ぜんざいの記憶

 お正月も過ぎてしばらく経った1月15日がまだ祝日だった頃、幼い私が楽しみにしていたのが、おばあちゃんの作るぜんざいだった。たまたまその日、転校生で親しくなった子が遊びに来ていて、おばあちゃんのぜんざいを一緒に食べることになった。「おもちじゃないんだ」とその子は言った。
 おばあちゃんの作るぜんざいは、小麦粉で練ったお団子が入っていた。
「なんか変」そう言われて初めて、私はぜんざいに入れるものが他にもあることを知った。急に恥ずかしくなった。
 ぜんざいに入れるものは、お餅とか白玉団子とか、時には栗の甘煮なんかもある。
 でも、あの、ちょっと固くてもっちりした独特の食感が、おばあちゃんのぜんざいだった。
 私がおばあちゃんのぜんざいを食べていたのはたぶんわずかな時期だけのことだ。私が中学生になる頃にはすでに作らなくなっていて、お正月のためのお餅つきのあんもちぐらいになっていた。それも高校生になる頃には、おばあちゃんが高齢になったからかやめていた。
 そんなこともあったからか、私は我が子が小さい頃から小正月にはぜんざいを作って食べる習慣にしていた。小豆から煮るような本格的なものではなかったけれど、お正月に買った個包装のお餅を残しておいて、小正月の日にぜんざいを食べていた。
 今年、お正月に買ったお餅は余らなかった。そして、小正月の日、どうしても用事があって出かけていて、家でぜんざいを作るというのは難しかった。我が子はもう高校生で、別にどうしてもその日に食べなくてもいいかと私は思っていたが、我が子は違った。やはり小正月にはぜんざいを食べたいらしい。外出先でぜんざいを食べられる店をネット検索して探していた。不思議なくらい習慣が根付いていた。そのことが嬉しいような不思議な気持ちではあった。
 もう、私の祖母はとっくに他界していて、小麦粉団子のぜんざいのことも、きっと私だけがこだわって覚えているのだろうと思う。
 結局、今年は外出先からの帰りに甘味処に立ち寄って、我が子とぜんざいを食べた。こんがり焼いた香ばしいお餅が入っている上品なぜんざいを食べながら、私はおばあちゃんの作った小麦粉団子のぜんざいを思い出していた。
 もしかしたら、我が子にもいつか私のぜんざいが思い出されることがあるのかなあ、とかぼんやりと考えてしまった1月15日だった。
 春から我が子は一人暮らしをすることになっている。もしかしたら、こうやって小正月を過ごすのは最後になるのかもしれないと、なんとなく感慨深くなってしまっていた。我が子が暮らすアパートを決めた日のことだった。

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