手紙

長年、好きなバンドにファンレターを送るタイプの人間だった。


書き始めたきっかけは、当時彼らが出していたアルバムのモチーフが散りばめられたレターセットを見つけたこと。
たったそれだけ。
わたしが大学2年生の頃のことだった。


きっかけとしてはとても些細なこと。
だけれども、ファンレターを書く動機としては十分。
こんなの見つけたんですよ!見てください~~!とでも言いたかったのだろうか。
書き始めた頃の記憶は、もう断片的にしか思い出せず、分からないのだが。


別に手紙を書くことが特段好きだったわけではない。
小さいころから本を読むのは好きで、国語もそれなりに得意な方だったが、なりたい職業があったから理系を選択した。
自分は文字を書くのが好きなのかもしれないと思い始めたのは、最近のこと。


強いて理由をあげるとするならば、手紙でしか彼らにメッセージを送れなかったから、かなと思う。


当時の彼らにはまだファンクラブが無く、メッセージを送る場がなかった。
加えて、その頃はTwitterが新しいSNSとして徐々にメディアに取り上げられるようになったばかりの頃で、DMを送る文化などもなかった。(そもそもDMって存在してた?)
ライブ終演後のアンケートも手書きで、まだまだアナログな時代。


わたしが手紙を書き始めたのも必然だったのかもしれない。


そんなこんなで始まったファンレターを書き綴る生活は、彼らが解散を迎えるまで、約12年続くこととなる。




だいたいライブの前日に手紙を書きあげるのがわたしのルーティン。

まず、下書きから始める。
A4の白い紙に、とりあえず書きたいことをただひたすらに書いていく。
読み返しながら、この文章はここに持ってきたほうが良いな、とか、この文は長すぎるからもっと簡潔にしなきゃ、とか、これはまあ書かなくても良いか、とか、これで伝わるかな…とか思いながら文章を作る。

下書きを書き終えたら便箋に清書。
それが終わったらすぐ封筒にいれ、閉じる。
そこだけは勢い。勢いが大事。
じっくり読み返してしまったら、もう恥ずかしくて手紙を出せなくなってしまう。

内容としては、リリースされた曲の感想、詞の解釈、自分の好きなポイントなどがほとんど。
とにかく、この曲が好きで、こういうところが素敵で、ここがこのバンドっぽくて好きで、みたいなことをひたすら書いていた。と思う。
手紙の内容は、わたしと、手紙を受け取った彼らだけのもの、だと思っているので、詳細を外に出すことはない。
まあ基本的にいつも思っていることを書いてはいたのだけど。



手紙の最後には、いつも、「読んでくださってありがとうございました」と付ける。
いつからか、この言葉で締めるようになった。

ファンレターというものは完全に自己満でしかなく、自分としては書いて送った時点でもうゴールで、最終的に読んでもらえるかどうかはぶっちゃけどちらでも良いのだけど、受け取ってくれた彼らは優しいから読んでくれる、というか絶対に読む、読んでるって言ってる。
それならば、この自己満で長い文章を読んでもらうために貴重な時間を使ってもらうのは忍びないが、書いてしまったからには送りたい、押し付けちゃってごめんなさい、という気持ちも込めて、この言葉を書いていた。


…………いや、重いな。





とは言え、そんなに頻繁に送っていたわけでもなく、多くても年に1、2回ほど。
コロナ禍でライブに行けない時もあったので、書いていない年もあったりする。


どうしてこんなに長い間手紙を書き続けられたのか、自分でもよく分かっていない。
何が自分を突き動かしていたのか、彼らの解散から1年と少し経った今でも分からないままだ。


ただ、好きだった。好きだという気持ちが伝われば良いと思っていた。
それがたとえ何にもならなくても、その気持ちが伝われば良いと思っていた。
ただそれだけだった。


そう思わせてくれる存在に出会えたこと、幸運だったのかもしれない。
好きだった間に生まれた感情は、決して綺麗な感情ばかりではなかったのだけれども、わたしは確かに幸運だったのだ。
それだけは忘れずにいたい。



最後に、わたしが手紙を書くときに、いつも大切にしていた彼らの歌詞のワンフレーズを添えて終わりにしたいと思う。
読んでくださってありがとうございました。

たくさんの愛を集めたら
言葉に乗せて届けよう
いつだって君が手にした時に
優しい気持ちになれるように

『あ』『い』をあつめて / WEAVER




(終わり方が、迷子)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?