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大増殖天使のキス #毎週ショートショートnote

 ある日、都市近郊の集合住宅の壁が、何かに黒く埋め尽くされた。
 正体はアリだ。メディアには連日若い昆虫学者が登場、時の人となった。アリは南米原産で咬まれれば死に至り、現地では「天使のキス」と呼ばれ恐れられていた。
 やがて各地の病院で大増殖し医療崩壊を招いた。さらに大手物流センターでも発生、生活物資の流通が麻痺した。若い昆虫学者はその都度対策を主導し、彼を支持する声は日増しに高まっていった。
 混乱の責任を取り総理は退陣。総選挙となり、昆虫学者は政治家転身と政党結成を表明。直後の選挙で大勝し旧与党と連合政権を樹立した。
 次は単独政権かと期待が高まる中、昆虫学者の行動とアリの大増殖の関連を指摘する記事が週刊誌に掲載された。すると直後に、出版元でアリが大増殖し数人が死ぬ事態が発生した。何かがおかしい…そう囁く声も束の間、再度総選挙となり昆虫学者の党は圧勝、単独政権を樹立した。
 …その後数年で、日本は独裁国家となった。

(410文字)


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