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九年間

 母の最期の九年間、正確には八年八ヶ月を私は直接知らない。

それは事実ではあるけれど、母の存在を忘れることのない九年間でもあった。
親子の形はそれぞれあると、簡単に割り切れることではなかった。

けして私は母の早い死を望んでいた訳ではない。私が願っていたのは母の幸せで、母の幸せに私が関わることは困難だったというだけだ。
世の中の尺度とは全く違う手段を、私は決断したというだけのこと。   母の死の知らせを受けた時、衝撃の様なものは一切感じず、ただただ何かが消えたのだと思っただけだった。

母が生きている間、母の死に向き合えるのかという疑問は、凄まじい恐怖ではあった。しかしそれは、母の娘ではなく、私は私の子ども達の母親であるという立場で、すんなりと受け入れることができた。

母は「母」ではなく、ずっと祖母の「娘」でいた人だったのだと、母を見送ってより強く感じている。