You and Me/保護施設①
あいつと初めて会ったのは、俺が施設に入れられてから1ヶ月くらい経った日だったと思う。すっかりナニカを殺すのがクセになってた。その時は同室の、腹の立つ喋り方をする威張ってばかりの女の子を殺して、引き摺り歩いた夜だった。どこに捨てようか、それとも適当に放り投げとくか迷っていて、その時におにーさん、もとい恢と出会った。
見られた。とは思ったが、俺の引き摺っているモノを見てあいつは、堪えきれないって感じで唇を噛み締めた。
「なぁ、ソレ。ソレさぁ…あんたが殺したのか?」
「俺が引き摺って歩いてるんだから当然だろ。」
そうじゃなかったらこんなモノ、持ってないだろ。そしたらあいつ、俺に詰め寄って、バカみたいなこと言ったんだ。
「ソレ、俺にくれよ。」
……訳わかんないよな。死体を寄越せって言うんだ。価値なんかありゃしない。死んだって言う事実を欲しがるなんて頭のおかしいヤツだって言ってやった。
「欲しいんだよ、俺は。死んだ後のソレが。あんたには価値がなくても、俺には価値があるんだよ。死んだ事実なんかどうでもいい。ただ死体があるならそれでいい。あんたが生き物を殺すように、俺は死体を集めるだけ。ミニカーのコレクションと変わらねぇよ。」
ミニカーのコレクション。とか抜かしやがって。事実はどうでもいい?価値がある?何言ってんだこいつ。頭おかしいんじゃねぇの。でも、こいつに死体を渡せば処理には困らない。お、これって名案ってやつじゃないの。
「俺と組めよ。死体はもらってやる。」
「……同じこと考えてたぜ。俺は殺すだけで充分。処理に困ってたんだ、超ラッキーって感じ。殺す俺と保管するお前、WIN-WINじゃん。」
「保管はしてねぇけどな。」
いいからその死体を握る手を離せってんだ。俺の手ごと握ってやがる。妙に汗ばんでて、それなのに冷たい。いいとこの坊ちゃんみたいな服着てるクセにヘンな趣味してる。でもまぁ、処理には困らないし、良しとするか。
「俺、紫苑って名前。お前は?」
「知らん」
さらりと。なんてこと言うんだ、名前くらいあるだろーに。
「知らんってお前、名前くらいあるだろ。」
「前の名前使ってたら、身バレするだろ。ヤだよ俺そういうの。有名な家だったから。」
「……いいから。俺そんなの知らねぇし。」
いや、ホントに。なんにも興味はなかった。自由研究でスズメを殺した時から。生きてるものを、命あるものを失うのは容易い。いのちは大事にしましょうなんか抜かしてるクセに、いじめには見て見ぬふりをした担任の先生より、よっぽど俺の方がいのちに対して誠実だとすら思ってる。遅かれ早かれみんな死ぬ。なら、今死んでも同じだろ。知ってることもあとで忘れるなら、知らなくても問題ないだろ。
「……恢吠夛雀。」
「あ、知ってたわ。それ。お菓子作るのすげぇ上手なトコだろ。うんでもそれ以上は知らない。だから別に何も言わなくていい。」
カイハイ。カイハイタチエ。俺も知ってる。パティシエ家系で有名な名前。3年前に飛行機事故でここの次女が死んだって報道されてた。こいつ、そこの子か。でもあいつの表情は対して変わらなかった。知らないと言っても同じ顔をしてただろう。それか、施設に来た原因を探られずに安心した顔をしたかもしれない。どうだか。こいつ、考えてることがサッパリわかんない。
何も考えていないし何か考えている。よくわかんない表情。そんな表情を崩して、こいつは俺の手から死体を奪い取った。まるでダンスをするような手つきで死体を抱き寄せる。そしてなんでもない顔で話を続けた。
「あっそ。で?あんた部屋どこ?」
「南館の404号室。」
「うわ、真逆じゃん。俺東館の201号室。」
「施設長に言って相部屋にしてもらおーぜ。施設長、会ったことあるけど融通ききそうな人だったぜ。」
「そうかぁ?あの人絶対聞かなさそーだけど。」
ウーン、どうだか。施設長は複数いるとか噂があるけど、あながちウソじゃないかもな。
「いいよ部屋は。それよりあんた早く部屋に戻ったほういいぜ。」
「なんでだよ?」
「見回りしてるヤツがいるから。毎日3時前になると本館に急に現れるんだよ。俺一昨日ここに来たけど、こえーよ、あいつら。」
見回り……?聞いたことないな。一昨日来たばかりなのにそんなこと知ってるのか。しかも本館。お前、東館の部屋だって言ってただろ。やっぱおかしいよこいつ。
「……ふぅん。その忠告聞いといてやる。じゃーな夛雀。また会おうぜ。」
「恢って呼べよ紫苑。女みてーな名前で嫌いなんだ。またな。」
南館への階段まで恢は俺を見つめたままだった。死体を抱いて、お坊ちゃんみたいな服を血だらけにして、俺が階段を駆け上がる音を聞くまで、多分ずっとそこにいたと思う。俺は階段を上がって部屋まで戻ったから、その後どうなったのかはわからない。けれど起きて次の日、俺が殺した女の子の話題は一切なかったことと、昼間の自由時間に会った恢の服は昨夜と変わらなかったこと、その2つはやっぱり、気持ち悪いなと感じた。
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