A Short Hike プレイ感想

都会暮らしの少女クレアが親戚のメイおばさんに連れられ、自然豊かな島の公園を訪れた日のこと。携帯電話の電波も届かない場所だけど、ホークピークの山頂なら届くかも?
クレアは電波を求めて、ホークピーク山頂へハイキングへ出掛ける……
と言った具合の、おおまかなあらすじ。

・ハイキングの最中に起きる、様々な出会い

一直線に目的地へ向かうのもいい。主人公クレアの目的は、ハッキリしているのだから。
ゲームが始まって、おばさんから目指すべき場所を訊いたおれが真っ先にした事は、
海に突撃する事だった。このゲームの目的地はホークピーク山頂だ。そこへ至るまでの道程は
なにひとつ決められていない。いわゆる、オープンワールドというやつである。
オープンワールドと言っても、短編ゲーム用に作られた世界なので規模はそれほど大きくない。
けれど、ハイキングをして登っていくと言う事から、高低差のあるフィールドで
加えてクレアは小鳥の少女。その翼を生かして滑空したり、
上昇気流に乗って空高く舞い上がったり……
小さい世界を大きく飛び回る事が出来て、実際に動ける範囲以上の広さを感じさせる。
そのどれもが、少女を通してプレイヤーの冒険心をくすぐられる様な作りの地形であって
何を目指す訳でもなく、島を観光する気分で歩き回り、飛び回っているだけでも面白い。

そんな事をしていれば当然、おれの頭の中からはすっかり登頂すると言う目的が消える。
なにせ、この島にはたくさんの人達との出会いがあり、冒険があり、
クレアは頂きを目指す目的を持ちながらも、寄り道をしていくのだ。
小さい頃の家路の途中、普段通らない道を通ったり、敢えて遠回りをして家に帰ったり。
そんな『些細な無駄』の中に見い出していた新しいものへの欲求や発見と言ったものを
このゲームを通して少し思い出した気がした。先に言っておくが、このゲームにおいて
無駄な寄り道なんてひとつも存在しない。知り合った人物の悩みを解決したり、
一緒に遊んだり、集めたコインで買い物をしたり、島中に隠された宝物を探したり。
そのどれもが、クレアにとってきっと忘れられない思い出になるからだ。
そしてプレイヤーにとっては多分、山頂を目指すよりもこれらの寄り道、つまり
メタ的に言えばゲーム内の収集要素を網羅する事が何よりも『楽しい』と思える……
そんな作りになってるなぁ、と思った。

・『あっと言う間』の『短い一日』

このゲームは、ジャンルで言ってしまえば短編のアドベンチャーゲームだ。
最初に明確な目的が示され、プレイヤーは最終的にそこを目指す事になる。
自然豊かな島、そこから頂きを目指すごとに険しくなっていく山肌。
登っていくごとに過酷になっていく環境。このゲームで障害と言える様なものは
そんなごく当たり前の自然環境ぐらいでしかない。
それも、クレアにとって乗り越えるのは苦ではなく。不自由だと感じる事は殆ど無い。
高低差の激しい山登りに臨むにあたって、クレアがより高く登る為に必要なアイテムを
寄り道によって獲得する必要はある。それも、用意された全てではなく
最低限の数だけがあれば山頂へ至る事も可能な作りになっているはずだ。
けれど集めれば集めるだけ、クレアはより自由な動きが出来るようになって
島を動き回る為の利便性が増していく。集める為に割く労力は殆ど掛からず
簡単なおつかいをこなしたり、人々の悩みを聞いてあげたり、意外な場所に落ちていたり。
オープンワールドの島を好きに動き回る事こそが、このゲームの本当の目的であり
それゆえに、黄金の羽根と言うクレアの強化アイテムは
ゲームにありがちな『集めさせられている感』が殆ど無いのだ。
どこにあるんだろう? こうすれば手に入るのだろうか?
あの人の悩みを解決すればいいのかな? まさかこんな所にあったなんて。
クレアの小さな冒険を通じて、プレイヤーであるおれは次々に発見を体感する。
小さい島が舞台ではあるけれど、それが見せる風景や景色に殆ど同じものは無い。
何処に行っても真新しい発見があり、そこを探索してみたいと思う欲求が沸き起こり
おれの操るクレアの頭からも山頂を目指す事が抜けてしまっているのではないかと言う程に
楽しさの為の寄り道を延々と続けてしまう。ある意味の時間泥棒だ。

そんな楽しい時間もいつかは終わりが来る。
「もう、そろそろいいかな?」と思い立った時に、ようやく目指すべき場所へと向かった。
そこに至るまでにクレアは多くの出会いと冒険を経ており、集めた20枚の黄金の羽根が
クレアを何処へでも導いてくれるようだった。標高が高くなれば気温が下がり
クレアの羽根は凍りついてしまいそうになるが、湧き出る温泉に浸り羽根を休ませながら
険しくなっていく山をひたすらに登っていく。
途中では登山用の道が崩れてしまっているのか、殆ど断崖絶壁になっている様な箇所を
飛んでいく事もあった。それでもクレアは目的の為にめげず、邁進していったのだ。
そうして辿り着いた地点。ホークピーク山頂。書いている最中に何だかレビューめいてきたが
これを読んだ人が「ちょっと気になるな」って思った時にネタバレにならない様に
詳しく書く事は割愛させてもらう。
苦難の登山を乗り越えて辿り着いた、頂上から見える景色。
そして『目的』の為に目指していた頂上で果たされる、ひとつの出来事。

プレイヤーの『あっと言う間』の『短い一日』は
ホークピークを下山し、メイおばさんへ報告する事でその殆どが終わる。
もう少しだけ遊び回ってもいいし、まだ何かやり残した事があるならそれを為してもいい。
でもおれが動かしたクレアは、ゲームを始めて2~3時間もがっつりと寄り道に奔走し
島で出会った人物たちとの親睦を深め、島の宝物をたくさん見つけて、
ついでにものすごく稀少そうなアイテムまで発見してきて、これ以上無いぐらいに
充実した一日を過ごしてきた。ずっと歩き回ったり飛び回ったりで疲れただろう。

スタート地点であるロッジに戻ってきて、疲れた身体をお昼寝で休める事にする。
多くの出会いと冒険を経たクレアの『あっと言う間じゃない』『長い一日』はそこで終わる。
あとは、穏やかな音楽と共に短いエンドロールが流れてゲームが終了する。

・小さい島に濃縮された冒険と体験、短い時間に詰まった想い出

このゲームは、短編のアドベンチャーゲームである。
おれが遊んだ際には大体2、3時間ぐらいで山頂に辿り着いて目的を果たしたぐらいだ。
明確な収集要素である『羽根』は全部集めたし、出会った人達が抱えていた悩み事などは
出来る範囲で解決しきってから、ゲームを終えたと思っている。
けれどまだやり残した事はありそうだし、何をする訳でもなく歩き回るだけでも充分に楽しい。
ここまでストーリー性については殆ど触れていなかったが、短編ながらもしっかりとしていて
『何故クレアは山頂を目指すのか?』と言う疑問が解消される瞬間こそ
数時間程度であるが、掛けた時間に見合うか、それ以上のカタルシスを得られるはずだ。
もしこの感想を読んで「A Short Hike」が気になったのなら是非手に取って遊んで欲しい。
忙しい日々の合間に挟み込めば、穏やかな世界観と音楽がきっと癒やしになってくれる。
優しさと穏やかさで構成された本作は、この感想文の提出を依頼してくれた人物にとても似合っている作風だな、と思った。

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