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すべてはたい焼きを食べてもらうため。『たい焼きグラビア』にかけるみなみんの志とは。

みんなの意識の中にたい焼きを広めたい。

「非公式だけど、私は “すべてのたい焼きの広報担当” だと思っています。たい焼きは見た目もかわいいし、サイズ感や手軽さ、値段から得られる幸せがちょうどいい。ハンディなおやつだから、晩御飯の前とかちょっとした隙間時間でも食べやすいし、ケーキだと罪悪感があっても、たい焼きなら許されるかなって。そんなたい焼きをみんなにもっと食べてほしくて」。
学生時代にたい焼きにハマってから、関西のたい焼きを蒐集(しゅうしゅう)してきたみなみん。周囲にたい焼きをすすめるうちに、身近なたい焼き屋さんの存在を認識していない人が多いことに気づいたのだそう。やがて、みんなの意識の中にたい焼きを広めるべく ”たい焼きブリーダー" と名乗り、SNSなどでたい焼き情報を発信するようになった。
「生活エリアや好みに合わせてたい焼き屋さんを紹介すると、みんなのたい焼きセンサーがオンになります。すると、街中のたい焼き屋が自然と目に留まるようになるんですよ」。
また普及しているうちに、新しいたい焼き屋さんを発見した人がみなみんに情報提供するようになったという。
「好きなことを積極的に言うことは大事!そうすると、他の人が新しい情報をキャッチして教えてくれたりするので」。
なるほど、たい焼き屋さんを見つけるならより多くの目があった方がいい。
「周囲を自分本位に巻き込んでいるんです」と話すが、色んな人が集めた情報をみなみんが発信することで、たい焼きのさらなる普及につながる。もちろん、一人で「好き」を突き詰めることも楽しいが、周囲を巻き込んで生み出すサイクルはとても豊かだ。


  "たい焼きブリーダー" の活動はたい焼き蒐集に留まらず、雑誌への寄稿やグッズの制作などに広がっていった。そもそも、なぜたい焼き蒐集に励むのだろう。尋ねると「マニアってそういうものかと」と不敵に微笑んだ。
「昔から収集癖がすごくて、本屋さんのレジ前に置いてあるしおりやナツイチのパンフレットを集めていました。たい焼きも全部見ておきたいというか、全部知ったうえで人にすすめたくて」。
その収集癖から、ある年は祇園祭の宵山にくり出し、屋台のたい焼きを一人で7匹制覇するという暴挙に出たこともあった。終盤に合流した友人がなぜかルネ・マグリットの代表作『人の子』(1964年)のオマージュとして、たい焼きで素顔を隠したみなみんを撮影したことから『たい焼きグラビア』(以下、たいグラ)が誕生。そのひょうきんなビジュアルにみなみん自身も惹き込まれたという。以来、たい焼きを食べる際には、美しいプロポーションと細長い指を活かしてたいグラを撮るようになった。

いつか、関西のたい焼きをまとめた本を作りたい。

ここで改めてたいグラを見てみよう。最初は謎のビジュアルに疑問がわいた人もいるかもしれない。さらにたい焼きに吸い寄せられつつ、『人の子』よろしく素顔が隠れていることに不安を感じたのではないだろうか。そんな親近感と不安の不協和音が、私たちの好奇心を掻き立てる。しかし「私はたい焼きの額縁」と謳うように、主役はあくまでもたい焼きだ。「たいグラをきっかけにたい焼きに興味を持ってもらいたい。だから少しでも注目を集められるように、ポージングから指先の角度まで表現にもこだわっています」。少しずつたいグラコレクションは増え続け、2019年には写真集を制作。同年夏には大阪は招き猫餡舗で初の写真展を開催した。まもなく結婚を機に関東に拠点を移したが、それでも関西のたい焼き屋さんに足を運び続けた。たい焼きへの愛、ひいては故郷・関西への愛着が強いとはいえ、彼女が関西のたい焼きにこだわる理由は何だろうか。
「関東に比べると、関西はお店も発信する人も多くないんです。でも、個性豊かなたい焼き屋さんをもっと知ってほしくて。いつかは東京のたい焼きをまとめた『東京のたい焼き ほぼ百匹手帖』のような、関西のたい焼き本を作りたいんです」。

その布石となる今回の写真展では『京都回遊編』と銘打ち、京都市内にある7店舗のたい焼きを収めた作品を展示。各店の特徴なども紹介する。一回目の写真展ではたい焼きと人の上半身を大きく写していたが、今回はお店周辺の風景も切り取った点に注目したい。「前回、招き猫餡舗に在廊する中で子連れのお母さんやおっちゃんがひっきりなしに買いに来たり、夕方におばちゃんが大量に持ち帰る様子を見て、たい焼きのある生活っていいなって。路地の景観にもお店がすごいマッチしているんですよね。それ以来、お店の風景にも焦点を置くようになりました」。たい焼き屋さんが街の風景に溶け込んでいるからこそ、その存在に気づかず素通りする人もいるかもしれない。しかし、たい焼きで素顔を隠したみなみんと風景が重なることで不協和音が発生し、私たちの好奇心が刺激される。その時、たい焼きとあなたの新しい出会いが生まれるのだ。(マコ)

※本記事は2021年に開催されたたい焼きグラビア展〜京都回遊編〜で配布された案内パンフで公開されていました。ライターはマコさんです。

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