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アルバムレビュー:『Gorilla』 - James Taylor

(文:yoshiro)

 ブログを始めてみたのはいいものの、書くネタや報告することがホイホイ転がっているわけではないので、のんきに構えているとほどなく更新が途絶えて閑古鳥が鳴き始めてしまうと思った僕は、当座しのぎがてら音楽の話をすることにしたのだった。(小説風の書き出し)


 というわけで新コーナーを作ってみました。題して【Favorites:アルバムレビュー】。好きな音楽アルバムの話でもして、辛うじてブログとしての世間体を保持しようという試みです。もちろん不定期更新を予定しています。

 まあ「これ、最近よく聴いてるんすよね」くらいのノリで時々ダベってみたいと思うので、暇つぶしにでも眺めてやって頂ければ幸甚に存じます。


 ってことで、ご紹介するのはこちら。


『Gorilla』 - James Taylor (1975)

 日本での知名度はそんなに高くありませんが、アメリカではシンガーソングライターの草分け的な存在とされているJames Taylor氏。

 ビートルズが立ち上げたアップル・レコードから1968年にデビューして(後に移籍)、これまでにグラミー賞を五回獲得、レコード売り上げは世界で一億枚以上、などなど華々しいキャリアを持つ、今年で御年68歳を迎えた超大御所です。

 僕もまだ全作品を聴き切れていないのですが(なにしろこの人オリジナルアルバムを20枚くらい出してるんだもの…)、これはまず間違いなく最高傑作の一つだろうと思う一枚が、1975年発表の6thオリジナルアルバム『Gorilla』。


 まず一曲目「Mexico」のイントロを飾るアコースティックギターの音が、このアルバムを鮮やかに物語っています。シンプルで爽やかな音の一粒一粒は、湿気や暑苦しさとは無縁の、よく晴れた初夏の日の開け放した窓辺のよう。

 そうして二曲目「Music」(上記動画2:58頃〜)が始まる頃には、肌ざわりの良いインド綿のシャツを着て散歩しているような気持ちになるし、三曲目「How Sweet It Is」(上記動画6:45頃〜)が流れだしたらそのままスキップでもしたくなってしまう。

 要するに、全曲とにかく耳当たりが素晴らしいんですが、この心地よさはおそらくJames Taylor作品の多くに通底する、肩の力の抜けた(でもほんの少しだけシニカルな)ユーモアが生み出すものでしょう。


 そのユーモアが、表題作「Gorilla」(上記動画13:00〜)には如実に表れています。

 のほほんとしたベースに始まり、軽妙なマンドリンのストロークと、洒脱なギターとウクレレの音色。伸びやかに語りかけるような歌声。途中で鳴き真似も交えながらユーモラスに描かれる、檻の中の静かな悲哀。

 コード進行も単純だし、サビらしいサビもないし、歌詞はもはやゴリラのパーソナリティーを述べているだけ。

 そんな具合だから耳を奪うような派手さは一つもない、のに、知らず知らずのうちに指先でトントンとリズムを取ってしまう。日々のささいな憂鬱や退屈を、お手玉して遊んでいるみたいな小気味のよいメロディーは、まさにゴリラの大らかな歩みさながら。

 僕はこの曲を聴いていると、なんだか微笑みたくなってくるんですよね。ニコッ、でも、クスッ、でもなく、ウフ、って感じで。いやむしろ、ウホ、って感じ?



 僕はつねづね、ヒトの暮らしを豊かにするもの(いっそ大げさに言えば、ヒトにとって救いになるもの)は「愛」と「ユーモア」だ、と強く思っているのですが、この『Gorilla』には、飾らない愛と軽やかなユーモアが、ゆるやかに宿っていると感じます。

 心地の良い週末の昼下がり、リビングのスピーカーでこのアルバムを流しながら、キッチンでパスタを茹でていたい、そんな一枚。僕らの暮らしを豊かにする音楽です。



 とまあ、こんな具合のアルバムレビュー第一弾でした。

 で、今これを書いているあいだも『Gorilla』を流していたわけですが、あらためてJames Taylorってすんげえ歌が上手いんですよねえ、まじまじと聴き惚れちゃった。

 その上手さってのも、「どうだ、オレ歌うめえだろ」っていう感じじゃなくて、さりげなく上手い(むしろ「巧い」と書くべきかも)。明瞭な発音と、完璧なリズムと音程、だけどまるで近所の大学生のお兄さんみたいな親しみやすいうまさ。僕もこういうふうに歌えたらなあ、などと思ってしまう。


 話が長引いてしまった。アルバムレビュー初回はこれでお開き。第二回があることを僕自身ささやかに祈りつつ。

(余談:これまた最高傑作の呼び声が高い2ndアルバム『Sweet Baby James』のジャケットはこちら。

 そして昨年発売してBillboardランキング1位を飾った最新アルバム『Before This World』の中のアーティスト写真がこちら。

 ……喪失というものに想いを馳せることを禁じ得ませんね。いや、憧れるくらい良い顔のお爺さんですけどね。

 はい、以上です)

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