「風は運ぶ」(即興詩)

そよ風が柔肌をさするように心地よい疲労は惰眠を豊かにする。この身体の隅々に行き渡る酸素の欠乏と薄れゆく記憶。途切れてはつながり、また途切れてはつながり、そしていつかバラバラの断片と化す。
雫が落ちる、涙がこぼれる。そして頁岩に小さな穴が開き、明日の朝には貫通してお前の足元まで水浸しになるだろう。ゆるやかに、ゆるやかに物事は加速していくから、今宵の風は少しばかり進路を変えながら目的地を偽っては心移ろう。風が吹く、風が吹く。そしてすべてがめくられて最初の一枚目が見えたとき、薄っぺらいお前の生き様も古今東西の英雄と大して違わないのだよと坊主は説いた。

人間を侮っちゃいけないね
人間を欺いちゃいけないね

私にはあなたを好きになる権利がある
あなたには私を好きになる権利がある

そんな風に人は人に対して依存していくものなのだ

大好きな季節の入り口が垣間見えたとき、幼児たちは手をつないで無邪気に消えていく。吾輩は今ひとりであの暖簾をくぐるべきなのだろうか。幸せを我先にひとり占めにするほど傲慢ではない。
強風にあおられて一歩前に出た。何かに突き飛ばされて二歩先に進んだ。
どうやら遠慮は無用のようだ。黄金色の稲穂が垂れるあの郷へいち早く旅立つとしよう。

季節の変わり目の眠りは深い。このまま永遠の眠りに向かってしまうかのようだ。
全身を包む風が吾輩の武骨な体躯を測る。時の在り処は既に忘れてしまった。

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