ライター

32歳にして初めてライターを買った。
好きなバンドのグッズとして出たからである。

父も弟2人も喫煙者だった。親戚のおじさんも、亡くなった祖父も。
もちろん、憧れたバンドマンも。
ゆえに、見慣れていたアイテムだった。
だからこそ、失念していた。自らは扱ったことのないものである、ということを。


見よう見真似でギザギザに親指をかける。

回してみる。

当然のように点かない。


回す。点かない。回す。点かない。回…あっ火花……点かない。


指が痛くなってきた。赤くなってるし、しかもなんか黒い汚れまで付いている。なんで?
遠くから眺めているときは簡単そうに見えたのに、そううまくいくもんではないのだな、なんて思った。


気を取り直して、回す。点かない。回す。点かない。


見兼ねたフォロワーがアドバイスをくれた。

やってみる。点かない。回す。点かない ………………
半ばヤケになって思いっきり回してみる。


ジャッッッッ

という、勢いの良い音が鳴って、火は点いた。
しばらく時が止まった。

のちに、驚きと、謎の感動。
火が点いている。自分の手の中に炎がある。
大人の階段を登ってしまった気分(すでに立派な大人だが)。
指、いてー


火が点いたことがうれしくて何回も回した。
10回に1回くらいは、点くようになった。

煙草を吸うあの人は、どんな気持ちでライターに火を点けるのか、少し知りたくなった。
だけど、きっと、わたしにはすべてを理解することは出来ないんだろうな、とも思った。
向こう側の世界。




一体、わたしはひとりで何をやっているのだろうか。
ただ、好きなバンドの新しいグッズを買って、使ってみたかっただけだった。
なのに、こんなにも苦戦することになるなんて。この歳になってもまだ新しい感動に出会えることに気付くなんて。noteを書いてしまうほど感情を動かされることになるなんて。


ありがとう、ZION。5月29日、わたしはまたひとつ大人になりました。

(ライター初体験の感動を残しておきたかっただけの、日記)

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