見出し画像

今回は鼻の手術と癒着についてお話しします。

癒着とは?

癒着というと、ニュースなどで見聞きする政治家や権力者が利害関係のある企業と癒着するという印象が強いかもしれません。
医療における癒着とは、本来離れているべき組織同士が炎症などによりくっついてしまうことを言います。
癒着は、手術などにより、損傷を受けた組織や臓器表面が回復する過程で炎症が発生し生じることがあります。

例えば、鼻の治療のために内視鏡手術を受けた患者さんが、手術中の鼻粘膜損傷により炎症が発生し、結果として鼻の内部の粘膜が癒着することにより、鼻づまりや鼻水などの症状が続くような事例があげられます。

また、おなかに小さな穴を開けてそこから内視鏡や手術器具を挿入して行う腹腔鏡下手術を受けた患者さんが、手術中に腸管を損傷することで炎症が発生し、腸管がふさがれる腸閉そくのような大きな症状が現れることもあります。

炎症により体のあらゆる所で発生する可能性のある癒着ですが、今回は鼻の手術における癒着についてお話ししたいと思います。

鼻の構造

鼻の構造について、「鼻腔」と呼ばれる主に空気の通路となる部分と、鼻腔に隣接した骨の周囲に「副鼻腔」と呼ばれる空間があります。

主な鼻の構造

副鼻腔の表面には粘膜があり、粘液を出し、さらに細い毛のような線毛がたくさん生えています。
ほこりが副鼻腔に入ると粘液に捉えられ、繊毛で鼻腔のほうへ押し出す役割を果たしています。

急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎

鼻の病気のなかで身近なものとして副鼻腔炎が挙げられます。
日本では年間約100~200万人の患者さんがいると言われており、2023年2月には岸田文雄首相が慢性副鼻腔炎の日帰り内視鏡手術を受けているようです。
副鼻腔から鼻腔への粘液の開口部は狭いため、ウイルスや細菌感染、歯の治療などにより副鼻腔の粘膜に炎症が起こって粘膜が腫れると、粘液の排出が妨げられ、副鼻腔炎になります。

副鼻腔炎になると、副鼻腔の中に膿がたまり、黄色い鼻水が出たり、鼻が詰まったり、目の周りの痛みや頭痛が起こることがあります。


副鼻腔炎の状態

主に急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎があり、急性副鼻腔炎は1か月未満で治るもので、自然に治ることもありますが、副鼻腔からの排液の改善と感染を治癒を目的に治療が行われ、蒸気の吸入や、抗菌薬やステロイドなどの薬物療法がおこなわれます。

症状が3か月以上続くものは慢性副鼻腔炎(蓄膿症)と呼ばれ、副鼻腔炎の粘膜が長期間腫れ、副鼻腔ポリープ(鼻茸)が発生することが多く、そのために鼻詰まりや頭痛、匂いが分かりにくいなどの症状が出て、日常生活に支障が出ることもあります。
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の治療には、鼻腔や副鼻腔にある膿を吸って、鼻の中をきれいにする処置や、ネブライザーと呼ばれる機器を使用して、霧状の薬剤を鼻や口から吸入することにより、患部に直接薬を当てる治療がおこなわれます。

鼻の手術と癒着

これらの治療をおこなっても改善されない場合、鼻から内視鏡を入れ、炎症が発生している粘膜や鼻茸を取り除くとともに、副鼻腔の壁を一部取り払って鼻汁の流れを改善し、炎症が起こりにくくする手術をおこないます。

内視鏡手術の際に粘膜が傷つくことにより、じわじわとした出血が1週間程度続くため、鼻の中にガーゼを入れて止血します。
止血をする際に使用するガーゼを取り出す時には痛みが強く、更なる出血を生じることもあるため、患者さんの負担が大きくなります。
そのため、ガーゼを取り出す時に麻酔を使用したり、近年では取り出す必要のない吸収性の綿状の止血材などが使われるケースが増えています。

手術では、鼻腔や副鼻腔の粘膜を切開したり、粘膜を剥がしたりするため、粘膜に傷が付きます。
この傷が治る過程で、本来離れているべき組織同士がくっついてしまう癒着が発生することがあります。

癒着が起こると、鼻腔や副鼻腔の正常な機能が損なわれ、鼻詰まりや鼻水が止まらない、頭痛、顔面痛などの症状が出ることがあります。
また、癒着が進行すると、副鼻腔炎が再発しやすくなったり、視力障害や嗅覚障害などの症状が出ることもあります。

癒着を予防するためには、手術で粘膜を損傷させないような医師の技術が重要です。
また、手術後は、鼻うがいやかさぶたの除去をしっかり行うことで、癒着のリスクを減らすことができます。