SS「ドレス」

 私はチノ。普段は瓦利斯飯店の店長代理、美味しいご飯や楽しいショーを提供しているよ。でも、そんな喧騒も静まり、みんなが寝静まったあとーー私は本当の仕事を開始するんだ。

「ふむ、下調べに来た時よりも警備員が多くなっているね。普通に侵入するなら困難かな……でも」

 ふふ、と私は不敵に笑う。でも、どれだけ厳重な警備だろうと、私にかかれば関係無い。入口から数メートル離れたところまで近づき、私は時間を操った。数多くいる警備員が一斉に動きを止める。

「おやおや、欠伸なんかしちゃって。ごめんね」

 単独行動をしている人物をターゲットに、服装を奪い取り警備員に扮して館に侵入する。人気のないところまで進むと再び時間を動かした。こうやって私はいつも警備をくぐり抜けている。ね、簡単なものさ。

 そう、深夜の私は、猫のように華麗にお宝を盗み出す怪盗。

「チノ、お店の経営……予算とか売上とか、大丈夫なの?」

 前にニナにそう相談されたことがある。自由気ままに生きるメンバーの好きにお店を経営していたのでは、お金はいくらあっても足りない。ミューが食材をお得に調達してくれているのも助かるし、みんなで頑張ってショーやいろんなイベントでお客さんを呼んでいるのもたしかだ。だから大赤字ではない。でも、売上だけだと足りない、苦しくないわけでもないんだ。

「大丈夫だよ、心配しないで。私に任せて」

 遠くでこの会話を聞いていたネフィも心配そうな視線を送っていた。だから私はネフィにも聞こえるようにそう言った。私が深夜にお宝を盗み、それを売り捌く。そうして手にしたお金をお店の経営にあてている。メンバーには決して言えないけれど。

ーーでも、それでいいんだ。私にできるのはこれくらい。

「私の居場所は、みんなの居場所はーー私が守る」


 * * *


「っていうのはどうかな?!」

 ニナが身体を乗り出して語り終えた。

「怪盗、ねえ……たしかにチノによく似合いそうね、仮面とか」

 うふふ、とミューは笑う。と言ってもミューは先程からすべての案を肯定している。

「だって、どれも似合いそうなんだもの。それに、新しいチノの一面なんて、想像してるだけでニコニコしちゃう」

 実際、ミューはこんな感じで終始ニコニコしているものだから困る。ことの発端は私だった。

「そろそろ私の新しい魅力を開拓してみたいと思うんだけれど……先生以外だと、何が良いかな?」

 真っ先に口を開いたのがララだった。ララが出したのはお嬢様だった。自分では全然想像できなかったんだけれど、ララの話を聞いているとそんな一面も悪くないと思えた。ヴィッテはマッドサイエンティスト。高笑いやダークな雰囲気が似合いそうらしい。どんな一面だ。そして、ニナの怪盗である。

「まあでもさ、チノはチノだよ。どんなチノでも、あたしは良いと思う」

 ネフィが上手にまとめる。相変わらずの面々で、何故か安心した。このメンバーなら、きっとどんな私でも受け入れてくれるに違いない。

「やっぱり、今のままでいいかなあ」

 なんて投げやりな結論に至っても、それを肯定してくれる6人が、私は大好きだ。

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