お金の無い医師達ー最終話
院内を歩いていると、たまたま中村循環器部長とすれ違った。
僕の代わりに業務を引き受けてくれているせいなのか、かなりやつれていた。
「あっ、お疲れ様です…中村先生…」
僕は咄嗟に声をかけた。
「佐藤先生…久しぶりだね」
無理やり笑った作り笑顔の目尻には、皺が増えていた。
「あの、寝てますか?」
「うん、今日は2時間くらい寝たかな!」
「そうですか…息子さんは、どうなりましたか?」
「ああ…」
「おかげさまで、大学は辞めずに済んでいるよ、赤羽先生のおかげだ」
「赤羽先生の?」
「ああ、赤羽院長が、割の良いバイトを紹介してくれたんだ、お金も稼げるし、ほぼ寝ているだけだから体も休まる」
「そうだったんですね…」
「やっぱりこう、正々堂々稼ぐってのは、気持ち良いよな!」
「人間、こうじゃねえとな!」
「…」
発する言葉が見つからなかった。空元気とはこの事だろう。
金本先生からいくらもらっていたのか、僕にはわからないが、その金額をバイトだけで賄うとなれば、彼の休日はほぼゼロだ。
中村先生の体を見ると、やせこけて、髭が伸び放題で、肌が浅黒い。
完全に働き過ぎ、不健康だ。
「佐藤先生」
「頑張れよ!」
そう言うと僕の肩を叩いて、僕の白衣のポケットに缶コーヒーを突っ込んで、どこかにフラフラと歩いて行った。
しばらく経ってから、サークルエッジの田中さんから書類が届いた。
ご丁寧に書留郵便で。
資料を開けて中を確認しようとした時、ちょうど電話が鳴った。
サークルエッジの田中さんからだ。
「もしもし、株式会社サークルエッジの田中と申します、佐藤先生の携帯電話番号でお間違いないでしょうか?」
「田中さんお世話になっております、佐藤です」
「お世話になります、資料見ましたか?」
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