#刀剣短歌 2022まとめ
┊黒田組
地図に星えがけばそこが目指す場所 だいじょうぶ、たましいもひかるよ
手から手へひかりをともしあうように回されてゆく朝のはちみつ
┊長蜂
花冷えの橋をあなたと渡るとき逆立てられない針があるんだ
待ち合わせしていないのに会えてしまうあなたは夢でも遅れてこない
どうしたら棘まであまくなれますか金平糖をていねいに噛む
風と手をつないだ紅葉(もみじ)から駆けてゆくこの道ならつなげる気のする手
┊審神者+歌仙兼定
庭で呼ぶ春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)の花の名前 二人称だけにきみはふり向く
花の名を教わるならあなたからが良く筆に墨ふくませるごとすます耳
花かおるお茶と氷を瓶に入れ夏のきみへの魔法よここに
てのひらを見せあえば縮尺のちがう地図の川みたい、いのちの線は
生活を重ねたからこそ今朝さいた花の名をほら、教えてあげよう
ここからは走馬燈だと気づくとき、きみ、きょうの花ときてくれないか
その声もひとひらと呼べばしりとりの道行きまでも花にあふれて
もし春にたましいがあればこんな色 コーンスープをおごそかに飲む
┊審神者+初期刀
大福と幸福を読み間違えてあなたと笑ってわけあうふくふく
つぎの世も冬の佳き日に会いましょう 伏線としてつくる雪うさぎ
恐竜はいいなきみと揃いの数の首の骨を持ち死んでものこる
かなうならこれまでの日々を足跡と呼んできみだけの化石になりたい
もしわたしが死んだらあばら骨を抜いて白い珊瑚にひみつでまぜてね
┊へし切長谷部
結ばれて生まれた蝶を背にとめてあなたの希む花をまもります
花の影のゆれてふるえるもののことこころと呼ぶのでしょう、あなたは
眠るのは苦手 胸の野にそよぐ花のやさしいばかりの光が届くの
なつかしい そう思えば吐息はこぼれさざめく水面の底に揺らぐ花
┊時間遡行軍
さくらさくら呼んでも呼んでもいらえないほほ笑みに音のないあなたよ
降らないで雪、雨、さくら おまえたちは空白にこそ溜まり光るから
ちがいます 踏み外したのではなくてまなうらにひかる花をえらんだ
剥がれても剥がれても鱗かえりみず遡る魚(いお)のいること わかるよ
枝先のひかりのどれだけおぼろでも花咲く道を何度も選ぶ
ぐちゃぐちゃのベリーのタルト 底のひびに気づいたらなにか違っていたかな
菜の花かあなたなのかはわからない、でも落としたのは確か まばたき
スノードームひっくり返す無邪気さはどうか箱庭に向けずにいてね
ひとつきり守るなにかのために立つわたしもあなたも違わないでしょう
わたしたちの日々を悲劇と呼び捨てて放たれた火の色はなんて青
やわい湯に葉のひらくまでを待つひとの誠実としてある砂時計
ゆるされなくてもいい此処の野の砂が時計だった日のおかえりがほしい
気がついて(います/いません)息をするごとに花散る春ということは
〈ただしい〉は本能のルビではないよ日々に思い出と名をつけただけ
恐竜の生きている島を信じてるあなたの生きる朝を信じる
|パライソに寄せて
ねえ波は引くときに砂に爪立てて抗うんだね うん、それだけ
濡れている砂って影の色みたい 引く波を追えばつまさきににじむ
夥しい水がただしく光ってるあれが海だよ 帰るよ、帰るね
┊そのほか
夏の昼に茹でるおそうめんおそろしくない火もあるときみは言っていた
|燭台切光忠
月型のパンを食べるときできるだけこぼさないようにしたい できない
|三日月宗近
のどぶえのそのすこししたに結うリボン 断たない、をえらべるうつわがすきです
|白山吉光と兄弟
日記って燃えて消えるからきおくみたい しゃべりませんか、声はのこるから
|一期一振
めいめいに満ちたグラスの飲みもののきみにはきみのうつわがあるね
|源清麿と長曽祢虎徹
鍵盤に指おくように足おろしあのこもあのこも春風となる
|短刀
おおらかに花の輪を編むきみだからここには春がこんなにめぐる
|長期不在本丸
ひらかれた花図譜のような庭だから立てば栞に見えるでしょうか
|長期不在本丸
豆苗のこんなにするるる伸びること知らなくて知って笑える朝だ
|厨にて
進むそして帰るためにも鳴らすヒール フリル裂けたって怯んでやらない
|乱藤四郎
きみに風 緞帳(どんちょう)のようにひらくから前髪の奥に満月を見せて
|鶴丸国永
日々という岸から離れてゆく舟はひとり乗りだからきみはここにいて
|刀剣破壊
この庭にあの日々を持たず立っていますそれでもあなたのわたしでいたい
|二振り目
わたあめの森をため息が抜けるころあわく笑ってくれたらうれしい
|包丁藤四郎
にんじんのグラッセしか怖いもののないきみに守られてばかりでごめん|審神者と短刀
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?