本当にずるいよ

これは大好きだった彼の話。


あの人とはいろんなとこに行った。
極普通のチェーン店にも行ったし、新たに発掘した素敵なお店なんかも行ったし、地元のおすすめの中華料理屋とか、開拓したかった喫茶店とか、あの人のお気に入りとか、県内だけじゃなく県外にも進出してみたり、とにかく色々なところに行った。

なかなか普通の大学生が行かないようなイベントに連れてってくれた。
格の違う“大人”たちが集まったDJ付きのイベントなんかにもついて行ってみた。
幻想的な景色を見せてくれたりもした。

最初は本当に私の知らない世界を教えてくれる人だと思って、たくさんついて行きたかったし、彼のことを知るのと同時に彼の生きている世界ものぞいてみたかった。

だんだんと何か違和感を覚えてきた。


私は彼の好きなものがすごく好きだった。
音楽、服、行く店、読む本、考え方、過ごし方、、、
それは、彼が好きだから、という理由ではなくて、本当に私の好みであり理想だったからだ。
でもなんだか、彼と過ごしているうちに彼の真似をしているみたいになっている気がした。
すごく悔しかった。

同じものをすごく好きだと思えるのに、彼が教えてくれたもの知っていたもの全てに深く共感できるのに、何もかもが私の後出しな気がした。
私の理想的な人生、生き方、過ごし方、それをまさに彼が体現化していたことに、悔しさでいっぱいになった。
きっと周りから見たら、彼が大好きでたまらないから彼を真似してしまっている女の子、に見えるかもしれない。
そんな風に思われるのさえ嫌だった。
一歩好みを見つけるのに出遅れてしまったせいだと私は思いたかった。

いつも彼の好きを吸収して私自身を私の理想に近づける、この行為に変化は訪れなかった。ただ、「彼の知っている」が「私の知らない」、こればかりでは彼の手の上で転がされてるみたいで、背伸びがしたかった。少しでは足りない。かなり、かなり背伸びしないと、対等になれなかった。
私の勝手な勘違いかもしれないが、「対等にならなきゃ」、そう思ってしまう関係性ではどれだけ好きでもうまく行かないのは目に見える。

だからきっとうまく行かなかったんだな。うまく転がされてしまっていたかもしれない。周りの人には「それ遊ばれてるよ」「もうやめておきなよ」なんてのはよく言われていた。それに見向きもせず真っ直ぐ好きでいた。でも、ダメだったんだね。

出会って一年足らずで疎遠になってしまった。

それでも彼に染められてしまった私は残っている。
彼に染まって今の私があるんだねきっと。


誰かを思い出すタバコはいいんだよ
シュークリームはいいことがあった時にだけ食べるんだよ
音楽をアルバムで聴くときは一番から、シャッフルせずに聴かなきゃ

コンビニに寄ったらジャスミン茶をよく買っていた
マッチでタバコの火をつけていた
吸い終わったら小さくなったタバコをぐりぐりと潰して火を消していた
本を読むときはカバーを外していた


会わなくなっても思い出させるあなたは本当にずるいよ






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?