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わたしたちのわだちについて

この記事は、エクストリーム帰寮 Advent Calender 2021 10日目の記事です。


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てつ【轍】〘名〙
車が通った輪の跡。わだち。
(日本国語大辞典より)


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令和三年 十一月二十七日 朝六時ごろ、ふたりの就活生が田んぼのド真ん中に放り捨てられた。
熊野寮祭の「エクストリーム帰寮」という企画である。
スマホの地図利用が禁止されているため、文字通り右も左も分からない。
しかし、私達はここから徒歩で熊野寮まで帰らなくてはならない。
ドMによるドMのための狂った企画である。

なぜ参加したのか

ドMだからである。

というのは半分冗談だが、昨年度の様子をTwitterで見ていて面白かったのでずっと気になっていた。
ひとりだったら参加していなかったと思うが、好きな女に「行かん?」と行ったら「行こう」という返答が来たので参加することにした。
両者初参加で怖かったので、車から下ろされる地点は寮から15kmほどを指定した。なんでみんな60とか100とか指定してるんだ...

前半(AM6~12時)

「じゃ、頑張って」
私達を下ろした車が去って行った。見渡す限りの田んぼ、田んぼ、田んぼ。早朝ということもあり人っ子一人おらず、あたりには静寂が満ちていた。

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去って行く車(写真1)

標識によると「宇治西IC」付近らしい。月の向きと太陽の位置を手がかりに方角を推定する。西、と言われたので、とりあえず北東を目指すことにした。

[副音声]勘のいい方なら分かるかもしれないが、これは罠である。宇治市はそもそも京都市の東に位置しており、宇治西ICはちょうど熊野寮の真南にある。つまり、まっすぐ北上すれば帰れるところを、私たちは東に向かって歩みはじめたのである。

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北西に進むべき所を北東に進んでしまった(図1)


「ていうか最近どんな感じ?」
そんなこともつゆ知らず、就活真っ最中の私たちは近況報告をしながらゆるゆると歩いていた。
大手の会社で「60歳までのキャリアプランを作成して提出してほしい」と言われて困っている話とか。
結婚や出産を想定すると、働き方はどう変わってくるのか、とか。
上京するつもりだったけど、フルリモートの会社に入って全国を転々とするのもありだな、とか。

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いつのまにか夜が去っていた(写真2)


そんなことを話しながら暫く高速道路沿いに歩いていたが、「あまりにもゲーム性がなく、つまらない」という理由で高速道路から少し離れることにした。すると線路にぶち当たったので暫く道標としていたが、同様の理由で避けることにした。

道中をフルで書き下すと長くなるのでダイジェスト版でお送りすると、「歩いていたら京都大学宇治キャンパスに到達し学内Wi-Fiが繋がることに感動→さらに歩いていたら地元の中学生がデート先に選びそうなショッピングモールを見つける→開店時間まで店外で待機し、GUでウインドウショッピング」以上だ。
ここまでで出発から5時間ほどが経過している。ちなみにショッピングモールで1時間ほど使った。遠足?

後半(PM12~16時)

[副音声]この時私達はどこにいたのだろうか。

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ショッピングモールとか行くから罰が当たったのよ(図2)

結論から言うと、私達は初めのトラップ通り山科に向かってしまっていた。鴨川だと思い「この川の上流を目指せば北に着くだろう」と安易に考えていた川の名は「山科川」。
山科に着いてしまうと、京都市に戻るためには山越えの必要性が出てくる。そうなれば帰寮する頃には日が暮れているかもしれない。というかそもそも、山越えできるような装備で来ていない。緊急事態である。

「え、もしかして山科に向かってる?」
そのことに気がついたのは、山科デルタに着いた頃だった。時刻は12時を回っていた。「お昼までにはゴールしたいよね」なんて言っていたのが嘘のようだ。

そこからの私達の方針転換は早かった。即座に西へ舵を切り、名神高速道路に沿って伏見区を目指す。先は見えない。もしかしたら険しい道が待ち受けているかもしれない。でもきっと大丈夫、そう声を掛け合いながら、若干重くなってきた足を前に進めていった。

[副音声]結論としてこの決断は大正解であった。大きく東へ逸れるルートを選んでいた私たちは、ここで京都市へ向かうルートに戻ってこられたのである。

デカいトラック以外通らない、フェンスに囲まれた山道を進んでいく。途中で地元の中高生らしき人達の姿を見かけ、同行者から「中高生も通るならここはきっと通学路だよ」という励ましを得た。途中で見かけた地図によると、伏見区が近づいているようだ。だんだんと安心感が生まれ、体力をセーブすることも忘れ歌を歌い始めた。

[副音声]よかったね。


「うお!伏見区だ!」
藤森に着いた。ああ、知っている場所だ。あとはただただ北上すれば、ゴールできるだろう。不思議なもので、ゴールへの道筋が分かってしまうと途端に面白みがないように思われてきた。観光客の多さに怯えながら、伏見稲荷を通過。
鳥羽街道、東福寺。この頃ちょうど雨が強くなってきたが、知っている場所なので笑いながら歩いていた。
途中、八条通を越えるのに手こずったが、鴨川沿いの歩道に降りることで事なきを得た。

「ここまで来たら何も考えなくても帰れるよね」
八条、七条、六条、五条。どんどん生活圏内に近づいていく。四条、三条、二条。そして、熊野寮のある川端丸太町通。京都市に入ってからの道のりは、カウントダウンの最後の10秒のように一瞬だった。

3年近く前、上洛したての頃は通りの名前も順序も東西南北も何もかも分からなかったのに、そんな感想を抱けるようになっている自分に少し驚いた。
くるりの「京都の大学生」を聴いて風景が想像できるようになっている自分は、もう十分に京都府民になっているのかもしれない、と改めて思った。

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帰寮!(写真3)

“京都が「帰る場所」になったのはいつからだろう。帰省の度に少しずつ変わる地元の町並みに寂しさを感じつつ、観光客でいっぱいの下り新幹線に乗り込むようになったのは。地元がもう私の知っている街ではなくなったのは。 京都に帰れる日々も、もうそんなに長くはない。”
同行者のnoteより)

結果

わたしたちの「わだち」は、結果的に24kmとなった。15kmを希望していたため、9kmほど遠回りをしてしまったことになる。

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旅路(図3)

そうは言っても、余裕で他県に行ったり100km越えをしたり離島に飛ばされたりした他の参加者の方からしたら「お散歩かよw」と思われてしまうような距離かもしれないし、知らない人にコーヒーをご馳走してもらった人や帰寮後即国家試験を受けた人に比べたらコンテンツ力はないかもしれない。

面白くなかったら、ごめんなさい。でも、私達は楽しかった。ここには書けないような話をした。ここに書けるけど、私達以外の人が聞いても面白くないような話も、沢山した。

わたしたちのわだちについて

なんだか記事が終わりそうな雰囲気を出している中、突然だが、聞きたいことがある。

あなたは「キャリア」という言葉を聞いてどういったイメージを持つだろうか。(いや、本当に突然聞いてしまって申し訳ない。就活生なので、どうしても今後の人生設計の話が頭から離れないのだ。帰寮中の6割ほどは人生の話をしていた。)

「キャリア」と聞くと、「エリート」「出世」「ステップアップ」といった語が連想されることが多いのではないだろうか。私もそうだ。

ただ、Careerという語はラテン語のCarrus(車輪の着いた乗り物)という言葉が語源とされており、「車輪の通った跡・わだち」を意味する。(言語ガチプロの人がいたらすみません、参考文献もなく、ネットの記事レベルのことを言ってすみません)
つまり、キャリアは「アップ」するものではない。あくまでも人生を通じて歩んできた道筋そのものが「キャリア」なのだ。

だったら、ちょっとくらい迷っても、最短距離じゃなくっても、いいんじゃないかしら。そんなことを、道中ですこし考えていた。人生にはエクストリーム帰寮と違ってゴールがないので、現実はそう甘くはないと思うけれど。

まあ、人生を道に例えるなぞ、多分もうブッダあたりが言っているしEXILEも歌っているので、こんな陳腐なことを書いても仕方ないとは思うのだが。

今後のわたし達のわだちは、どんな道を描くのだろうか。

つづく


謝辞

帰寮企画者の方、遅くまで電話対応してくださった本部の方、初心者に優しくしてくれた赤髪のドライバー、同行者、Twitterで実況にいいねをくれた方々、「道に迷ったら北上しろ」というお告げのようなメッセージをくれた方、ありがとうございました。

同行者へ

『夜のピクニック』(恩田陸)って読んだことある?
「歩行祭」という夜通し80km歩く行事に参加する高校生達の物語なんだけど、一つくらいは引っかかるものがあるんじゃないかしら との思いから、いくつか引用を載せておきます。就活や人間および生活習慣改善など、お互い頑張ろうね!

"なぜ振り返った時には一瞬なのだろう。あの歳月が、本当に同じ一分一秒毎に、全て連続していたなんて、どうして信じられるのだろうか。"

"好きという気持ちには、どうやって区切りをつければいいのだろう。どんな状態になれば成功したと言えるのか。どうすれば満足できるのか。"

"「始まる前はもっと劇的なことがあるんじゃないかって思ってるんだけど、ただ歩いているだけだから何もないし、大部分は疲れてうんざりしてるのに、終わってみると楽しかったことしか覚えていない」"

"何かが終わる。みんな終わる。
だけど、何かの終わりは、いつだって何かの始まりなのだ。"



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