漢検1級(R6-1)を受けてきた話

こんにちは、Akaba.です。

2024年6月16日に、日本漢字能力検定(以下「漢検」と略す)の1級を受検してきました。

今回はその感想などを書いていきます。

自己紹介

本題に入る前に、まずは自己紹介をしたいと思います。以前の記事に書いたことがある内容も含まれているかも知れませんが、改めて書いていきます。

元々僕は小中学生だったころに漢検を受けたことがあるのですが(よく覚えていません)、それ以降は漢検の勉強からは離れていました。

勉強を再開したのは2020年7月のことです。

当時、QuizKnockさんの動画を見ていて「漢検準1級ってどんな感じなんだろう?」と思ったのが主たるきっかけです。また、昔母親が準1級の勉強をしていたというのも大きいです。

そこから色々頑張って、2021年(具体的には令和3年度第1回。年度と回数から「R3-1」と略することもあります。以下同様)に準1級に合格しました

準1級に合格してから、すぐに1級の勉強を始めました。これまでに3回受検していますが、いまだに受からないまま現在に至ります。

最後に受検したのが2022年10月(R4-2)なので、今回が4回目、約1年8か月ぶりの1級受検となります。

会場について

僕が受けた宇都宮の会場では、1級受検者は12名だったようですが、欠席者もいたようなので実際にはもっと少なかったと思います。

余談ですが、今回の宇都宮の会場は作新学院という学校(夏の高校野球などで聞いたことがあるかも知れません)の近くだったのですが、JRの駅からは遠いです

今後会場が変更される可能性もありますが、バスなどの他の交通機関を利用することをおすすめします。

今回の問題について

ではここからは、各大問の問題を抜粋し、感想を述べていきたいと思います。

(一) 読み

1番は「平仄」の読みを答える問題でした。

答えは「ひょうそく」で、「平仄が合わない」とは「物事の筋道が立たない」という意味です。

僕は正答できたのですが、読み問題で出してくる語句にしては随分簡単な語句だなと思ってしまいました。

勿論、この感想はあくまで「読み問題で出てくる語句にしては」という前提があってのものなので、問題自体は(一般的な感覚からすれば)あまり簡単では無いと思います。

読み問題で出題される語句は基本的に難しく、一部の漢和辞典にしか載っていないような熟語が普通に出てきます。

一方で「平仄」は、小形の国語辞典にも載っているレベルの語句です。「随分簡単だな」と思ったのは、そのような基準で考えた上での感想である、ということになります。

8番は「栞行」の読みを答える問題でした。

正解は「かんこう」で、僕は正解できませんでした。

調べてみたのですが、この熟語の意味は分かりませんでした。ただ、『大漢和辞典』におけるこの「栞」という字の説明に「刊に通ず」とあるので、「刊行」と同じような意味の熟語なのかも知れません。

」という漢字は、ご存じの方も多いかも知れませんが訓読みで「しおり」と読みます。

このように、どこかで見たことのある漢字も実は1級配当だった、ということもありますが、だからと言って正解できるとは限らないのが1級(準1級)の難しいところです。

12番は「躍躍」の読みを答える問題でした。

「えっ?」と思った方もいらっしゃるかも知れません。この問題のように、1級配当では無い、常用漢字や準1級配当の漢字の読みを問う問題も存在します

とはいえそこは1級ですから、そのまま「やくやく」と読んで正解になるはずはありません(問題によってはそのまま読んでも正解になるかも知れませんが)。実際僕もこの問題に対峙したとき「絶対何かあるな」と思いました。

前述の通り「やくやく」は不正解で、正解は「てきてき」です。意味は『漢字源』によると「小躍りしながら走るようす」。

先ほど「やくやく」は不正解、と書きましたが、この記述は正確ではありません。正確には「この問題の場合不正解、となります。

なぜかというと、この「躍躍」という熟語は、「やくやく」とも読むからです。

実は、この熟語は「やくやく」と読んだ場合と「てきてき」と読んだ場合では、意味が異なります。「やくやく」と読んだ場合、「張り切って小躍りするさま」という意味になります。

今回出題された文章は、

躍躍たる毚兎(ざんと)犬に遇いて之を捕らる。

※本試験より引用。

という文章です。

これは、中国の詩集『詩経』に登場する詩の一節で、前後の文脈などを考慮せず現代語訳するとすれば「小躍りしながら走るすばしっこい兎は、犬に出くわして捕らえられてしまう」となるでしょうか。

ここで「やくやく」と読むと、兎が踊っていることになり、文脈に合いません。よって、ここでは「てきてき」と読むのが適切である、ということになります。

※くどくどと説明していますが、間違っていたらすみません。

このような「読み方が変わると意味も変わる」熟語というものは時々あります。分かりやすい例を挙げるとすれば「利益」などでしょうか。「りえき」と読んだ場合と、「りやく」と読んだ場合では、意味が異なりますよね?

15番は「」の音読みを答える問題でした。

この「箍」という字、訓読みは「たが」であることは分かっていたのですが、音読みは残念ながら思い出すことができませんでした。

この漢字の音読みは「」です。この字のように、字形から音読みを推測することが難しいこともまた、漢検1級の特徴であると言えます。

ここからは訓読みの問題です。

25番は「」の訓読み(送りがな無し)を答える問題でした。

前述の8番や15番とは逆に、「音読みは知っているが訓読みが分からない」パターンの問題でした。ちなみにこの字の音読みは「」です。「諮」の音読みが「し」であると考えると分かりやすいかも知れません。

正解は「ああ」で、これは感嘆を表す声です。「嗚呼」などと同じと考えてよいでしょう。

正直、この大問(一)の訓読み問題で「ああ」と答えさせる問題が出てくるとは思わなかったので、かなり意表を突かれました

勿論、出題範囲内であるため出題されてもおかしくはないのですが。

26番は「暁らず」の読みを答える問題でした。

音読みと同様に、訓読みでも常用漢字の読みを問う問題が出題されることがあります。今回は(ここで解説していない問題を含めて)大問(一)の30問中、5問(うち訓読み問題4問)が、常用漢字でした。

正解は「さと(らず)」です(なお漢検では、送りがなまで含めて解答欄に書いてしまうと不正解となります)。

今になって考えてみると、作曲家の神前 暁(こうさき さとる)氏のことを思い浮かべることができれば、もしかしたらこの問題でも正解できたのではないかと思います。残念ながら僕は(神前氏のことを知っていたのに)思い浮かべることができなかったので不正解でした。

問題のヒントというものは、どこに転がっているのか分からないものですね……。

(二) 書き取り

ここからは書き取り問題について話していきます。

4番は「加餐」、6番は「劉覧」を書く問題でした。

加餐(かさん)」は「食事に注意して養生すること。また、健康を祝う語」という意味であり、主に手紙文などで使われる熟語です。

一方、「劉覧(りゅうらん)」は「①すみずみまで目を通すこと。 ②他人が見ることの尊敬語」という意味です。

実は、この2つの熟語は、単純に使われている漢字の配当級だけで見ると「準1級」配当の熟語です

とはいえ、準1級で書き取り問題として出すには、些か難しい語句であるかも知れません。敢えて言えば「共通の漢字」あたりで出るのではないでしょうか(「共通の漢字」という大問についての詳しい説明は割愛しますが、準1級の他の大問に比べて出てくる語句のレベルが高いです)。

9番は「手腓」を書く問題でした。

手腓(たこむら)」とは、「腕の内側の肉のふくれた所」のことです。「腓」は「こむら」と読みますが、「こむら返り」の「こむら」と同じ字です。

この語は「た」+「こむら」という構成になるのですが、僕は「たこ」+「むら」と解釈してしまい、「「たこ」は「蛸」だろうけど……むらは「斑気(むらき)」の「むら」か? でも、どういう字だっけ?」と考えてしまいました。

区切る位置を間違えていた時点で、既に不正解が確定していたとも知らずに、しばらく無駄な思考を巡らせていたことになります。

15番は「転帰」を書く問題でした。

転帰(てんき)」とは、「病状が進んで行き着く状態」のことです。

「転」も「帰」も小学校で習う字ですが、このような、一見すると簡単そうに見えるような熟語も、漢検1級では出題されることがあります。ちなみに僕は書けませんでした……。

大問(一)もそうでしたし以降の問題でもそうなのですが、「漢字の難易度」と「熟語の難易度」は必ずしも一致しませんし、1級配当の漢字が含まれているから難しい(1級配当の漢字が含まれていないから易しい)ということもありません

むしろ常用漢字のみで構成された熟語の方が難しいと考える受検者もいるくらいです。

(三) 語選択

僕にとっては最も難しい大問です。過去3回の受検のうち2回は0点でした(残り1回も10点中2点でした)し、今回もおそらく0点です。

2番は「人を愚弄すること。またその対象」を表す語を(ひらがなで書かれた)語群から選び、漢字で書くという問題で、正解は「嘲斎坊(ちょうさいぼう)」でした。

当然僕はこの語句を知らなかったので正解していませんが、語群に「ちょうさいぼう」があったので真っ先に「超細胞」というよく分からない語句を思い浮かべました。どんな細胞だ。

5番の問題は「絵画の異称」で、正解は「後素(こうそ)」でした。

ところで、語群にある語句は全部で8個で、問題は全部で5問あるので、語群の中の3つの語はダミー選択肢となります。

ダミー選択肢は、だいたい正解の語句と似たような意味の語句が選ばれることが多いです。

今回のダミー選択肢の1つに「じゅぼくどう」というものがありました。漢字で書くと「入木道」となり、これは書道の異称です。問題の内容からして、おそらくこれが5番のダミー選択肢だと思うのですが、この語句が5番のダミーだと気づける人はかなり凄いと思います

(四) 四字熟語

【問1】で出題された10個の四字熟語のうち、『漢検 四字熟語辞典』に掲載されていて、かつ1級配当のものは全部で8個ありました。

「漢検1級の勉強はまず1級配当の四字熟語から始めると良い」とおっしゃっている方もいるくらい、1級配当の四字熟語は大切です

なぜなら、学習した四字熟語はほぼそのまま出題されるうえ、範囲もあまり広くなく(『漢検 四字熟語辞典』に掲載されている1級配当の四字熟語はだいたい1000個程度です)、配点も30点と割と大きいからです。

また、常用漢字(または準1級配当漢字)のみで構成される熟語が出がちな語選択と違い、現時点では1級配当の四字熟語がメインで出題されることが多いため、ここは勉強の成果が比較的出やすい大問であると言えます。

とはいえ、『漢検 四字熟語辞典』に掲載されていない四字熟語や、常用漢字のみで構成された四字熟語も少なからず出題されるので、油断はできません。

今回の場合は7番の「梅林止渇(ばいりんしかつ)」や9番の「開示悟入(かいじごにゅう)」がこれにあたります(9番が前者、7番が後者)。ただ、1級配当以外の四字熟語が3つ以上出題されることも最近ではあるので、今回は比較的解きやすかったのではないでしょうか。

【問2】にも、『漢検 四字熟語辞典』に掲載されていない四字熟語が登場しています。

そのうち「廃忘怪顚(はいもうけでん)」は過去の本試験にも登場があるため、見たことがある方もいらっしゃるかも知れません。

このような四字熟語はその他にもあったのですが、他の選択肢となっている四字熟語の意味から、消去法で正しいものを選ぶことは十分可能であったと思います。

(五) 熟字訓・当て字

今回出題された全ての語句が『漢検漢字辞典』に掲載されていました。このため、特に「難問」と認められる問題は無いと思われます。

それとは別に、僕は熟字訓があまり得意ではないので、いつも点が取れないです。今回は10点中4点で、これでも自己ベストです。

1番の「覇王樹」は「サボテン」と読むのですが、何も思いつかなかったので「パッションフルーツ」と答えました。

あと、字面から『ウマ娘』のテイエムオペラオーが頭をよぎりました。それにしてもこの熟字訓、字面がやけにかっこいいですね……。

10番の「乙鳥」は「つばめ」と読みます。僕はこの情報を入れ込んだクイズを作問したことがあるので読めました。クイズ作問の経験が漢検1級で活きるとは思いませんでした。

(六) 熟語の読み・一字訓読み

特に難問はありませんでした。尤も、僕はこの大問が比較的得意なので、そのせいでそう感じたのかも知れませんが。自己採点は10点中9点と、かなり健闘したほうだと思います。

唯一間違えたのが、3番の「」の音読みです。

実は、この「阨」という字は、その意味によって音読みを変えなければいけない漢字の1つです。

このような字の例としては「」があります。

「度」は、普通は「ど」または「と」と読むのですが、「おしはかる」という意味で使うときは「たく」と読みます。「忖度(そんたく)」などが良い例です。漢検の範囲内には、このような漢字が少なからず存在します。

今回の「阨」という字は、「せまい」という意味で使うときは「あい」、「くるしむ」という意味で使うときには「やく」と読み分けなければなりません。

今回は「苦しむ」という意味で使われていたので「やく」と読まなければならなかったのですが、僕は「あい」と読んでしまいました。

(七) 対義語・類義語

個人的には語選択の次に難しい大問だと思っていますが、こちらのほうが難しいと考える方もいらっしゃるかも知れません。このあたりの話は個人差の範疇に収まると思います。

5番は「天命」の対義語を答える問題でした。

「天命」には様々な意味をもつ熟語ですが、ここでは「天の定めた寿命」のことを指しています。

そして、答えは「非命」でした。「非命」とは、天命をまっとうしないこと、という意味です。

語群に「ひめい」があり、おそらく「非命」だろうと見当はついていたのですが、まさか「天命」の対義語となるとは思いませんでした。それだとあまりに安直すぎると思ったのです。

このように、語群の表記から漢字に直せるだけでなく、その熟語の意味(と、問題として提示されている熟語の意味)まできちんと理解していなければ、この大問では正解に辿り着くことができません。尤も、これは1級に限らず、同様の形式で出題される下位級にも言えることですが。

7番は「凡夫」の類義語を答える問題でした。

これは語群を見てすぐに「鳳字」だと分かりました。何故なら、この熟語をQuizKnockさんの動画で見たことがあるからです。彼らの動画で得た知識がまさかここで効いてくるとは思いませんでしたし、同じことを思った1級受検者はいらっしゃるのではないでしょうか。

なお、「凡夫」の字面からも想像できるかもしれませんが、この2つの熟語は、どちらも「平凡な人」という意味です。「鳳」の字を分解すると「凡」と「鳥」という2つの字になることから、「鳳字」は凡庸な人間を嘲っていう語になったのだそうです。

余談ですが、同じ「ほうじ」でも、「鳳児」と書くと意味が変わり、「将来優れた人物になることが期待される少年」という意味になります。

(八) 故事・諺

試験中は「いつも通りの難易度かな」と思ったのですが、後で調べると、1級学習者がよく使うとされる『新明解故事ことわざ辞典』に掲載されている故事成語・諺は10問中わずか3問で、やや難しかったと判断できると思われます。

ただ、この辞書に載っていない故事だから解けないとは限らず、例えば今回の7番の「襠(まち)」は、諺自体を知らなくても文脈から推測することが十分可能だと思います。僕は解けませんでしたが

2番は「反(かえ)り公事(くじ)を食わせる」の「公事」を書く問題でしたが、僕は「籤」と書いてしまいました。僕の印象ですが、故事・諺で「くじ」といったら大体「公事」か「籤(または鬮)」なのではないでしょうか(他の表記が出てきたら申し訳ないです)。

4番に登場したのは「無常は春の花、風に随って散り易く、有涯(うがい)は秋の月、雲に伴って隠れ易し」という成語で、「有涯」を書く問題でした。

この成語は、調べたところ『平家物語』の一節だそうです。『平家物語』は過去にも文章題として出題例があります。

このように、1級で登場する(文章題以外の)文章は、中国の文章に限りません。日本の文章も登場します。

(九) 文章題

特に奇問は見当たらなかったと思いますが、この大問では特に、僕の実力不足が露呈してしまいました。

書き取り2番の「潺湲(せんかん)」や同じく書き取り4番の「玳瑁(たいまい)」を書けないという有様です。どちらも1級受検者にとっては基本的な語彙なので、かなり恥ずかしいです。後者に至っては、模試などでも解いたことある問題であっただけに、かなりのダメージです。


全体の感想

全体的に見れば、かつてのR3-2のような難関回では無いのではないでしょうか。以前(具体的にはR5-1の頃)難化したと言われていた四字熟語も、今回に限ってはそんなに難しくないように思いました。

ただ、語選択や故事・諺はかなりの難関だったと思います。

問題の難しさ以前に、僕は僕で色々と反省をしなければならないなと思いました。特に読みや文章題、四字熟語での失点が大きく、まだまだ合格への道のりは果てしないと感じました。

とはいえ、どんな問題が出るのだろうという楽しみは、毎回感じています。これからも楽しみながら1級に挑戦していきたいものです。

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