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詩たち
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2021年6月の記事一覧

感情のゆらぎの波にのり

夜空は海原 月は舟 薄目をあけたような鋭い三日月にのって ゆらり 星々の間に舵を取る 静かな水面 禍々しい深海を隠して ゆらり 月明かりが伝播する f分の1ゆらぎ音の波がささやく中で かすかな主張を受信しようとしている きれい、だとか。素晴らしい、だとか。怖い、だとか。 闇に乗じたふりをして見逃されるのを待っている 「どこへ行っていたの」 迎える準備はとうに済んでいる ふと、「これが寂しい、だとかいう合図なのか」と浮かんではじけ消えた 飛沫をそっと人差し指で分解し ぬるい空

この詩(うた)が死なないように

柔らかな新緑を生(なま)の枝から捥ぎ取り その葉を甘く噛んで詩(うた)を込めた この広場には午前十時の木漏れ日がよく似合う 苔と腐葉土の蒸した階層を踏み締めて 叫ぶ 叫ぶ 叫ぶ―― 湿潤な土地に叫びがしんと吸収されていく 地団駄を踏む 地団駄を踏む 地団駄を踏む―― 肩を上下に揺すって呼吸をする 鼻の奥にこびりついた青の匂いを払い 爪の間に青々とした土を詰めながら 噛み跡を付けた葉を、埋葬した 口笛を吹いても小鳥一羽飛んでこない 生命の連鎖も輪廻転生も程遠いことを知り