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誘惑銀杏 #毎週ショートショートnote

 俺は届いたばかりの桐箱を開き、ぎっしり並んだ木の実を眺めた。「誘惑銀杏」。銀杏の名産地祖母江町の名産品。これをみゆきに見せたらどんな顔をするだろう。みゆきとは、俺の幼馴染で今は居酒屋「みゆき」の女将だ。俺は偶然立ち寄った店でみゆきに再会し、すっかり惚れてしまった。それからは、様々な高級食材を店に持ち込み、みゆきの気を惹くことに躍起の日々。
 今日も開店と同時に店に入り、みゆきに「誘惑銀杏」を手渡す。しばらくして艶やかな銀杏串が出された。一口頬張ると微かな苦味と香ばしさ。これは期待に違わぬ逸品だと悦にいっていると、みゆきが低い声で囁いた。
「それ食べたら帰って」
思わぬ言葉に戸惑っていると、みゆきはさらに言った。
「アンタ、小1のあたしを、臭い銀杏の実を持って追いかけ回して泣かせたこと忘れたの?何が「誘惑銀杏」よ。こんなの「迷惑銀杏」だわ!」
俺は早々に店を後にした。どうやら今夜もみゆきの気を惹くのにしくじったようだ。
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