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写真家 土井信夫さん

土井信夫さんの写真集で、昭和55年発売の初版本が今、手元にあります。

当時の定価は25,000円ですから高価な本だったと思います。入手価格は1001円・・・。状態はとても良く、カラー写真も鮮明で往年を知ることが出来ます。

写真が綺麗なだけでなく、一枚の写真で花や葉、咲いている背景までよくわかって、土井信夫さんという写真家の想いを感じるものでした。

しかしそれは後になっての感想で、最初に開いてビックリしたことがありました。

「謹呈 ◯◯ 土井信夫(印)」

ひと筆添えられていたのです。これ、土井信夫さんご自身の筆ですよね。

古本ってこんなこともあるんだなぁと、思いつつ。

土井信夫さんがその方へお贈りした本が、巡って私の手元に来た形です。

少し調べてみたら、土井信夫さんが写真集を作るに当たり、お世話になった方として名前の挙がった方々の一人に、そのお名前を見つけることが出来ました。お礼に、初版で出来たての一冊をお贈りしたんですね。

めくってみたら、

愛読者カードも。
郵便番号5桁ですね。

最後の最後まで目を通してみて、土井信夫さんが巻末に寄せたメッセージが心に響きました。

要約すれば、4年もの撮影を通して早池峰のすばらしい自然と対峙したなかで、別の側面として「失われつつある現状」と「観光開発」に大きな懸念を示した内容でした。

登山客のマナーや認識の低さを訴えた「盗掘」や「踏み荒らし」、車道の舗装化であったり、登山バスの運行計画だったりします。

その前に、環境保全が先でしょうと。山に来るな、ではなく正しく知って楽しもうよと。

一人でも多くの方に早池峰のすばらしい自然と現状を知ってほしい」ことが出版の動機といいます。

そのような内容を、学者風情ではなく、愛好家としての側面で、厳しくも暖かく表現してくださっていると、私は感じます。一人でも多くの方へ、伝われば良い・・私も同じ思いです。

また、1935年にハヤチネウスユキソウを「早池峰山の固有種」であると研究発表した北村四郎さんが、この写真集に寄せられた3ページにも上る「序文」、最後の一節が心を震わせます。

終りに、植物を不注意に踏みつけたり、枝を折ったり。植物を根こそぎ採ったりすることのないように願いたい。著者らが読者に代わって植物を撮影し、観察資料を提供するのも、植物を大切にする悲願から出ていることを思って頂きたい。

「早池峰の花」土井信夫写真集より

全文はぜひ、お近くの?図書館で。

さて、毛筆を見て思ったことは、この本の取り扱いをどうしょうか?でした。

本のオーナーと思われる方へお返しするにも、既にお亡くなりになられています。「一人でも多くの方に」というご意思の土井信夫さんにお返しするのも変。そもそも、連絡先さえわからないし、調べるのも失礼な話。

そこで、地元の図書館に寄贈できないか模索しましたが、既に花巻全体では8冊、大迫図書館では4冊も蔵書があるとのこと。

感動しました。

有るべきところに有って、誰でも閲覧できるようになっている現状を知って、土井信夫さんのご意思が実現されていると感じたからです。

私の手元にある本は、いつか機会が訪れて、必要な方のもとへ渡るまで、大切にしようと思います。

早池峰山は、記録に残る1866年に須川長之助が調査で入山してから、牧野富太郎が加藤泰秋らと入山した1905年のあたりは、「珍しい花がある」と植物学者の間で有名になり、まるでゴールドラッシュのような様相だったのかもしれません。

その学者らが、花や山容の特異性から保護を訴え始めるも、観光開発が推し進められ、一方では守るべき地元住民の山岳信仰の側面もありました。

この構図は今も変わってないなぁと感じます。悪いのは誰だ?なんて言い始めたら、それはそれで残念な行為です。本当に守るべきものから視点がずれてしまって、人の利害しか残りません。

自分がまず出来ることって言ったら、

「山に行かない」ことだけど・・・行けるチャンスがあるうちは行きたい。

であれば、浅沼利一郎さんが言うように「歩かせてもらっている」意識と実践しかないと思う。

それが一人でも多くの方に広まれば、もっといいと思う。


土井信夫さんの略歴です。
1937年 山形市に生まれる。
1960年 岩手大学卒業

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