快速急行1861レ

「パパ、どうしてあの人は渡ったの?」
赤信号を無視して歩く男性を見て、幼き子どもが言う。

「多分ね、間違えちゃったんだよ。でもね、絶対にしてほしくはないんだ。覚えておいてね。」
パパと呼ばれる人は優しく笑い、繋いだ手を強く握った。

花束を片手に歩く昼下がり。大きなデパートが廃業となってからというものの、この街に目的なく来ることは無くなってしまった。最後に来た日はまだ肌寒く、夏を迎える前のこと。夕焼けがあまりにも綺麗で、イトーヨーカドーのエレベーターは変わらずにゆっくりと動いていた。ベリーの香りがする煙草はやっぱり苦手だなって考えたりして、お土産を渡し忘れて改札を抜けた。

君が20歳になる少し前のことを、好きな人と海に行った初めての夜を、電話に応じなかったあなたのことを。あっという間に過ぎた5年間を、10年間を、思い出せる身体があるだけ幸せなのかもしれない。

りんどうの花とビールとカフェオレを買った。当たり前なんだけど、夜は暗くて寂しい。でもここは賑やかで静かだよね。そんな話を白檀の煙に伝わせて手を合わせる。

私が30歳になる少し前のこと。