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45姉botをやってた頃の話

つまり話題になりたかった

もう数年前の事になるのだろうか。
当時の私はドルフロ創作勢の一員であった。黎明期にライバルが少ない事を理由に参入し、書けばとりあえず100ブクマまでは行くくらいの立ち位置にいた。しかし大衆ウケなど程遠いニッチな創作スタイルと持ち前のコミュ障によりツイッター友達もおらず、作品を上げても特に語られることもない。そんなポジションだ。

隠さずに言おう。
ちやほやされたかった。

ならツイッターで誰かと絡めよとかそーゆーのはいい。だってめんどくさいもん。硬派な作風気取ってないでもっと色々書いてみろよとか、そーゆーのも言わんで良い。「作品は自分の為に云々、心の中を作品を通じて描き出して云々」みたいな事をいいトシしてほざいてるめんどくさいガキだったのだ。そのクセ数字は欲しいのである。
そんなめんどくさい私が泣きついたのは、艦これからの創作仲間だったねこ氏である。

「うわーんねこえもーん、簡単に人気者になれる道具出してよー!!!」

要するに私はこういう事を言った。すると創作歴も長く造詣の深いねこ氏は、私に呆れる事もなく「しょうがないなぁエコ太くん(当時のハンドル)は」とばかりに一つのアイデアをくれたのだ。

それが、人力botだったのである。

ガチレズ大井botのひ孫くらい

艦これ勢にとってbotというのは結構馴染みが深い。
当時話題を博したガチレズ大井botのせいである。あれはまだツイッターが出始めの頃だったろうか、このテキストの世界を活かして、当然いろんなコンテンツが試された時代だったのである。その中で特に話題を博したガチレズ大井botというものがあった。これのせいで公式アニメで大井がレズコプターなる珍妙な技を披露するに至った訳だから、その影響力というかミーム汚染力たるや相当である。
そういう物があった為、そのやり方はよく把握している。botの呟きで日頃のコンテンツを維持して、たまにツイート小説を挟んで話題を作るみたいなスタイルだ。正直、なんか簡単そうに見えた。

当時の私が苦手だったのは投稿ペースの維持と読んだ人へのアフターケアだった。なろうが毎日投稿必須といわれるこのご時世、どんどん作品を出し続けなければあっという間に忘れられてしまう。面白い作品ひとつ書けば人気者になれる訳ではないのである。
ファンを増やす、というのはとても大変な事なのである。

しかし、botならほっといても定期的に呟いてくれるから、忘れ去られにくいだろう。これはいけるのではないか。アイデアが固まって行くにつれて、私は浅はかにもニヤニヤしていた。

『UMP45から連絡報告bot』のあらまし

botをやる上で、意識したのは世界観の維持である。
「45姉の通信が悪意をもって外部に傍受されてしまった」という体で、45姉の普段の通信をツイッターに放流するのである。45姉は途中でそれに気付くが、しかし黒幕を炙り出す為に敢えて泳がせ、404のメンツとの日常を外部に垂れ流していく。
ここでフォロワーは「たまたま45姉の通信傍受を見てしまった民間人」という設定であり、イタズラ好きの45姉も面白がってたまに来る民間人からの通信に返事をしてみたりする。そんな設定を用意した。していたのである。

だから公式設定を読み漁ったり読まなかったりして、45姉のキャラを深掘りしていった。実は「本当は頭が良いのに、人にはヘラヘラ振る舞ってるキャラ」というのがとても性癖で、内面の色々を押し殺すのが上手い45姉はだいぶ好きだったし。
後にdeep diveが来て、「過去に死別している人物がいる」「自身に掛けた呪いのせいで死ねない理由がある」といった設定を当てたり出来ていたので、キャラ造形としてはなかなかのモノだったんじゃないかな、とは今でも思っている。

最初が大変、その後も大変

さて、botというのを皆様はやった事があるだろうか。あれ、最初がクソ大変なのである。
大体100位のツイートを用意して、ひとつづつ登録していくのがひたすらに面倒くさい。しかもその中に世界観を描き出していかないと行けないので、ツイートが独立していては良くない。どんな隊員とどんな日常を過ごしているのかを描く様に意識したりした気がする。

そして、設定が終わればいよいよ運用開始だが、まずは認知されなければ始まらない。当時の私の目標に「絵師をナンパする」という物があったから、とにかく45姉のイラストをリツイートしまくったし、45姉の話をしてるアカウントにいいねしまくった。
目論見通りというか、「なんか変なアカウントに絡まれた」と言ってくれる人が現れたが、その多くは文字書き勢、つまり古巣の人達であった。知り合いというほどではない。だって私コミュ障だったし。

そんな訳で元々名前を知ってる人達と、初対面のフリしての交流が始まったのである。罪悪感はなかった。だって私45姉だもん。元の私とは別の人だもん。

ちなみに特に拘ったのは、いいねの使い方だ。
いいねは相手に通知が飛ぶ。これを「監視しています」という意味に取らせる事が出来るのだ。だから45姉の悪口言ってる連中は積極的にいいねした。「なんか怖いのに監視されてる」みたいに言ってくれればこっちのもの。
当時のbotにリプをくれた人は分かるだろうか、「本当に45姉の通信がツイッター上に出現した」みたいなモノをコンテンツの面白さに位置付けていたから、私は45姉としての経験からお悩み相談を受けたり、言動を監視されたり、バカな話をしたり、そんな感覚を楽しめたのではないかと思う。
余談だが、当時の私は「45姉は貧乳」と言われると本気で落ち込んでいた。もはや私なのか45姉なのか分からなくなっていた。

そんな風にして、主に字書き界隈で45姉botは(多少の)話題になっていったのである。
ちなみに絵師さんはあんまり釣れなかった。あの人達いいねとか腐るほど貰ってるから気付いて貰えなかったのか、変なモノに絡まれ慣れてるのか、それはよく分からない。

誤算

誰だよ手間かかんなさそうって言った奴は。
まぁこれが面白かったけど、結構大変だったのだ。そんなに構わなくて良いわけもなく、空き時間はほとんどツイッターに張り付きでイラスト巡回したり、リプしたりする事になっていた。リプというのも重要なコンテンツだから、手は抜けなかった。
本当に45姉と喋ってるみたいな感覚に陥って45姉の闇をリアルに受け取れてしまったのか、私とのやり取りで体調を崩した人を何人か知っているが、代償はそこそこ大きかった。
まぁそこまで人の心に爪を立てられれば物書きとして本望ではあったけど。

ちなみにその中にいたのがけんろん君であり、たぬきである。
けんろん君は私とのやりとりで職場で心配される程体調を崩したと後に聞いたが、こっちだってこういうコンテンツなのだから手は抜けない。いやあの時はごめん。
たぬきといつ頃から交流があったかは覚えてないが、45姉は極度の人間不信を匂わせており、しかし人形としてのアイデンティティに悩む繊細な子だったから、その辺はいかにもたぬきの性癖くさいなと思う。
今でも付き合いの続く友人を得たことは、bot運営の大きな収穫のひとつだった。

しかし、である。とにかく大変だったのだ。

しばらくした頃、リアルの方で当時お付き合いしていた人と同棲する事が決まり、余りスマホばっかり眺めてもいられなくなってしまっていた。そんな事情もあり、しばらく返信をしなくなったり、botの自動ツイート頼りのコンテンツになってしまう時期が出来てしまった。

するとどうなるか。
自分の中にはっきりと存在していたはずの45姉が、いなくなってしまったのである。

「こういう時45姉ならどう考えて、どう返事する」という事が当時の私には明確に分かっていた、はずだった。しかしそれが分からなくなってしまったのである。
リアルにかまけているうちに45姉に愛想を尽かされてしまった。「私みたいのにかまけてないでさ、もっと自分の事ちゃんと考えないと後悔するよー」と言われてる気がした。45姉ならそう言うだろう。

そうして、私は内緒にしていた製作者もさくっと明かして、bot運営を止めてしまおうと決めたのである。

お前ら先に言えよ!!!!

ひとつ弁明をしておく。
私は知らなかったのだ。マジで。

私の元々の作品なんて皆興味ないと思ってたし、交流のあった人達が読んでたとも思っていなかった。よりにもよってネタバラシの数日前、「自分の好きな字書きが失踪してとても残念だ」とけんろんが元の私の名前を上げていた事も私は知らなかった。

だからまぁネタバラシと言っても、せっかくだからたぬきに私の書いたスプリングフィールドを読んで欲しかっただけである。それでたぬきに「これ私が書いた春田さんなんだけどー」と言って元のアカウントの作品を投げてみたのだ。

その瞬間、付き合いのあった字書き共が揃って椅子から転げ落ちた。

「あなただったんですか!?」とか言われても、最初は意味がわからなかった。いや私の話なんて読まれてないと思ったからbot始めたんですけど???
黎明期から創作始めてたご利益というか、実はそこそこの数の字書きが私の話読んでたらしい。先に言えよあんたら。45姉botを創作物としてライバル視してた人がいた(後で知った)が、その人も元の私のテキストを読んでいたらしい。「調子乗ってすいませんでした!」とか言われたけど、元々そんな大したモノでもない。
とは言えそんな風に思ってくれてたのを知れたのは素直に嬉しかった。出来ればこんな面倒くさいコンテンツ始める前に教えて欲しかったけど。

まぁそんな風に皆驚かしたり、最後に話題提供出来たのは良かったなぁと、心から思っている。たぬきにも「あれは名シーンだった、もう一回やって」とせがまれるが、その為に一年以上仕込んでられる訳ないじゃん。勘弁してよ。
ちなみに図らずも失踪したフリして一年以上おちょくって遊んでた形になってしまったけんろんには、未だに当時の事を恨まれている。ごめんて。本当に知らなかったんだって。

そんな風にして、一年くらい掛けたbotは終了したのである。今もアカウントは残してあるから、行ってみれば当時の面影が覗けるかも知れない。
もうちょっとぶっ飛んだ事をすればフォロワーはもっと増やせたと思うが、しかし世界観を崩したくなかったからそれはしなかった。
実際に創作物のキャラが自分に向けて話しかけて来るという面白さを享受してもらえたなら、幸甚に耐えないものである。

思い入れの深いbotになったし、色々やった。
これに関しては、また話す事があるかも知れない。

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