死神紫郎 コラム「声明文」2020年6月号(Vol.5~Vol.8)

Vol.5「傘刀狩令」

駅構内で傘を侍のように帯刀して歩く痴れ者が居るが、
一体どのような神経をしているのだろうか。
剣術を嗜んでいるつもりかもしれないが、だいたい危ないじゃないか。

宮本武蔵も「五輪書」でことあるごとに、
剣術はよくよく鍛練しなければならないとか書いていたが、
帯刀した刀を前後に振り、
絶えず後ろの人を鞘で打ちのめせなどとは一行たりとも書いていない。

フリースタイル暴力、傘は差すものであって、刺すものではない。

後ろの歩行者のことなど気にしない、我が道を行くアティテュード。
となるとそいつはパンクス。

モヒカン頭に加えて「喧嘩上等」、「愛羅武勇」、
あとは良く分からない変な十字架のマークやドクロのマーク、
覚えたてのアルファベットの羅列が腕に彫られているに違いない。
と偏見たっぷりに観察すれば、
不思議なくらい見た目だけは凡庸な男、凡庸な女なのである。

凡庸。

そしてその手合いに限って、腕を大きく振りながら歩く。
何故だ、どうしてだ。
傘がブンブン前後に振れるのだから余計に危険だ。
腕の振りだけなら、となりのトトロに出てくるメイちゃんに匹敵する。

階段では更にその危険度が増す。
傘の先端が後ろを歩く人の眼の位置にロックオンされる。
特にメイちゃんくらいの子供は危ない。

こんな無差別攻撃を許してはいけない、アベ政治をゆるさない、
NHKをべっくわす!という気持ちである日、
前を歩く侍に「あのちょっと、後ろ、危ないんですけど」
と努めてニュートラルに声掛けてみたことがある。

逆ギレされるか舌打ちくらいはされるだろうなと思っていたのだが、
「あ、すいません」
と爽やかに剣先を床に向けてくれて拍子抜けしてしまった。

おそらく、これをやる人たちは、自覚していないのだろう。
なんとなく、帯刀してしまうのだろう。

なんてことだ。

だが、自覚のない暴力は何よりタチが悪い。

これで誰かを怪我させてしまった場合、
「こちらはそのつもりはなかった。
もし、傷つけてしまったのなら申し訳ない。」
という、最近の政治家みたいな謝ってるのか謝っていないのか、
よく分からない謝罪をしてきそうな気がする。

何故って自覚がないから。

さらに、
「間違いは誰にでもありますから。」
と本来は被害者が加害者を気遣って言いそうなことを、
加害者たる侍側が言ってきそうなので、
国の偉い人たちは一刻も早く、秀吉に倣って刀狩令を。


Vol.6 「死神紫郎が読んだ古本」

ここから先は

2,614字

¥ 198

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?