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親切な暗殺 #毎週ショートショートnote

「殿、お覚悟を」と重臣の瀬古庄造は迫った。「逃げ道はござらぬ」そう迫られた耳鼻藩主の柏田文三はうめくように呟いた。
「儂の何がいけなかった…」
「殿の「聴く力」とやらが世間には勝手な言い草に聞こえたのでござろう」
「庄造よ、美桜はいかがしておる」
「美桜様でしたら、手前が安全な場所にお連れいたした。いや、側室の身を案じている場合ではありませんぞ!」
 すぐさま庄造の刀が一閃、柏田の元結が切り落とされた。
「お命頂戴。幽霊が何処に行かれようと預かり知らぬ事でこざる」
 瀬古の「親切な暗殺」の後、藩主柏田文三の行方は杳として知れなかった。

 それからいくつかの新月を数えた頃。耳鼻藩のはずれ、卯曽村の庄屋は忙しい日々を過ごしていた。種蒔きの時期だというに、新しい使用人が役に立たないのだ。「あの野郎、ひとの話を全く聞いちゃいねえ。流れ者を拾ってやった恩を忘れたか」庄屋は薪ざっぽうを一つ握りしめると、使用人のいる畑へと急ぐのであった。
(410文字)

たらはかに様の企画に参加させて頂きます。
出来不出来はともかく、今週も続けられた事に安堵しています。皆様はどのような「親切な暗殺」を描かれたのでしょう。楽しみに読ませていただきます。

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