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閉じ込められる恐怖「オリエント急行殺人事件」と「タワーリングインフェルノ」
「オリエント急行殺人事件」「タワーリングインフェルノ」って、どんな映画?
気付いた方もいるかもしれないが、この2作品は同じ年に制作されている。その他に2つの共通項、計3つの共通項がある。
オリエント急行殺人事件(※)
年代:1974年
分野:高格調、クラシカルミステリー
原作:アガサ・クリスティー
撮影:カラー
時間:2時間8分
物語をひとことで言うと
オリエント急行に誘拐事件の犯人と各界の紳士淑女が乗車。名探偵ポアロが、閉じ込められた車中で発生する事件の謎を解く。
1932年頃、飛行冒険家の子供誘拐事件が発生。それから遙かに月日が経ち、身代金で裕福となった犯人がオリエント急行で旅に出ようとしている。
始発駅のイスタンブールに停車したオリエント急行には、真冬の閑散期にもかかわらず高貴な人々、軍人を含め各階層の人間が乗りこんで来る。その中にはオフで移動中の名探偵エレキュール・ポアロもいた。
列車はパリに向け出発するが雪崩が線路を塞ぎ停止。深夜に一人の乗客が殺害される。吹雪に閉じ込められた列車。犯人は車内に潜んでいる。ポアロの灰色の脳細胞が事件解決に向け活動を始める。
![](https://assets.st-note.com/img/1654337092782-CzS7F2DqtN.png)
タワーリングインフェルノ(※)
年代:1974年
分野:愚鈍経営由来の人災パニック
撮影:カラー
時間:2時間45分
物語をひとことで言うと
竣工したばかりの超高層ビルで火災が発生し猛火がビルを包む。祝賀パーティー参加者の脱出劇が始まる。
世界最高層のビルが米国西海岸に完成。竣工式には各界の著名人が招待されパーティーが開かれる。ビルの設計者も駆けつける。
最上階のホールで華やかな宴が始まった。同じ頃、ビルの片隅、外観の壮麗さに似合わない場所でボヤが発生。手抜き設計とボヤを過少評価したビル経営側の判断ミスで火災が広がり、消防隊が駆けつける頃には業火(インフェルノ)へ姿を変えていく。
![](https://assets.st-note.com/img/1654337185158-VksjyVq5RA.png)
懐かしさで見たリメーク版は
ここに書いた「オリエント急行殺人事件」は1974年版。2017年にリメーク版が公開され、1974年版とどう変わったのか私は懐かしさと興味、期待感からロードショーに見に行った。
残念ながら全く印象に残らなかった。ほぼ成果ゼロ。時代感、背景描写、役者、音楽、ポアロ像、何一つ。やっぱりリメーク版を見るのはよそうと思った。最初に見た作品が良すぎた。格が違いすぎだった。
ところで「オリエント急行」という名の列車は、昔とは経路も経営も違うが今も走っている。一度は乗ってみたいが、まあ無理かなと思うハイソ感。
https://www.belmond.com/trains/europe/venice-simplon-orient-express/
※言語=日本語を選ぶとオリエント急行のページに行きません。×してください。
名画座で見た時の印象
「オリエント急行殺人事件」1974年版は京成名画座で見た。名画座のフィルムは、ロードショー上映後の中古品だからスクラッチ(傷)が付いている。上映環境もロードショー館とは違う。
今でも上映時のノイズを覚えている。列車が眩しい前景に向かって走り出す場面はノイズが目についた。それでも、2017年版のデジタルシネマによる高解像度の上映よりずっと<質>が高かった。素材も料理の腕も違った。新しければ良いというものではない。
柳の下の泥鰌作品
「タワーリングインフェルノ」は、その2年前に「ポセイドンアドベンチャー」(※)を制作した人が、柳の下の泥鰌を狙った作品だ。
「ポセイドンアドベンチャー」 は船が転覆する。 「タワーリングインフェルノ」 は高層ビルの火事。いずれも閉ざされた場所から逃げる点が同じだし、パーティー中に悲劇が起こる点も全く同じ。
船首とビルオーナーが経費削減で愚かな判断を下す点も同じ。で、詰まらないかというとそうでもない。全く別の作品として鑑賞に値する。
最初に「オリエント急行殺人事件」と「タワーリングインフェルノ」には3つの共通項があると書いたのだが、残る2つは、脱出できない環境で起こる事件という点と、スターシステムを採用した点。
スターがいないと成立しないスターシステム
スターシステムという言い方が正しいか分からないが、より一般的には「グランドホテル形式」と呼ばれている。かつて「グランドホテル」(※)という映画があったのだが、ホテルを舞台に様々な人間ドラマが同時進行、登場人物に名だたるスターをあてはめていく形式(フォーマット)。
当代のスター(今の時代のスターではなく、本物のハリウッドスター)が多数、同じ場所に集結する事で見る人の満足感を高めるような仕組みになっている。
「タワーリングインフェルノ」には往年の大スター(例えばフレッド・アステア)が端役で登場したりするので懐かしさを感じる人がいたかも知れない。「オリエント急行」も大スターの競演である。
同じフォーマットで制作していたのが昔の「紅白歌合戦」。懐かしさと豪華さだけで惰性で見る。懐かしさがゼロになったこの十数年、見る価値が何かは私には不明。「みんなのうた」の方が遙かに高付加価値だ。
「オリエント急行殺人事件」 に登場するスターと、 「タワーリングインフェルノ」 に登場するスターだが、前者はヨーロッパ的で後者はアメリカ的。この違いを見るのも楽しい。
脱出できない環境で起こる事件を描いた他の作品
脱出できない極限環境という場を設定した作品は多数ある。
操縦不能のジャンボ機に閉じ込められた乗客という設定が「エアポート75」(※)。この作品も1974年制作だ。この作品にも多数のスターというか様々な、当時の有名な俳優が登場している。
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この頃はパニックものが流行した年代。スターシステムではないが、地下鉄内で起こる事件を描いた「サブウェイ・パニック」(※)、少し後の1977年には競技場で起こる事件を描いた「ブラックサンデー」(※)<日本公開は遥か後になってから>がある。日本では1973年に「日本沈没」が公開された。
1974年頃のパニック映画を調べてみたら、こんなのも登場していた。こちらは「グランドホテル形式」ではないが、逃れられない環境で追い詰められるという類似性がある。
![](https://assets.st-note.com/img/1654338967863-XMM6hc3xyn.png)
上で取り上げたパニック作品に最も多く登場する俳優がロバート・ショーであるのも注目。
制作の動機となった出来事について
「オリエント急行殺人事件」 は、チャールズ・リンドバーグの長男誘拐事件がモチーフになっている。現実には 「オリエント急行殺人事件」のような二度目の殺人事件は起こっていない。 動機以降はアガサ・クリスティーの創作と思う。
現実に起こった類似事件
「タワーリングインフェルノ」の高層ビル火災、その背景となるような米国の事件は知らない。以後のビル火災に関する事件では二件思い出すものがある。
一つ目は、日本で1982年に発生した「ホテルニュージャパン」の火災。その頃私は近所でバイトをしていた。焼失跡を見たため強く記憶に残っている。超高層ビルではなかったが、上層階に閉じ込められた人が脱出する様子はテレビで何度も流れ恐怖感を覚えたものだ。
二つ目は911。失火ではなく航空機突入テロによる火災でビル崩落という事件。しかも私はたまたまライブで、もちろん日本国内でだが、深夜のCNNニュースで目撃してしまった。
その頃の私は帰宅後に海外放送を見る事が多かった。CNNがニューヨークからライブ中継をしていて世界貿易センターから煙が出ている。驚いて見る内、あっという間にビルが崩落した。一体何が起きたのか?と呆然とした事を覚えている。
事実は映画より奇なり。ジェット旅客機突入とケロシンの火炎程度で、アメリカを代表する最も頑丈なはずの高層ビルが崩壊。信じがたい脆弱さ。それ以来、高層ビルには行きたくなくなってしまった。
閉じ込めの効果について
過去2年以上、私は閉じ込められてきた。外の様子が分からない。情報源が限られるが最も怖い。何がどこで燃えているのか。何が原因で誰が犯人なのか。危機から脱出しようと情報を漁り意外な事実が分かる。
閉じ込め理由を考えた結果、なぜか世界と歴史を見る目が完全に変わったりする。視点が変わり少しだけ賢くなった。無作為は失火ではなく放火。人道の罪は陪審員が裁く。正義がパニックを終わらせる日が待ち遠しい。
キャスト、監督、スタッフ、制作会社など
念のため、私は 「オリエント急行殺人事件」 の方が好き。勧善懲悪ものだからかも知れない。「タワーリングインフェルノ」 は愚かな経営者やエンジニアのせいで罪の無い人が被害に遭う点が不愉快。
<登場するスターたち>
オリエント急行殺人事件
アルバート・フィニー、マーティン・バルサム、リチャード・ウイドマーク、ウェンディ・ヒラー、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビゼット、アンソニー・パーキンズ、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーブ、ジャン・ピエール・カッセル
タワーリングインフェルノ
スティーブ・マックイーン、ポール・ニューマン、ウイリアム・ホールデン、フェイ・ダナウエイ、フレッド・アステア、リチャード・チェンバレン、ジェニファー・ジョーンズ、ロバート・ヴォーン、ロバート・ワグナー、O・J・シンプソン
<監督、スタッフ>
オリエント急行殺人事件
監督:シドニー・ルメット(※)(「十二人の怒れる男」の)
音楽:リチャード・ロドニー・ベネット(※)
制作:パラマウント
タワーリングインフェルノ
監督:ジョン・ギラーミン
制作:アーウイン・アレン(「ポセイドン・アドベンチャー」の)
音楽:ジョン・ウイリアムズ(「JAWS」「StarWars」の)
制作:ワーナーブラザーズ、20世紀フォックス
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