、すみやかにその瑕疵を通知して、修復に急を要する場合を除き売主に立ち会う機会を与えなければならない。
〔以下、省略〕

この契約書(例)の条文について違和感を感じないでしょうか?この違和感を感じるには2020年4月1日から施行される改正民法における瑕疵担保責任のことを知っておくことが必要です。

これまで、不動産(土地・建物)や中古動産(自動車・機械)などの特定物の売買については、その物自体を売却するという契約なのだから、その物自体を引き渡せば売主の責任は果たしたことになるが(いわゆる特定物ドグマ)、ただ、目的物に隠れた瑕疵(=通常有すべき品質・性能を欠くことがある)ときに売主に何も責任追及できないとすると買主に酷なので、瑕疵担保責任という責任を法律が特別に認めたのだ(法定責任説)と解されていたのです。
それに対し、改正民法では、いえいえ特定物であろうが、不特定物であろうが、売買の当事者は、その合意した一定の品質・性能を有する目的物を売買の対象にすることを意図していたのであるから、その意図した目的物が引き渡されなかったのであれば、契約上の責任が発生するのだ(契約責任説)という立場に立っています。つまり、瑕疵担保責任といっても、それは債務不履行責任と同じだというのです。
そこから、
1.これまでは「隠れた」瑕疵しか責任追及できなかったが、改正民法では、隠れていたか否かにかかわらず、目的物が契約に不適合なものであれば、債務の履行が行われたとは言えないので、売主に対して責任を追及できる。
2.これまでは、瑕疵担保責任は法定責任という前提があったため、そこにおける損害賠償は信頼利益(現実に発生した損害)のみが対象になると考えられていたが、改正民法では、通常の債務不履行と異ならないから、逸失利益(得べかりし利益)も対象になる。
などの違いが導かれるのです。

そして、ここが重要な点なのですが、「瑕疵」という用語は、国民一般からは理解しにくい用語ですし、従来から判例上「瑕疵」は「契約の内容に適合しないこと」と解釈されていたところ(最判平成22.6.1、最判平成25.3.22)、「瑕疵」という用語では、当事者が目的物上のキズを問題にしていなくとも客観的にキズがあれば売主に責任が発生するなどいう誤解を招くおそれもあるので、積極的に使わないとの決断がなされ、民法典からは一掃されてしまったのです(「一問一答 民法(債権関係)改正」(275頁)参照)。

ですから、上記の条文で、「本件物件に下記(1)ないし(4)の瑕疵があるなど」とか、「当該瑕疵の修補等、履行の追完を催告し」とか「前記瑕疵を発見したとき」とか、「瑕疵」という用語を使うのは、民法改正の趣旨をよくわかっていないと言わざるを得ないと思うのです。私としては「欠陥」とか「不適合」とかもっと現代的な言い回しにした方がいいと思います。

とうわけで、上記の法友全期会の本については、どうして多くの弁護士が関与しながら、このような記載がのこってしまったのか不思議に思います。
ただ、いずれにしても、改正民法は2020年4月1日から施行されますので、クライアントの皆様にとっては、契約書式の見直しが急務になりますね。

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