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カフェ4分33秒 #毎週ショートショートnote

 ジョン・ケージとその作品「4分33秒」について教えてくれたのは彼だった。何も演奏しない曲なんて変だという彼女に、「でも耳を澄ませば音はある。人の囁き、木々のざわめき、雨や風の音。全て音楽になるんだ」彼女には彼の言うことがよくわからなかった。
 彼はその後会社勤めを辞め、彼女と「カフェ4分33秒」を開店した。「カフェ4分33秒」にはBGMがなく、客は静かにコーヒーを飲んでいる。会話は禁じられている訳ではないのに声が溢れることはなかった。
 店が軌道に乗った頃、彼は体調不良を訴えるようになった。やがて店に立つ事も出来なくなり彼女を残して逝ってしまった。
 彼女は人を雇って店を任せた。店の隅でぼんやりと過ごす日々が続いた。

 ある日ふと目覚めるように、彼女は気がついた。コーヒーミルの音、カップとスプーンのあたる音…全ての音の中に彼がいる事を。ここに彼はいない。でも確かに存在している。だから何も心配することはないのだ、と。

(410文字)


たらはかに様の企画に参加させていただきます。
ジョン・ケージや4分33秒という作品について少し学びました。今回そこを活かした作品にするのか、全く離れていくのか悩みましたが、このような作品となりました。
みなさんの作品を楽しみにしています。また、コメントもお待ちしております。

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