キョンみく作品の投稿テスト

眠る君


 ふいに左肩に重さを感じて、俺は驚いてそちらを見やった。
「朝比奈さん?」
 反射的に声をかけると、その声で、同じ部屋に居た全員の視線が、俺達に集まった。
「みくるちゃん?」
 きょとんとしたハルヒの声。
「寝ちゃったの?」
「みたいだな」
 眠っている朝比奈さんは当然答えられないので、代わりに、俺が答える。俺の肩に頭を預けて、朝比奈さんは規則正しい寝息を立てていた。
 今日は俺の部屋に集まって、古泉の買った新しいボードゲームをやっていた。買える時に買わないといつ出会えるかわかりませんから、などと言って鼻息荒く購入していたボードゲーム。ホクホク顔をして、テンション高く如何に面白いゲームなのかを力説した古泉に、ハルヒがすっかりのせられて。不思議探索パトロールを打ち切って、何故かそのまま俺の家に移動、となったのだ。
 それからずっと、俺の部屋でボードゲーム。事前に研究していたというわりには相変わらず弱い古泉と、ムキになるハルヒ。うーんうーんと頭を抱える朝比奈さんに、いつも通りの無口無表情の長門。白熱し、時間が経つのも忘れていた。
「疲れたんだろ。昨日も遅くまで勉強してたらしいしな」
「そうなの?」
「ああ。朝も眠そうにしてたからな。聞いたんだ」
「ふーん」
 ハルヒは何故か目を細めて俺を見た。意味がわからず、見つめ返すと、まるでそっぽを向くかのようにハルヒは俺から顔を背けた。
「どうしましょうか。ちょうどいいですから、お開きにしますか?」
 ゲームのカードを弄びながら、古泉がハルヒに尋ねると、ハルヒは、あごに指をやって少し考える仕草を見せた。少しの間をおいてから、肩をすくめて、
「……そうね、お開きにしましょうか」

 肩にかかる重み。意識せざるをえない重み。こそばゆい重み。
 ベッドによりかかるように座っている。俺も、彼女も。そして彼女は今、俺の肩に頭を預けて、眠っている。
 朝から眠そうだった。今日はあまりできないだろうから、と、昨日の夜遅くまで受験勉強していたという。そして今日、歩き回って、さんざん遊んで、疲れてしまったのだろう。こてん、と本当に不意に、彼女は俺によりかかって、眠ってしまった。
 何度か起こそうかと迷ったが、結局は起こさないままにしている。さっきまで一緒に居たハルヒ達が、そのままにしてろ、と言ったのもあるが。ハルヒ達がとっくに帰った今もなお、俺は彼女を寄りかからせたままだ。彼女の髪が肌に触れて、くすぐったいような感覚を覚える。だが俺は動けない。電車やバスで、知らない人間であったならば、身体を動かして無理矢理起こすということをしただろうが。とてもじゃないがそんなことはできない。できるわけがない。どんなにくすぐったくても、こそばゆくても、俺は身動き一つ取れず、ただ、今の状態を維持するよう、努める他はない。
 彼女は――朝比奈みくるは、どんな夢を見ているのだろうか。
 この体勢は、辛い。動けないのももちろんだが、朝比奈さんの寝息が、俺の耳を刺激する。意識をするなと思っても、俺の身体はどうしても朝比奈さんを意識してしまう。寝息に混ざって時折うめく朝比奈さんの声は、俺の耳に届く度に俺の心臓を跳ね上がらせる。
 重さとぬくもりと、吐息と、くすぐったさと。
 息苦しくて、落ち着かなくて、でも、どこか誇らしい。
 いつのまにか顔がほころんでいるのに気づいて、俺はそっと右手で口元を隠した。たとえ誰も見ていなくても、照れくさくて仕方がなかった。隠す以外になかった。
 隠した口元は、まだ笑っている。にやけるなと言われても、そんなの、無理だ。
 ……幸せとは、こういうことを言うのだろう。
 胸にこみ上げてくる幸福感。俺は口元を隠すのをやめた。目だけを動かして、彼女の方を見やる。
 頭を撫でたら――起きてしまうだろうか。
 そんなことを考えて、俺は右手を彼女の方にやろうとして、やはりやめた。撫でるのは無理そうであったし、無理にやったら、起こしてしまうだろうと思ったからだ。
「……ョンくん」
 ふいに聞こえた声に、ぎょっとする。起こしてしまったのだろうか。先ほどまでとは違う意味で跳ね上がる心臓を抱えてじっとする。が、彼女は何も喋らなかった。それどころか、ほんの少し身じろぎしただけだった。単なる、寝言だったらしい。
 そのことに気づいて、俺は胸をなでおろすように深く息を吐いた。
「俺の名前……」
 ぽつりとつぶやく。俺の夢を見ているということだろうか、朝比奈さんは。
 ――夢の中で、俺と何をしてるんですか、朝比奈さん。
 胸中で問いかけて、俺は天井を仰ぎ、こみ上げてきたものを、溜息とともに、ゆっくりと吐きだした。


過去作を載せつつ、どんなもんか投稿のテスト。

だいたい、三年前くらいの作品ですね。
多分ベッドを背もたれにするような感じで座ってたんだと思います。キョンの部屋の広さ? 知らん知らん。

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