チバユウスケへの手紙

チバユウスケ様

明日はあなたのお別れの会があります。ゼップダイバーシティで。
それまでに、あなたに伝えたいことを全部出しきってしまわないと、涙も全部出し切ってしまわないと、明日の仕事が手につかないので、はじめてあなたに手紙を書きます。

まず最初に言ってしまうと、僕はあなたに対して誠意のあるファンではなかった。バースデイの単独ライブには行ったことないし、新譜のチェックも欠かしていたし、フェスでやるような有名な曲しかたぶん知らない。それは本当にただの怠慢です。
だからあなたと僕の間にある思い出というのは、ウォークマンから伸びるイヤホンとか、CDプレイヤーとか、たまにレコードプレイヤーとか、そんなのが大半です。だからあなたが死んでしまったことを知ったとき、「もう新譜が聴けないなんて」「もっとライブに行っておけばよかった」より先に、「こんなにも僕にたくさんのものをくれたチバユウスケに僕は一度もありがとうを言えていないんだな」が出てきた。

あなたに出会ったのは中学生の時、音楽好きの友人が「かっこいいバンドがある」と教えてくれたのがきっかけだった。もうそのときミッシェルガンエレファントは解散していたけど、そいつと僕はブルーハーツが好きでつるんでいたのでバンドは解散しているものぐらいに思っていて、残念さはあまりなかった。アベフトシももう死んでいた。僕は人には自分の好きなものを押し付ける癖に人からすすめられたものは全然効かない自己中人間だから、ミッシェルガンエレファントくらいだな、自発的じゃなく好きになったバンドは。(あとはハヌマーンかな)
とても月並みな言葉だけど、ミッシェルガンエレファント(とブルーハーツ)がいなかったら僕は今生きていないと思うな。全人類そうだと思うけど、中学生の時なんて何かに夢中になっていないと生きていけないし、何もないときの死にたさはでっかいし、カッコイイものに出会ったときの衝撃も人生でいちばんだよ。辛くて辛くて辛いときに聴ける音楽があることで、死なないで済んだ夜がたくさんあったよ。あるよ。ミッシェルガンエレファントのCDを板橋区立図書館においてくれた人、ありがとう。

あなたに生かしてもらったのに、あなたを生かすことはできないんだなって、ガンが発表されたときに思った。どうにもならないことというのはこの世にあって、どんなに大金持ちだったとしても、名医だったとしても、生きていてほしい人のためになにもできないというのをはじめて痛感した。おまけに僕は金持ちでも医者でもないし。どうにもならないことがあるから似非科学や宗教を信じる人たちがいるんだと理解できた。だって本当に何もできなかったから。音楽好きの人たちと、「はやくステージでまた観たいね」と言い合うしかできなかったから。でも何もできないなりに、自分の無力さとあなたの全能さを知っていたから、帰ってくると思ってたよ。

後悔よりもありがとうを伝えたいんだけど、一つだけ言うと2022年の加賀・本多の乱で払い戻しを選んだことは過去の僕ほんとにバカだ。行っとけよ。
2018年の信州・松本の乱は最高だったよ。なんか町で吹奏楽の祭りみたいなのやってて交通規制かかってて、バスがよくわからないから1時間くらい歩いて会場に行ったんだよ。ついた時点でへとへとだったけど文字通り疲れが吹き飛んだな。
もういつだったか思い出せないけど、サンボマスターとバックホーンとバースデイの対バンも最高だった。たしかサンボマスターがトップでぶち上げられて大変なことになってた。尻ポッケに入れたドリンクチケットがみんなの汗で溶けてなくなっちゃったのはあのライブだけだよ。入る前に自販機でお茶買おうとしたら小銭が反応してくれなくて、岡山からバックホーン見に来た女の子が交換してくれたな。あなたに出会わなければなかった思い出がたくさんあるよ。
初めて行ったフェスはアンディモリが解散した年のラブシャで、そこで初めてあなたを見た。高校生で何もわからなかったから、今思えばクソ迷惑だったかもしれないけどリュックで三列目くらいまで行ってもみくちゃになった。カッコよくて、カッコよくて、その次の日から一か月くらいアテられて僕は様子がおかしくなっていたらしい。でもそこから「自分もライブ行ったりしていいんだ」って殻が壊れて、たくさんライブ行くようになったよ。コロナ禍と不眠症で体力も落ちて体重も増えて気持ちも落ちて、ここ2,3年は全然だったけど、あなたが死んだから、というわけじゃないけど、健康になろうと思って、今年はたくさんライブに行く。ラブシャも行くよ。

あなたの書くミッシェルの歌詞はカッコいいけど意味わかんなかったよ。意味わかんないけど死ぬほどカッコよかった。音楽ってラブソングばっかで、それがラブのない僕には割としんどいものだったんだけど、あなたのラブソングは別の意味で意味わからなかったよ。俺にはあの娘と呼べる人なんていないけど、宇宙の果てまでぶっ飛んだりマグマの先まで突っ込んで行きたいって、思えた。ナイフで貫いた心臓をくらってくれる誰かがいるような気がした。お前の甘い場所、それだけ俺にくれよ。

ROSSOはもっと意味わからなかったよ。でもカリプソベイビーもグラスホッパーはノーヘルも発光も、もちろんシャロンもカッコよかった。あなたは私の天使なんだからって僕も言いたい。ミルクティーにはブラウンシュガーよ。レモネードも入れてよママ。

バースデイは、僕が有名な曲しか知らないからかもだけど意味わかった。でもチバユウスケのままだった。変わらないでいてくれてありがとう。不思議とあなたがいなくなってからいちばん頭の中に流れてくるのは「誰かが」だな。誰かが泣いてたら抱きしめようそれだけでいいって、ミッシェルガンエレファントが絶対歌わなそうな歌詞だけど、とんでもなくチバユウスケだな、と思った。僕の中のあなたはそういう人だから。実際は知らんけど。
俺もカレンダーになるのが夢だよ。
スラムダンクの映画、最初で泣いたよ。これからは別の意味で泣いちゃうかもだけど。インタビューで読んだことないって言っちゃってて、炎上するんじゃないかって怖かった。DVDが出たら友達と泣きながら観るね。

ありがとうを言いたくて始めたけど、結局自分語りになってしまった。でも僕が伝えたいのはこれが全部あなたがくれたものってことで、あなたがいなければできなかった経験だってこと。あなたが死んだことを知ってそりゃ悲しかったし頭真っ白になったし、友達に連絡しなきゃってなったし、どうしようってなったけど、あなたがくれたものをちゃんと持ってこれから生きていかないととも思った。代わりに俺が死ねないのかなとも思ったけど、生きていくことにした。生きるからには、ちゃんと生きるよ。

中学生の僕を生かしてくれてありがとう。
高校生の僕を生かしてくれてありがとう。
大学生の僕を生かしてくれてありがとう。
社会人になった僕を、これからも生かしてくれるのはあなたの言葉と声と音楽です。ありがとう。
これからも生きていきます、あなたのおかげです。

涙は枯れないけど言葉は枯れて、はいないけどまとまらないので、3000文字以内という感じで手紙を終わりにします。
Thank You Rocker
I Love You Baby

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