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大の野球好きが突然Bリーグにハマった話 〜前編〜 とどろきとYouTube

冬が嫌いだった。寒いし、乾燥するし、静電気で服や髪がまとわりついて鬱陶しい。そして何よりも、野球がないからだ。

学生時代は年間100試合以上現地に行っていた大の野球ファンである私にとって、冬は心が枯れる季節。特に12月と1月は練習試合さえもなく、毎日昔の野球動画を見ながら、来たる球春に思いを馳せるのが定番の過ごし方だった。

そんな刺激のない日々を過ごす私に、友人から連絡が来た。

「12月6日、バスケ見に行かない?」

それが私とBリーグの出会いだった。

とどろきで感じた、Bリーグの熱狂。

実は1度だけ、縁あってバスケを見たことがあった。2016年、とどろきアリーナで行われた東芝ブレイブサンダース神奈川vs熊本ヴォルターズ。初めて見るバスケはスピード感があって、選手はみんな背が高くてかっこいいし、普通に楽しかったことを覚えている。ただ、まあ、たまにでいいかな。と思い、その後は特に機会もなく、アリーナに足を運んでいなかった。

友人が誘ってくれた12月6日の試合は、まさに同じとどろきアリーナで行われる川崎ブレイブサンダースvsレバンガ北海道の試合だった。

「演出すごいし絶対楽しめると思う!」

誘ってくれたのは、野球を通じて知り合った友人だった。熱心な野球ファンの彼女だったが、最近はすっかりバスケにのめり込んでいる。暇だし、家から近いし、まあ行ってみるか。そんな軽い気持ちで行ったアリーナで衝撃を受けた。

オシャレなチームビジュアル、試合開始前から爆音で鳴り響く音楽、表情が分かるほど近くで見えるイケてる選手たち。「パリピ」に全く縁のないオタク生活を送ってきた私が想像する「パーリーな非日常空間」が広がっていた。アリーナに入ると同時に、「今日、来てよかった」と確信した。

スポーツ観戦といえば会場でいただくご飯とお酒も楽しみのひとつだ。出店でレモンサワーを注文すると、店員のおっちゃんが「お姉さん、お酒好き?」と話しかけてきた。私は見た目だけで呑兵衛に見えるのか……?と動揺しながら「はい、好きです!」と答えると、「じゃあこれ、途中で終わっちゃった方もあげる」と言ってカップに半分ほど入ったレモンサワーをオマケしてくれた。私の購入でちょうどサーバーが切り替わったようだ。見た目で呑兵衛だと思われたわけではないことに安堵しつつ、今日がいい日になる確信がさらに高まった。ありがとう、店員のおっちゃん!

ジューシーなカツにしっかり味がついていてお酒に合う「タンメンチサンド」を頬張りながら練習を見ていると、あっという間に試合開始の時間になった。

暗転する場内。思わず身体が揺れるようなノリノリの音楽に合わせ、よく知った川崎の風景がカッコよく編集されたPVが流れる。

そしてこれまたハイセンスな選手紹介映像に合わせ、続々と入場する川崎の選手たち。手拍子に合わせて高まる熱気。アルコールも手伝い私はすっかり雰囲気に没入し、名前も顔も分からない選手たちに向けて、周りのブースターに合わせて手拍子をした。

試合前、普通のシュートは2点、スリーポイントラインより外から入れば3点、ボールを持って3歩歩いたら反則、くらいのルールしか知らなかった私だが、アリーナMCの方が試合を盛り上げつつ適度に解説してくれるおかげで全くついていけなくなることはなかった。試合も川崎が制し、必ずまた来ようと思いながら気分よくスタジアムを後にした。「にわかバスケファン」誕生である。次の日、会う人みんなに「Bリーグが凄いよ!」と興奮気味にプレゼンしてしまうほどに、たった1回の観戦で、お客さんを絶対に楽しませようとする”プロスポーツの本気"を思い知らされた。

川崎ブレイブサンダースは、「にわかファンキラー」だ!

ハーフタイム中、ビジョンに川崎ブレイブサンダース公式YouTubeチャンネルの宣伝が流れた。宣伝にはこんな文句があった。

「川崎ブレイブサンダースのYouTubeは、かわいいらしい」

どういうこと?と思いながら友人に聞くと、どうやら本当におもしろくてかわいいらしい。

帰宅すると友人からLINEが来ていた。内容は川崎ファンなら知らない人はいないであろう神回動画のURL。さっそくポチッと押してみた。

なんだこれ、めちゃくちゃ可愛いぞ……!

見終わったとき、私は完全に川崎ブレイブサンダースのとりこになっていた。

さっきまであんなに真剣な姿でプレーしていた選手たちが、YouTubeらしいバスケ企画で、まるで中学生のようなノリではしゃいでいる。さらに、選手に対する優しくもキレのあるチームスタッフ(と字幕)のツッコミのおかげで面白さ倍増。チーム一体になってファンに提供する「選手の裏の姿」を見て、私のオタクハートは見事に撃ち抜かれてしまった。

正直、真面目なバスケの動画だけ見ていたら、ここまでグッとくることはなかっただろう。「にわかファン」にとって、例えば戦術のあれこれを学ぶのはハードルが高い。でも川崎のYouTubeなら、バスケのことが分からなくても選手のキャラクターが分かる。そして選手のキャラクターが分かれば、選手が身近な存在のように感じられ、試合を見るのもより一層楽しくなる。試合を見ていけばルールや戦術の妙も覚えて、どんどん深くのめり込むことになる。

思えばプロ野球は、なかなか「にわかファン」に厳しい環境なのではないか。基本ルールが難しいのもあるが、球場で今起こったプレーに関するルールが説明されることはまずない。なんとなく周りのファンに教えてもらいながらだんだん慣れていくのが一般的なような気がする。

島田チェアマンと元プロ野球選手の里崎智也さんの対談で、里崎さんがこのように仰っていた。

「野球は居酒屋やビアガーデンみたいなもんですよ。ビアガーデンに行ったらたまたまそこで野球をしてた」

私はこの発言に深く頷いた。プロ野球は居酒屋のような空間の中、仲間同士でお酒を飲んでご飯を食べながら会話する中で、いつの間にか野球そのものと切っては切り離せない仲になっていくようなイメージ。元々プロ野球は日本で1番と言ってもいい人気スポーツなので、そのやり方でいくらでもファンは増えるだろう。

対してBリーグの歴史はまだ浅く、バスケの試合中にファン同士でご飯を食べながら会話しているヒマはなかなかない。だから、

現地観戦の非日常体験(試合中の演出)×選手の魅力(試合以外のコンテンツ)=ファン増加

このように考え力を入れているのではないだろうか。

私はその戦略にまんまと乗っかり、「にわかバスケファン」から「にわか川崎ブースター」にレベルアップした。

例の友人に神回動画の感想を伝えて、川崎がすっかり好きになった話をすると、またLINEが来た。

「1月13日、天皇杯を見に行こう!」

私は即快諾し、早くもプロバスケ2試合目の観戦が決定した。

(長くなってしまったので後半に続きます。)

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