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秋の空時計 #毎週ショートショートnote

 空気の冷たさに夏の終わりを感じ、私は街へと出かけた。杖を頼りにゆっくりと歩く。
 目抜き通りを裏手に入ると、見知らぬ古風な店が現れた。「秋の空時計店」。店名に惹かれ足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」長い髪の女が現れた。
 ショーケースに一つだけ、時計が展示されている。コバルトブルーの文字盤にシルバーの時針。美しい腕時計だ。「お客様、こちらは秋の空時計と申します。きっとお気に召しますよ」そういうと女はあっという間に私の手首に時計をつけた。女の振る舞いに戸惑いながらもコバルトブルーの文字盤を眺めていると、突然今は亡き妻との思い出が蘇ってきた。秋の空の下、妻と過ごした日々。気がつくと私は涙を流していた。
「お値段は500万円です」
 言われるまま私は支払い手続きをすすめた。
 秋が終わる頃、手紙が一通届いた。差出人は無く、「お待ちしています」とだけ書かれたグレーの便箋が入っている。私は妻と出会った冬の日を思い出していた。

(410文字)

たらはかに様の企画に参加させていただきます。今回も難しいお題でしたね。みなさんの作品を楽しみにしております。

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