見出し画像

恋をしているその顔は(ハルヒ視点)

 そちらを見たのは、ただの偶然だった。ただなんとなく。なんとなく、顔を向けただけだった。いつもの駅前。いつもの集まり。あたしたちはいつもこうして、あいつが来るのを待っている。
 遅刻厳禁、というルールを守ってはいるけれど、あいつが来るのはいつも最後だった。たまには誰よりも早く来たっていいじゃない、と思うのに、あいつはいつも一番最後に来る。全員がそろわないと移動できない。待ち合わせ場所を変更してもいいのかもしれないけれど、誰も何も言わないし、なんとなく、ここで待つのが当たり前になってしまっている。どうせこの後はいつもどおり喫茶店に入るんだし、先に行きましょ、と誰も言わないのはなんでなのだろう。ただまあ、先に行ったりなんかしたら、置いてけぼりにしてるみたいでなんとなく嫌な感じがする。五人そろって移動する、というのがあたしたちは皆好きなのかもしれない。
 あたしの視線の先に居るのは、あたしたちのマスコットとも言える美少女だ。先ごろ、SOS団副々団長に任命した、SOS団のナンバー3、大切な友達の、みくるちゃん。


 春の穏やかな風にふわりと髪を揺らしながら、彼女はある方向を見つめている。柔らかな眼差しで。どこかうきうきとした様子で。嬉しそうに、楽しそうに。
 見つめている方向は――と考えて、それはすぐにわかった。あいつが来る方向だ。あいつが駐輪場に自転車を停めてから、ここに来るのは、決まってみくるちゃんが今眺めている方向。つまりみくるちゃんは今。
 キョンのことを、考えている。
 面白くない、と言えば面白くない。気づいてしまうと、むかむかする。
 だけど――同時に、かわいいな、とも思ってしまう。
 すぐに悪態をついてしまう自分と比べると、みくるちゃんは素直でかわいい。ついつい思っていることと反対の憎まれ口を叩いてしまうあたし。あいつはそれをわかってくれてて、あたしはそれに甘えちゃって、いつまでも直らない。もっと素直に言えたらいいな、とは思うし、わかってはいるけれど、どうしようもない。そんなあたしと比べたら、みくるちゃんの方がきっとあいつ好みの女の子なんだろう。みくるちゃんだって、あいつのことを多分好きなのに――あたしの方があいつのことを好きだと思っているけれど――なぜかそこだけは素直でない。おおかた、あたしに遠慮でもしているのだろう。そこは一回、びしっと言ってやらないといけない。敵に塩を送る、というわけではないけれど。
「……」
 今のみくるちゃんの姿は、まるでデートの待ち合わせをしているかのよう。かわいらしくて、カメラでもあったら写真に残しておきたいくらいだ。
 恋というのに表情があったなら――
 きっとこんな顔をしているのだろう。あいつを――キョンを想っているだろうその顔は、きっと、恋。


以前描いた絵を挿絵にの、即興でした。
ハルヒ視点で、朝比奈さんを。
お互いに影響を受けたり、自分もがんばろうって思えるそういう三人娘の関係を描きたいというのは、いつまでも変わらぬ思いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?