【小説】メロンソーダの味

サワダカオ、です。

今回は短編小説を一本掲載します。
あとがき的な記事ものちほど書きますので、そちらもよろしければ!
まずは小説『メロンソーダの味』をお楽しみください~!


メロンソーダの味


 目が覚めて一番に冷蔵庫を漁る。入っているのは晩酌用に買ったビールのみ。身体に悪いと分かっていても、それを手に取った。
 そのままベッドに座って、なんとなくテレビをつける。しかし、人気のお歳暮の紹介をするリポーターの声がなんとなく鬱陶しくてすぐに消してしまった。
 溜まりに溜まった有休の消化を指示されて休みを取ったが、こんななんでもない平日にしたのは失敗だったかな――そんなことを考えながら、由夏ゆなはビールを呷った。とは言っても、誰にも迷惑をかけずに休めるのはこんななんでもない平日しかない。
 大学を卒業して、今の会社に就職して四年。それなりの企業に就職することができたから、福利厚生もそれなりだ。人間関係も今のところは良好だし、不満はない。ただ、やりがいも無いのだ。
 毎日毎日似たような仕事内容。たまにトラブルが起こることもあるが、対応しきれる範囲のことのみ。それを四年も続けていたら飽きるのも当然だろ、と由夏は思っている。仕事に熱意や誇りがあれば飽きずにやっていけるのかもしれないが、生憎由夏は持ち合わせていない。
 やりがいやら熱意やらは完全に見失っていたが、転職しようとは思わなかった。理由は単純。就活でしたのと同じくらい、あるいはそれ以上の苦労をしてまでやりたいと思えることがないからだ。
 それにそもそも働くこと自体好きじゃない。やらなければ生きていけないからするだけで、しなくていいならしたくない。そう常々思っている。
 就職したばかりの頃はこんなではなかったのに。
 ふと、そう思った。仕事が好きではないのは変わらないが、もう少し前向きだった。上手くいけば達成感があったし、ミスをすれば落ちこんだ。休みが待ち遠しくて、そのために仕事を頑張って。念願の休みはオシャレをして、学生時代の友人とご飯を食べたり、まとまった休みなら旅行に行ったりもした。それがいつからこんなに無気力になってしまったのか。
 そこまで思い返して、考えるのをやめた。考え始めたらキリがない。それに、こんなことに休日を使うのはさすがの由夏でも寂しすぎる。
「……外、行くかぁ」
 不意に湧いた考えを口にしてみる。時計に目をやれば正午を少し過ぎた頃。今から行動すれば、なんでもない平日を少しくらいは実りのある平日にできるかもしれない。そのためにはまず外に出なくては。家にいたら酒を飲んで寝るだけだ。
 そう心に決め、残ったビールを流し込んで立ち上がる。しかし、すぐにベッドに逆戻りした。アルコールが回ったせいではない。外に出るための準備が嫌になったのだ。
 こだわりがあるわけでもないが、化粧もせずに外に出るのはさすがに憚られる。社会人になってからできた習慣は思った以上に身体に染みこんでいた。だからといって休みの日にわざわざ化粧をするのは面倒くさい。由夏は根本的に面倒くさがりである。
 口に残るビールの苦みと共に外に行こうという気持ちはどんどん消えていく。その代わりに外に出たくない気持ちがどんどん湧き上がってくる。そもそもなんで外に出ようと思ったんだっけ。ついにはそんなことを考え始めた。実りのある休日に~なんて思ったはずだが、実りとは何だろう。家から一歩も出ずに日頃の疲れを癒やすことも、社会人として立派は実りではないだろうか。特別外に出なければならない理由もないし、もういいや。そう自分を納得させてベッドに背中を預ける。そのままスマホに手を伸ばそうとして、ふと手が止まった。
 今日外に出ることを諦めてしまったらどうなるだろう。きっと今年の休日は家で自堕落に過ごすことになってしまう。残された休日の数を想像してさすがにゾッとした由夏はしぶしぶアウターとマスクに手を伸ばした。


「寒っ」
 吹き付ける風に思わず身をすくめた。ダウンジャケットのファスナーをできるかぎり上げて、冷気の遮断を試みる。化粧を面倒くさがったのは正解だったかもしれない。マスクの保温性は由夏の想像の何倍も高かった。
 それにしても――と、歩きながら考える。ここまで寒くなっているとは思わなかった。顔に当たる風は痛いくらいだ。天気予報は毎朝見ているし、その内容によっては防寒具も身に付けている。それでもこの寒さを実感してはいなかった。何気ない朝の習慣も事務的になっていたんだと痛感して、またゾッとする。
 いろいろなことに対して無気力になっていた自覚はある。けれど、ここまでだとは思っていなかった。それに気付けただけでも外に出た価値がある気がする。
 冷たい空気を思いっきり吸って、思いっきり吐く。外に出た価値を見つけたのはいいが、やることはまだ一つも見つけていない。
「どこいこ……」
 当がなさすぎるのも困りものだ。この時間からできることはなんだろう。このあたりに住むのも四年目になるが、何があるのかはあまり知らない。スーパーやコンビニ、ドラッグストアなど生活に必要な店の場所は把握しているが、それ以外は全くだった。会社への通いやすさと生活の便利さだけで選んだ場所だ。記憶上は近くに娯楽施設すらない。そのおかげで静かな生活を送れているが、こういうときには物足りない。
 とりあえず、駅の方に向かってみよう。そこまでいけば商店街がある。商店街を歩いてみたら新しい発見もあるかもしれない。そう決めて、歩き慣れた道をゆっくり進む。普段と違う時間だからか、知らないところを歩いているような気さえしてくる。
 いつも曲がる十字路に着く。ここを右に曲がって五分ほど歩けば駅だ。目的にしようとした商店街もそこにある。
 そういえば、左には何があるのだろう。一度も行ったことがない。不動産屋に説明された気もするが、何しろ四年前のこと。一切覚えていなかった。
 どうせなら行ったことがない道を進んでみよう。そう決めて左に進む。人通りの少ない道を少し歩いた先にあったのは公園だった。案内板を見る限りだと、かなり大きな公園だ。遊具だけでなく、グラウンドやビオトープもあるらしい。それを取り囲むように遊歩道まで作られている。散歩をするにはうってつけだ。
 公園の中をゆっくりと歩く。中途半端な時間だからか、人とすれ違うこともほとんどない。たまに遠くの方から子どものはしゃぐ声が聞こえてくるくらいだ。この寒い中でも元気に動き回る子どもの姿が簡単に想像できる。些細なことでキャッキャできる子どもたちが羨ましい。こんな大人にはなるなよ、と心の中で呟いた。
 それにしても今日は寒い。自覚したせいか、寒さが身に染みてしょうがない。何か温かい飲み物でも買おう。これだけ広い公園なら、自動販売機の一つくらいはあるはずだ。
 予想通り少し歩いた先に自動販売機が見えた。しかし、見えているのは自動販売機だけではない。目当ての前には手を伸ばして跳ねる女の子が一人。小学校にあがる前くらいの子だろうか。最上段にある飲み物を買いたいようだが、身長が足りていなかった。
 ……どうしよう。正直な感想はこの一言だけだった。このご時世話しかけるのも躊躇われる。かといってあの子がいなくなるのを待っていたらいつになるか分からない。違う自動販売機を探すという選択肢もあるが、それはそれで多少の罪悪感がある。
「ふー……」
 長めのため息をついて覚悟を決める。
「どれほしいの」
 いきなり話し掛けたせいか、大きな目でじっと見つめられる。その目は少しだけ潤んでいた。もしこのまま泣かれたり大声を出されたりしたら逮捕されかねない。話し掛けたことに若干後悔しつつも目線を合わせ、できるかぎり笑顔でもう一度話し掛ける。
「ほしいの押してあげようか?」
「うん!」
 パッと明るくなった表情を見て、話し掛けて良かったと思い直した。今日はよく気持ちがブレる。
 この子が入れたであろう金額と商品を確認する。親に貰ってきたのか、はたまた自分のお小遣いか。入っているのは百円だけ。これでは買えるものはかなり限られてしまう。
「何飲みたいの?」
「メロンの!メロン味のがいい!」
「ん。分かった」
 メロン味の飲み物を探す。それに相当するのは女の子が押そうとしていたであろう最上段にあるペットボトル容器のメロンソーダだけだ。きっとこの子が買おうとしていたのはこれだろう。それを分かっていても、なぜかボタンを押すのを躊躇ってしまった。この躊躇いはメロンソーダが百円では買えないものだからではない。
「……シュワシュワするのでもいいの?」
「うん!」
 念のため確認すると、見本のような返事が返ってくる。ここまで聞いて買わないわけにはいかない。足りない分の金額はこっそり足して、メロンソーダのボタンを押す。
「はい。どーぞ」
「ありがと!」
 今日一番の笑顔でお礼を言われた。由夏が感じた些細な躊躇いもどうでもよくなってしまうほどの笑顔だ。それを見てしまうと、これで良かったと思えてきた。
 役目を終えた由夏は本来の目的に思いを馳せる。何を買おうか。温かいものを買うとは決めているが、この時期の自動販売機のラインナップの半数以上は温かいものだ。温かいものという条件だけなら絞り込めてすらいない。せっかくなんだから、普段は選ばないようなものを選ぼうか。そう思ったが、やめた。もしハズレを引いてしまったら、外に出たことを後悔する羽目になりそうな気がしたからだ。
 無難に選んだコーヒーの缶は思っていたより熱い。この寒さにはありがたい熱さだ。この公園でベンチがある場所はどこだろう。なんて考えながら振り返ると、女の子がにこにこしながら由夏を見ていた。とっくにいなくなっていると思っていたものがそこにあるだけでこんなにもドキリとするのか。
「……ママのとこ、行かないの?」
「おねえちゃんと一緒に飲むの!」
 返事をするより先に手を引かれる。危うく転けてしまいそうな力だ。小さい子の力はこんなに強いのか。驚いていても頭は冷静だ。抵抗すればこの子まで転けてしまうかもしれない。どうせ暇だし、ここまできたら逮捕もされないだろうし、と女の子に付き合うことにする。
 連れていかれたのは遊具が置いてあるエリアの隅にある東屋。保護者が遊ぶ子どもを見守れるように作られたのだろう。よく考えられた公園だ。
「ママがね、ここでジュース飲んで待っててって」
 既に座ってペットボトルの蓋と格闘している女の子の横に座る。小さな手で一生懸命蓋を回そうとしているが、一向に動かない。
「ん~……」
 ついには唸り声が聞こえていた。よほど固い蓋のようだ。
「開けようか?」
「……うん」
 たいそう不満げにペットボトルを渡される。なんでも自分でやりたい年頃なのだろう。でも、自分では開けられない。粘っていたらいつまでもジュースを飲めないと気付くあたりこの子は大人だ。きっと由夏がこのくらいの年齢の頃だったら、意地でも自分で開けようとしただろう。その頃はまだ無気力ではなかったから。
 由夏にしても少し固いペットボトルの蓋を開けて、女の子に渡す。ようやくジュースを飲める喜びからなのか、さっきまでの不満げさはどこにもない。こぼしそうな勢いで軽く乗せてあった蓋を取って、ペットボトルに口を付けた。
「おいしい!」
「よかった」
 炭酸とは思えない勢いでごくごくとメロンソーダを飲む女の子を横目に、缶を開ける。丁度良い温度になったコーヒーが身に染みた。ただの缶コーヒーをこんなにも美味しいと思えるのはきっとこの寒さのおかげだろう。
「それなーに?おいしいの?」
 女の子は興味深そうにコーヒーを見つめる。じぃっと見つめる女の子になぜか懐かしさが湧く。女の子の真剣な視線と懐かしさのせいで感じたくすぐったさに思わず笑みが零れてしまった。
「なんで笑ってるの?」
 自分が笑われたと思ったのだろう。じとーっとした目で由夏を睨む。
「ごめん、なんでもない」
 残っていたコーヒーを飲みきって、缶を女の子に見せる。
「君にはまだ早いよ」
「え~……あっ!じゃあさ!」
 不貞腐れた表情はすぐに何か素晴らしいことを閃いたような顔に変わる。ころころと変わる感情の豊かさに関心してしまうくらいだ。
「おねえちゃんみたいな大人になったら飲める?」
 無邪気に放たれたその言葉はなぜか由夏に刺さった。
「……飲めるよ」
 美味しいかは分からないけど。
 嬉しそうな女の子を見て、その言葉は飲み込んだ。
 昔どこかで『苦みを美味しく感じるのは疲れているときだ』と聞いたことがある。聞いたことがあるだけで、真偽のほどは分からない。でも、もしそれが本当ならコーヒーの美味しさなんて知らなくていい。『大人の味』と言えば聞こえは良いが、そんなものは憧れているだけで十分なのだ。今飲んだコーヒーも、朝飲んだビールも。
「ごめんね、お待たせ」
 マイバッグを両手に持った女性が近付いてくる。きっとこの子の母親だろう。優しそうな人だ。由夏と目が合っても、怪訝な顔は一切せずに丁寧にお辞儀をしてくれた。
「ママ!あのね、さっき友だちになったおねえちゃんだよ!」
 女の子は母親に由夏を紹介する。どうやら気付かぬうちに友だちになっていたらしい。母親はこういう場面に慣れているのか、深く追求はされなかった。それよりも、女の子が持つペットボトルを気にしている。
「何にしたの?」
「メロンソーダ!」
「えぇ!?」
 見本のような驚き方をする母親。さすがは親子といったところか。些細な反応が似ていて面白い。
「あのね、届かなかったからね、おねえちゃんに押してもらったの!」
「えぇ……」
 母親の表情は明らかに困惑している。一方の由夏はこの子が感情豊かなのは母親譲りなんだな、なんて場違いなことを考えていた。
「お金足りた?」
「足りたよー」
 信じていないらしい母親は眉を下げて由夏を見る。
「足りてました?」
 本当のことを言うのは野暮な気がした。かといって嘘をつくのがこの子のためになるとは思えない。
「足りたってことにしといてください」
 この母親なら分かってくれる。そう信じて言った。由夏の予想通り分かってはくれたが、慌てて財布を出そうともしてくれる。やはり優しい人だ。しかし、それには気付かないフリをして立ち上がった。ここでお金を受け取るのもまた野暮な気がしたからだ。
 突然立ち上がった由夏を女の子は不思議そうな顔で見上げる。なんだか愛おしくなって頭を撫でると、くすぐったそうな顔をした。
「じゃあ行くね」
 女の子は少し寂しそうにしてくれたが、引き留められることはなかった。今までもこうやってたくさん友だちを作り、たくさん別れてきたのだろう。やっぱりこの子は大人だ。
「おねえちゃん、またね!」
「またね」
 腕が取れそうなほど手を振る女の子とペコペコ頭を下げる母親に手を振って、由夏は公園をあとにした。


 風呂上がり、髪を乾かすより先にベランダに出る。暖めたばかりの身体が急速に冷えていくのを感じた。湯冷めなんて覚悟の上だ。
「……はぁ」
 雑に髪を拭きながら、今日一日を思い返す。たいしたことはしていないが、濃い一日だった気がする。
 昼頃に起きて、起き抜けに酒を飲んで。なんとなくの思いつきで散歩をした。知らなかった道を進んだ先にあった公園で、女の子に出会った。ほんのわずかな時間ではあったが、楽しかったと思う。ただ少し、ほんの少し寂しくもあった。
 タオルを肩にかけて、用意しておいた缶に手を伸ばす。公園からの帰り道、あの女の子に影響されて買った、メロンソーダ。久しぶりに飲んだそれは、今の由夏には甘ったるい。
「メロンの!メロン味のがいい!」
 安っぽいメロンに似せた香りが、あの女の子の嬉しそうな声とキラキラした目を思い出させる。
 どうしても、メロンソーダを素直に買ってあげることができなかった。あの中で『メロン味』の飲み物はメロンソーダしかなかったのに。
「……メロン味、か」
 いつからだろう。メロンソーダをメロン味だと思えなくなったのは。
きっとあの子は信じている。メロンソーダはメロン味だと。疑ったことすらないだろう。昔は由夏もメロンソーダをよく飲んだし、信じていた。それこそ、あの子のように目を輝かせて。そして、あの子のように何かに憧れながら。
 もっとも、由夏が憧れたのはコーヒーではない。ビールだ。母が美味しそうに飲むあの金色が羨ましくてしょうがなかった。
 由夏の母は小学生にもならない、それこそあの子くらいの年齢の由夏を連れて居酒屋に通うほどの酒好きだった。家では一滴も飲まなかったが、近所にある個人経営のこぢんまりとした居酒屋に週に一度は行っていた。
 母の一杯目は必ず生ビール。ジョッキで飲む姿は幼い由夏にはかっこよくすら写っていた。そんな母に憧れ、由夏もビールを頼もうとしたことがある。当然ビールを出してくれたことはないが、代わりにメロンソーダをジョッキに入れてくれていた。
「知ってるか?ビールよりこっちの方が高級やねんで。なんてったってメロンのソーダやねんから」
 ビールが飲めなくて不貞腐れている由夏に店主が言った言葉だ。幼い由夏はまんまとこれに騙された。母よりも高級なものを飲んでいる。そんなよく分からない優越感とほんの少しの罪悪感。それがメロンソーダをより美味しくした。だからといって、ビールに対する憧れが消えたことはなかったが。
 もしこれがコーラだったら。サイダーだったら。きっと由夏は納得していなかった。メロンという高級な果物をジュースで飲んでいるという意識があったからこそ、由夏はメロンソーダが好きだった。
 でも、いつからかメロンソーダを飲んでもメロン味だとは思わなくなった。感じていたはずの高級感は消え、その香りを安っぽいとすら思うようになった。そして、いつのまにかメロンソーダを口にすることすらなくなった。
 メロンソーダを否定したいわけではない。二百円以下でメロンを感じられるならそれで十分だ。そう頭では分かっていても、思う。それは決してメロンではない、と。そして事実として知っている。メロンソーダにはメロンが含まれていないことを。
 そんな思いが手を止めた。メロンソーダを『メロン味』と言ったあの子に、メロンソーダを渡すことを躊躇わせた。この子のメロンソーダに向けられたキラキラした目も、いつかはなくなってしまうのはないか。そう思ってしまった。
 普段飲むビールと容量はほとんど変わらないのに、いつもより腹に溜まる。甘みのせいか、はたまた心情のせいか。やっぱりビールにしておけばよかったかもしれない。普段は一日一本と決めているが、たまの休日だ。増やしたってバチはあたらないだろう。
 それに、今はあのとき憧れていたビールがいくらでも飲める。自分で制限をつけただけで、誰かに止められているわけではない。居酒屋に行ったって、ジョッキのビールを頼める。ビールを羨みながら、メロンソーダを頼む必要なんてない。小さなことだが憧れを叶えたことには変わりないのだ。
 なのに、それなのに。ビールに憧れながらメロンソーダを飲んでいたあの頃の方が幸せだった気がする。
 そんなことを考えながら、残ったメロンソーダを流し込んだ。
 やはり、メロンソーダは甘ったるかった。

end.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?