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許銘傑のオレが豊田さん!2023特別編 by36

ラクテン モンキーズ ノ シュー ミンチェ テス ハァー
(以下、愛娘ジェンジェンの訳)

※実在の許銘傑氏とは関係ありません

 たいへんご無沙汰しています。WBCでの、日本の14年ぶりの優勝。とんでもないWBCブームが起こったそうですが、その華々しいファンファーレと共に、2023年のプロ野球、始まりましたねえ。世界中が予想もしなかった疫病に巻き込まれ、スタジアムからお客さんの声援が消えて3年。しかも最初は無観客試合でした。

 いやあ、あんなに寂しい球場があるかと思ったねえ。オレも引退してだいぶ経つけれど(今は台湾に戻り、楽天モンキーズで一軍投手コーチをやっています)、元プロ野球選手として言えばね、やっぱりお客さんの声援ってのは必要不可欠なんです。オレは郭泰源さんと話すたびにこの話になるんですが、日本の野球の応援、あれは日本球界の財産ですよ。
 選手もね、そりゃ声援がなくても一生懸命野球をやっとったでしょうが、応援のない球場ってのはやっぱり、張り合いがないもの。

 老若男女、ファンの皆さんからの叱咤激励。あれこそがオレたち選手の背中を押すのです。岩隈だって佐々木朗希だって、大谷だって、ノリさんだって谷だって、村上だって何するものぞ。そんな気持ちで立ち向かっていけるのは、皆さんの応援あってこそです。年が経っても、新しい子供たちがスタジアムに集い、キラキラした目で選手を見つめ、大声で声援を送ってくれる。それこそが選手のパフォーマンスを引き出すのです。
 逆に言えば、球場にファンの皆さんが集ってくれるからこそ、プロ野球というものは今まで受け継がれてきたわけです。

 ファンの皆さんの選手への眼差し。選手や、我々関係者の、ファンの皆さんへの敬意。この関係性こそがプロ野球の本質と言っていいと、オレは思う。
 このままプロ野球の楽しさ面白さを書いていけたら、どんなに良かっただろうねえ。

 こう書くと、オレが何を書きたいのか、昔オレが書いていたものを読んでくれていて、まだ覚えていただいている人がいるなら、ピンと来る方もおいでではないでしょうか。

 週モリベースボールという野球週刊誌があるでしょう。オレは日本語に詳しくないから、本当は何という雑誌なのかは知らんけども。
 この週モリベースボールが5月7日、Web版にアップした記事が注目を集めました。
 そのタイトルが「パ・リーグ首位のソフトバンクと日本一のロッテ、もし2005年に"連合軍"を結成したら?【プロ野球もしもオーダー】」というものだったからです。ちなみに、その2日前のこどもの日には、「オリックスと近鉄。合併ではなく“連合軍”として2005年を迎えたら?【プロ野球もしもオーダー】」という記事を、同じライターが書いていました。

 あのねえ、いくらなんでもこれはないでしょう。オレは、本当にガックリ来てしまいましたよ。

 2005年、もちろん覚えている人も多いと思うけど、前年の2004年を最後に、近鉄バファローズは半世紀持ち続けた球団を手放し、近鉄バファローズはオリックスブルーウェーブと合併して、オリックスバファローズになったんです。
 その一報が流れたのは、今でも忘れもせんよ、2004年6月13日の日経新聞です。あの日のオレ達は、文字通りお通夜でした。近鉄が経営的に相当厳しくなっていたのは知っていたけれど、身売りでもネーミングライツでもなく(ネーミングライツ案は実際ありました)、球団消滅・合併とは。

 しかも続報として、他の球団間でも合併、そして10球団1リーグ制化に向けて協議をしている、というニュースも流れました。結果的にその2球団とはロッテとホークスだったこと、合併交渉は成立しなかったことを、9月に行われたオリックスと近鉄の合併を認めたオーナー会議の直後に、当時の西武の堤オーナーが公表しました。
 結果的に、ホリエモンやら一場問題やら、さらにはあまりのファンや選手の反発があって、新球団として東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生し、2005年も12球団2リーグ制は維持されました。

 ただね、あの結果は奇跡の産物だったんですよ。オリックスと近鉄の合併自体は防げませんでしたが、合併反対運動をファンの皆さんはそりゃ熱心に繰り広げたし、署名活動をやったり、プロ野球史上初のストライキをやったりして選手会も相当強く反発した。試合ごとに観客席から流れるパ・リーグ連盟歌「白いボールのファンタジー」の合唱が、オレは今でも耳から離れんよ。そして、運にも恵まれた。

 2005年以降も、パ・リーグファンの団結はすごかったんです。ある意味で、合併のための世論懐柔策としてセパ交流戦が始まったわけですが、私の知ってるパ・ファンは「パの決着はパの中でつける。交流戦はパ一丸となって、1勝でも多くセに勝つ」と息巻いていました。
 実際に交流戦でパはセを圧倒したんです。2005年〜2014年までの10年で、セのチームが優勝したのは2012年、2014年の2回のみ。リーグの対抗成績に至っては、コロナで中止になった2020年までの15年で、セ・リーグの勝ち越しは2009年の1度だけでした。

 なぜここまで、パ・リーグファン、そしてパ・リーグの選手達が必死になったか。その遠因は、日本シリーズにあったんです。1993年に野村ヤクルトが森西武に勝ってから10年、日本シリーズでパは96年のオリックス、99年のダイエーの2回しか勝てませんでした。
 今となっては信じられない人もいるだろうと思うけど、当時はね、「パ・リーグはレベルが低い」という論が、プロの野球評論家の口から当たり前に出る時代だったのです。「レベルが低いからつまらない」と。それが「つまらないからお客が来ない」になった。その行き着く先に球界再編騒動はあって、「レベルの低いパ・リーグは、セ・リーグの二軍組織として生き延びるべし」なんてことを大真面目に言う評論家がいたのです。オレはまだ覚えてますよ。
だって、オレがこのコラムを書き始めたのは、「パ・リーグは素晴らしい、プロ野球は素晴らしい」と言いたかったからなんだもの。

 今回の記事に私のまわりのファンの皆さんが怒っているのはね、「ソフトバンクとロッテの連合軍」というのが「必死の運動の結果、やっとのことで避け得た暗黒の未来」を茶化しているとしか思えないものだったからなんですよ。
 そして先行記事の「オリックスと近鉄の連合軍」に至っては、「実際に消滅した球団のファンと、吸収合併する側とはいえ、多くの選手と引き裂かれたファンの、普段言わないけれど決して癒えていない古傷を無神経に抉る」ものだったからです。実際に、合併以降、オリックスのファンにも楽天のファンにもならなかったファンがたくさんいるのです。
 今回、オレは「パ・リーグはまだこんな扱いを受けなきゃいけないのか」という声をあちこちから聞きましたよ。オレもそう思ったもの。
 かのライター氏は、あの記事を書くときに少しでもその心理に思いを馳せたんでしょうか。オレにはそうは思えないんですよねえ。

 球界再編騒動から、20年近くが経ちました。20年弱というのはすごい時間で、たとえば当時まだヨチヨチ歩いていたうちの娘が、今では千葉の大学に通っています(先日、テレビ朝日の「激レアさんを連れてきた。」という番組に娘が出ていたようですが、ご覧になった方もいらっしゃるでしょうか)。

 野球ライターの世界も新しい血を入れていかなければならない。それは、新規のファンを獲得し続けていかないと潰れてしまう、プロ野球そのものと同じです。若い(と思われる)ライターの人が、再編騒動のときのあの空気感を肌身で理解していないのは、それ自体は不勉強だけども仕方がない。
 くだんの「連合軍」が、「片方の球団の打順と守備位置を固定したまま、各ポジションでの出場試合数が多いほうを選んで打順を組む」という、およそマトモに考えたとは思えないシロモノなのも、まあ百歩譲って責めはしません。

 オレはね、何より一番罪が重いのは週モリベースボール編集部だと思うよ。デスクだの編集長だの、そういう立場の人もいて、そこそこの年齢の人がやっているわけでしょう?
 仮にも最大手の、野球専門誌ですよ。「当時の空気感を考えれば、この記事は絶対に受け入れられない」と止められる人が1人もおらんのかね?
 そしてこの状態になってもまだ、「炎上したから記事を消してしまえ、そのうち忘れる」と判断しているんですかねえ?オレの知るかぎりオフィシャルコメントはまだ出ていないけども。

 もし仮にそうだとすれば、悲しいことだけどもね、もう誌名からも社名からも、ベースボールの看板は下ろすしかないと思うよ。
 こんなことをやっとってはね、日本のプロ野球報道はおしまいですよ。そしてそれは、プロ野球そのものの足を引っ張ることになる。

 あの頃はね、たった見開き半ページの、自分の贔屓の球団の情報を得るために、週モリベースボールを毎週水曜日に買い求めるファン達がいたんです。そのファン達が週モリベースボールを支えてきたはずです。
 野球ファンに、野球そのものに、敬意を払えないで、何をもって「ベースボール」を名乗るのか。しくじったら真摯に反省のコメントを出さずして、どんな顔で「野球専門誌」を名乗るのか。

 オレは、今回の件が心底残念です。数年ぶりに筆を取ったのも、あまりに居ても立っても居られなかったからです。週刊ベースボールには猛省を促したい。たぶん、ファンは忘れんでしょうね。少なくともオレは忘れんよ。
 これからベースボール・マガジン社がどうするのか、オレは注意深く見ておこうと思います。それが、プロ野球にかかわって生きているオレの、野球に対する真摯さのつもりです。

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