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「道化師気質」

思いがけず思い出した幼少期の記憶の断片に
ピエロの姿があったのです。
顔の半分は笑って、もう片方は、泣いたメイクを施したような。
なぜだろう?と、今一度、自身の深淵へ続く、その道をたどると。

「ドウケシになりたい。」

そうつぶやいた瞬間の幼い私が、目の前におりました。
それは「道化師」という言葉を祖父から教えてもらったばかりの私
その右手には、くまのぬいぐるみの腕をつかんで。
叔父からお土産に頂いたくまちゃんです。
あぁ…懐かしいな…名前はなんてつけたんだっけ…
深いエメラルドグリーンのリボンが首に結わいてあるのだけれど、時折、ほどけてしまうんです。
最初は、自分で結わくのも難しくって、ほどけるたんびに、母上にせがむんです。なおして、って。
そのうち、結わきかたを教えてもらって。
ほどけるたびに、自分で結いなおして。
結いなおしたら、くまちゃんのね?あたまを2回、いいこ、いいこ、ってなでるんです。
ほんとは、そうして、ちゃんと、リボンを結わえた自分を誰かにほめてもらいたかったんでしょうね。
 
その子…タンタン!
そう!…タンタンをお家中、どこへいくのにも、その腕を、ふんわりとした茶色の腕をぎゅーって握って、
連れまわすんです、タンタンが寂しいから、って
お部屋に、ひとりでお留守番させるのは、タンタンが寂しいから、って。
「だって、あのお部屋は、昏くて怖いからね、だから、いつも一緒に居てあげないと、かわいそうでしょう?」って。
ああ…ちがう…ちがったのね…
ほんとうは、自分が寂しいから、いつも一緒にいてほしかったから、そうして、タンタンのおててをぎゅーって握ってー
寂しかったのは、タンタンじゃなくって、このアタシ、だったんだ。

タンタンの左手をぎゅーって握って、立ち尽くしている幼い私。 
薄暗い客間にあるテレビに映し出されているのは、サーカスのような映像で
そこに、ピエロの姿があったのです。
顔の半分は笑って、もう片方は、泣いたメイクを施したような。
物悲しい音楽かと思えば、陽気な音楽になったり。
その音色に瞬時にあわせて、コミカルな動きをしているのです。
ものすごいドジかと思えば、ものすごいカッコいいワザを決めたりもする。
彼の一挙手一動に、観客がどっと一斉に笑ったり、息を呑んだりするのです。
気付けば、立ち尽くしたまま、そんな彼の映像にすっかり魅了されてしまっていた
寂しいとか、怖いなんて気持ちは、すっかり消え失せていて。
そこには、ただ、道化師の動きに声を出して笑った後で

「ドウケシになりたい。」

そうつぶやいた瞬間の幼い私が、今、鏡の中におりました。
それは「道化師」という言葉を祖父から教えてもらったばかりの私
その右手は、消えてしまった、くまのぬいぐるみの腕を求めて。
タンタン…どこに、いるの?寂しいよ…こわいよ…
 
つらいことは、笑いに昇華させるのです。
そうです。それが一番です。
自らが、道化師になるのです。
そうすれば、お顔の表情もわからなくなるし、
自分が道化師となることで、寂しさも、こわさも、感じる暇などないのです。
自分のすることで、笑ってもらえるなんて、シアワセこの上ないのです。

「ドウケシになりたい。」そう願った時期がございました。
「道化師でありたい。」そう思う日々にございます。
タンタン…どこに、いるの?寂しいよ…こわいよ…
 
「道化師気質」作:言祝燕


つばめノつぶやき 

あることをキッカケに、突如、思い出す記憶の断片。
不思議なのは、その断片に吸い込まれるようにして、
記憶の渦へと没入していくかのような…
引き出したハズの断片に、引き込まれゆくような…
そんな、矛盾する感覚。
ノスタルジアと呼ぶには、淡い切なさの
ノスタルジアと呼ぶには、この胸の
今なお疼く、スティグマタのような
決して烙印という意味ではないのだけれど…
 
事実と虚構と。
真実と虚偽と。
実像と虚像と。


つばめの声、聴けます♪
「道化師気質」@stand.FM より👇
キモチだけは、込めております
https://stand.fm/episodes/665a6b382999be32be426d7e

《作品利用につきまして》
上記「道化師気質」を朗読等に活用したい、そう思って頂けた方へ。
当方、別ページにてご案内させて頂いております、
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