僕の心のヤバイやつ2時創作 僕はまいた


…寒い。
ヘッドホンは学校につけていけないのでダサいイヤーマフと帽子とコート、それと明らかに身長に合ってないマフラーをつけて僕は校門を出て行く。くそ、なんで目黒区にこんな靴が埋まるほどの大雪が降るんだ、神を呪い殺してやりたい。周りには異常気象をエンターテイメントに変えて犬のようにはしゃぐ腹ただしい有象無象が雪合戦を始めていた。その中には足立達のグループもいてまあ当然のように遊んでいる。デブが集中的に狙われているが、全身チ…神崎はそのふくよかな腹で跳ねる雪を見てキラキラ目を輝かせていた。ちょ、お前腹があれば誰でもいいのか!そいつとは体目当ての付き合いだったのか!?原さんに謝
「チェスト!」
「ぶっ!」
僕の視界は一瞬真っ白に染まった。
「市川、油断してんじゃねーぞ?」
雪をこすり落とすと足立がドヤ顔でなんか言っていた。ク、クソクソクソ〜〜!
僕はカバンを下ろして、雪玉を作り始めた。

…何やってるんだ僕は。
結局、15分近く奴らと生産性のない泥試合を繰り広げてしまった。原さんがそれを見て笑ってた時はマジで帰ろうかと思った、いや帰れば良かった。
…夏頃の僕なら、ぶつけられる事もなかったのだろうか。
いやいや、夏なんだから当たり前だ。仮定など結局現実の前には等しく無意味。変わったなどとうぬぼれはいけない。人は簡単に変われない。簡単に変わってしまうものならそれは自分なんかではないと思う。
既に新設の足跡だらけの地面を見ながら自己定義をするこの時間が心地良い。心底どうでも良い微かな期待を打ち消してくれる。
「市川ッ」
そう、だから今山田の声が聞こえ、
は?
「やっぱ市川だ」
僕が顔を上げると。
目の前に山田杏奈がいた。
「な、なんで」
僕はそう言うのが精一杯だった。だって山田は今日、モデル活動で早退した筈じゃ。
「えっと、思った以上に雪が多くて外での撮影延期になったの、だから」
「だから、って」
「…忘れ物を取りに来ました」
照れ隠しの笑いを浮かべて山田はそう言った。

既に時刻は5時を回っていた。
僕は、山田と少しだけ離れて雪の中を学校へと歩いていく。
「いやー、すごい雪だね」
「おう」
山田はスキップしたり、雪を足で蹴ったりしながら歩いている。転ぶぞ、顔とか頭打ったらどうするんだよ。また鼻が…
僕がそんな事を思ってると山田が道端にしゃがんで雪をかき集め始める。
「……?」
僕がしゃがんで覗き込むと、山田は。
「ほら、雪だるま」
そこには、小さな雪だるまが道端にぽつんと立っていた。
「…おお」
「上手いでしょ、小学校の頃北海道に旅行に行った時、ドーン!と私よりでっかい雪だるま作ったことあるんだよ」
「それは盛ってないか?」
「雪しか盛ってないよ!」
もう、と山田がそっぽを向く、あ、しまっ、言いすぎた。
後悔と共に視線を山田の顔からずらす。
すると。
山田の手が、りんごみたいに赤くなっていた。しかも小刻みに震えてる。
こいつ、それは。
……駄目だ。駄目だろ山田。駄目だって。
僕は自分の手も真っ赤になってる事も忘れて。
首に巻いてたマフラーを、山田の手にかけた。
「……え?」
「いや、その、手ェ、冷えると…おかし食べづらいぞ」
「……あ、ああ!うん!」
山田は納得したように立ち上がった。
そして、そのまま僕の前に立ち。
「巻いて」
え。
ああ、そうだ。巻いて熱を閉じ込めないと。
僕はマフラーに手をかける。な、何を緊張してる。自分のマフラーだぞ。
マフラーをゆっくりと山田の手を一周するように回す。手が震える。どんな寒さもこんな震えは起こさない。
長すぎたマフラーは、あっさりと山田の両手を包んでしまった。
……なんか、拘束してるみたいだ。
おおおお!?なんだよこれ!!みたいじゃないよ僕が山田の手を拘束したようなもんだよ!!
「…あったかい」
山田が下を向いてぽつりとそう言う。よ、良かったキモがられてない。
「でも、これじゃあもう雪だるま作れないな、もう1個作る予定だったのに」
山田はそう言ってちらりとあの雪だるまを見る。
……はい。分かったよ。くそ。責任は取るべきなんだよな。
僕は雪だるまの近くの雪を軽く拾い上げて、ざっくりと球状にする。それを2つ作ってくっつけて、山田の雪だるまの隣に置いた。
…ちょっと急ぎすぎて不恰好過ぎる、小さ過ぎるし不恰好だし。
「わ、悪い…やっぱこんな」
「ありがと」

「ありがと、市川」

「あ、はい…」
2つの雪だるまを見つめながらお礼を言われてしまったなら。
…もう謝る事も出来ない。
「あ、そうだ市川」
「は、はい」
「私、カバンの中にお菓子入ってるんだ、チョコの」
「知ってるが」
入ってない日があるのだろうか。
「取って?」
首を傾げながら山田が言った。
「……おう」
僕は山田のカバンから恐る恐るチョコを取り出す。それはホワイトチョコで、雪のように白い。僕が山田のぐるぐる巻きの手にそのホワイトチョコの箱を置こうとすると山田はこう言った。
「食べさせて」
「………は?」
「いや、だって、………手が」
山田は僕の目を見つめて、そう言う。
あ、あ、あ。いや、それは。それは。
「お、俺帰るわ!姉ちゃんの、その、なんか用事思い出した!また明日!」
咄嗟に取り繕った言い訳をまくし立てながら僕は立ち上がり、駆け出した。
期待するな、やめろ。山田はああいう奴なんだって学んだだろ!やめろ、やめろ市川京太郎!!
山田は追ってなどこない。そのまま山田を撒いた。
喘息のような息苦しさと共に、僕は家まで駆け抜けた。


「……マフラー……」
「……よいしょ」
「………………」
「…………馬鹿」

#僕の心のヤバイやつ #山田杏奈 #市川京太郎  

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