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沼落ちには言い訳が必要 ~Official髭男dismの話~

沼落ちする」という言葉が市民権を得て久しい。

「沼落ち」=新しいジャンルの趣味にハマること。

先に結論を言うと

Official髭男dismにハマるのに、ちょうどいい言い訳を見つけました

という記事です。

Official髭男dism

そりゃ知ってましたよ。
4人組ピアノバンドで、Spotifyとかのストリーミング配信であいみょんと並んで聞かれまくってて、タイアップも強くて、2019年紅白歌合戦初出場して、アリーナツアーも売れまくってる人たち。テレビも出まくってましたし。

「あ、これきっと私好きなタイプのポップスだな」という予感はしていました。しかし何故なのでしょうか、ずっと避けてました。紅白とかMステは一応見て「あー、これ流行るの分かるよねー」なんていいながら。

Netflix「あいのり African Journey」も全話見ました(主題歌 Official髭男dism「ビンテージ」がめっちゃ良い感じに使われてる)し、鈴木愛理への提供曲「Break it down」も聴いていましたが、それはあくまで不可抗力として、「やっぱ髭男ってすごいんだねー」と頑張って何でもないようなフリをしていました。

いや、これ本当にもうなんで避けちゃうんでしょうかね。
いわゆる恋愛のテクニック「好き避け」でしょうか?しかし私がいくら避けた素振りを見せたところで髭男が私に興味を持ってくれるわけでもありません。

いや、これ、少し考えてみると、分かることなんです。自分のことですから、いざハマったらハマったで、膨大な時間とお金を注ぐことになることがわかっているので、ある種の自衛・防衛本能的なものなのだと思います。1日ってなぜか24時間しかないので、やりたいことを詰め込むと簡単にパンクするんですよね。やらなきゃいけないこともあるし。

あとは「いざ見てみたらそんなハマらなかった」というガッカリ回避の側面もあったかもしれないですね。

Official髭男dismを避けるのは簡単でしたよ。「いま立川談志の落語にハマってるから(他に時間を費やすものがあることを言い訳にする)」とか「流行りに後から乗るみたいでちょっとかっこわるいよね」とか、いくらでも言い訳はあります。

ちなみに今現在好きになりそう、ハマりそうな予感はしているものの避けているコンテンツは「どうぶつの森」と「Nizi Project」です。

スカートとIRORI Records

そんな私にある日ニュースが聞こえてきました。

ポニーキャニオン内に新レーベル「IRORI Records」を発足

所属は「Official髭男dism」と「スカート」の2組。

スカートがレーベル移籍!というだけでも結構な衝撃だったのに、髭男とレーベルメイト?!という二重の衝撃。

スカート大好きなんですよ。

スカート澤部渡さんというシンガーソングライターのソロユニット。

文学的な歌詞と、複雑なんだけど美しいコード使いと、素朴だけど勢いのあるサウンドがとても沁みるので最高に好き。

たしか自分が聴き始めたのは2016年頃。SAKEROCK解散後から、にわかにカクバリズムレーベルのアーティストが気になり始めて、色々聴いている中で出会ったと思う。
そんななかで、澤部さんが「スピッツ」(あのスピッツですよ)のサポートメンバーとしてMUSIC STATION、通称Mステに出演し、バズるということがあり、反響が大きくスピッツ出演後の回で改めてスカートとしてインタビューに答えていたのを見て、ちゃんと聴き始めた気がする。

色んな人に楽曲提供したりもしてる(藤井隆とかNegiccoとか)。ポニーキャニオンからメジャーデビューした(当時びっくりした)のは2017年秋でOfficial髭男dismよりちょっと前。着実に名曲を量産していて、徐々に売れてきている。今年はついにホール公演をやる予定。

実は生でスカートのライブを見たことのない私は、今年のスカート初のホール公演のチケットをゲットしていたものの、一度払い戻しになり、ちょっとかなしい。同じ会場でリベンジ公演があるので絶対にチケットを取りたい。

…で!話を戻すと「めっちゃ気になってたOfficial髭男dismとめっちゃ好きなスカートがレーベルメイト?!っていうか2組だけのレーベル?!」というサプライズ

理由は上記のツイートの通りらしいのですが、この件で私は思いました。

これはOfficial髭男dismを聴き始めるチャンス…!

しかし、これまでさんざん避け続けてきたし、避けてた負い目もあるし、ということで口から出てくる言葉としては下記の通りになります。

おー、スカートとレーベルメイトになるんだ。やっぱ売れてて流行ってるし、ちょっくらOfficial髭男dismもどんなもんか聴いてみるかー

いや、言い訳!ダサい!カッコ悪い!
しかしもうちょうどいい言い訳を手に入れてしまった私は意気揚々と、Spotifyで「This is Official髭男dism」プレイリストを聴き始めたのでした。

Official髭男dismを聴いて

これまでMステやら紅白やらで見ていたOfficial髭男dismの印象は
・とにかくボーカルの歌がうまい、特にハイトーン
・音像やコード進行がちょうどいい。尖りすぎず、でもベタすぎない。
 かなり作り込んでいるはず。
・でもホーンの音がのっぺりしてる(「宿命」)
・歌詞が何も言っていない(「Pretender」「I LOVE...」)
といった感じ。

まず最初に言っときますけど、Official髭男dismめちゃくちゃハマりました。普通にめっちゃ好きです。

ここからはOfficial髭男dismを聴いていて、今時点までで気づいたことをつらつらと書いていきます。

まず、歌詞!

「何も言っていない」と思ってたけれど、それはやっぱりその通りの印象のままで、とにかく動きがない。特に、歌詞に「衝動性」が全然無い。ずっと自省的で、物事を俯瞰しようして、別の側面がないか見るために回り込んで、確認するだけ、という印象。
これは衝撃的だった。言っとくけど褒めてます。歌詞って、これまでと違う世界に踏み出したり、新しい自分や人間・社会関係を見出すことが歌われるものだと思ってたから。現状肯定とも違う、現状確認みたいな。(主に「Pretender」や「I LOVE…」の歌詞でこの衝撃を受けた)

だって片思いの曲で「そりゃ苦しいよな」と確認するって斬新じゃないですか。

とはいえこれは髭男がすごいだけじゃなくて、やっぱり社会(リスナー)の側がこれを求めているということが大きいと思う。
私の話で言えば、社会人として働き始めて、年齢が上というだけで威張るようなひとたちに「最近の若い子たちって、色々考えてみるたいだけど、全然手と足を動かさないよな」みたいなディスを食らってたことを思い出しましたよ。そうなった原因の社会的背景の分析は他人に丸投げするにしても、やっぱ「とりあえず動く」ことへのリスクが昔より上がってるんじゃないですかね。社会が貧しくなったからなのか、SNSで相互監視されるようになったからなのか、理由はわかりませんが。

で、この何も動きのない歌詞は、カタルシス・解放感はないけれども「うっかり」のマイナスを食らうリスクもない。

やっぱり「無理して前向きなこと言っても空虚」っていう風潮をうまく理解していると思う。
これまでだと「今の自分を変えて、明日へ走りだそう」になるところを「バイバイ イエスタデイ」だもん。まずは「過去」であり、本来バイバイしていて然るべき昨日に別れを告げて、今の自分の現状を認識・確認してる。どうなるかわからん明日をいたずらに目指すのではなく、まずは「今」に自分がたどり着かなきゃ、というのはほんとうに今の世の中っぽい。

でも髭男の歌詞の面白いところは、「予想外のこと」は言わないけど、「予想外の言葉/言い方」が出てくるとこ。「人生柄」とか「世界線」とかのこと。完全に「センスが良い」としか言えない。

「115万キロのフィルム」の「個人的に」も凄い。

今週金曜日のMステで「115万キロのフィルム」を歌うらしい。楽しみ。
完全に余談だけど、髭男を聴き始めてこのかた、「なんで一生分のフィルム=115万キロなのか、理由を知らないままいつまでいられるかチャレンジ」をしています。見守っていてください。

話を戻すと、「ロマンスは続かない」「胸が痛む」みたいなちょっと強めのワードの前には「人生柄」とか「個人的に」とかエアバッグ的に、独特な耳を惹く単語を入れておくことで聴きやすくしてるんですよね。天才じゃないか。

「動かない」主人公の歌詞って、ひたすら内向的になって「卑屈」になりそうなもんだけれど、ちゃんと「切ない」のトーンを保ててるのが凄い。「切ない」と「卑屈」のギリギリをせめてくる。奇跡のバランス感覚。

で、ボーカル

そのウジウジした歌詞のかわりに、ボーカルの歌声が衝動性とカタルシスの全てを担っている

突き抜け感がスゴい。「そのかわり」というか、補って余りある。ライブ映像を見ていても、とんでもない音を出している割に、平気そうな顔をしているのでビビる。でも世界を揺るがすような音を喉から出している。

歌詞では静かに内側の共感を呼ぶようなことを歌っていながら、歌に力がありすぎて、意味上は静かに内向的・音の上では激しく衝動的な二層構造になっていて、「優しく寄り添いながら、激しくブチ上がる」という不可能技を可能にしているとんでもない歌声ですわこれ。

サウンドも

あと演奏うまい。ボーカルの人の鍵盤演奏技術も高いっぽいし、ベースの人の吹くサックスもイカすし、アンジュルムックの時の伊勢鈴蘭さんみたいな顔のギターの人もかわいい顔してめっちゃギターうまい。ドラムの人もタイト。ちょっとしたフレーズもトリッキーで聞き入っちゃう。

わりとジャンルレスなところがあるからこそ、機材とかも多分こだわってるんだろうなーという印象。詳しいことは分からないけれど、ロックっぽい曲でレスポール持ってたり、完成形がまずしっかりイメージできてて、そこに音を当てていくのが抜群に上手い印象。

ベタな引用元(Stevie WonderとかEarth Wind & Fire)を使うのは、これも歌詞と一緒で表現したいことをゴリ押しするこではなく、表現したいことの中から、伝わること(リスナーが耳馴染みあるもの)を選んだからに思える。

だから「衝動的に俺らの思いをブチ撒けるぜ」というよりは、「自分たちのポップスを奏でながら、君が聴きやすいように君の思っていることを歌うよ」という姿勢なのかもしれない。誠実だなあ。

あと、ボーカルの特徴を生かすためには、個人的な意見だけどシンセベースのほうが合ってると思う。「宿命」と「I LOVE…」しか知らないけど、低音が平面的に響いている方が、ボーカルの突破力が増すと思う。

結論

Official髭男dismファンの人は、スカートの曲を聴いてみてください。


私の好きな曲貼っときます。

スカート「君がいるなら」


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