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デザイン漫遊記 球体(第二回)

デザイン漫遊記 球体の第2回目になります。

球体とは?

3次元ユークリッド空間において、球体とは「ある1点(球の中心)から距離(半径r)にあるすべての点の集合である球面とその内部にある点からなる集合」と定義されています。

半径をrとした場合、球の表面積はS=4πr^2、体積はV=(4/3)πr^3で表されます。球体は、数学や物理学などの分野で重要な役割を持っており、実験器具、工業製品などから地球や宇宙に広がる天体までに使用されています。

柴田順二教授の「球体のはなし」では、『幾何学的に単純明快の極致である球体は、対称性を指向しながら変分原理に従って収束する自然の造形摂理にかなっている形である。』と説明されています。

球体の特性

球体は、自然に存在するものとしては最も理想的な形状の一つです。

その理由は、球体が自己重力によって均等に圧縮されるため、内部の圧力分布が均等になり、強度が高くなることです。また、球体は表面積あたりの体積が最大になる形状でもあり、容積を最大限に確保することができます。

これらの特性から、実験器具、工業製品などから地球や宇宙に広がる天体までの設計や創造において、非常に重要な役割を持っています。

例えば、地球は球体であるため、重力場が地球の形状に影響されることで、海面の高さや気圧、温度などが変化すます。また、宇宙に広がる物体の中には、球形をしているものが多く存在し、その形状から重力場や軌道の特性を理解することができます。

柴田順二教授も「球体のはなし」の中で研究の手段として活用されている代表的な事例として「高電圧測定」、「磁化測定」、「光学レンズ」、「反発係数」、「弾塑性接触理論」を挙げていますが、

それに続けて『何といっても球体が科学技術におよぼす最大の功績は、それがもたらす次の物理特性である。

① 超精密な体積測定
② 最大の比表面積
③ 高い空間充填率

これらは見落とされがちな、しかしきわめて重要な球体の利用価値なので、球体の科学的意義を強調しておきたい。』と解説しています。

具体的にこれらの物理特性がどのように利用されているのかを以下に説明あします。

①超精密な体積測定

あらゆる立体のなかで最も高い形状精度を実現し得るのが球体であり、超精密・ナノテクノロジーといわれるハイテクの製品よりさらに1~2桁高い形状精度に加工整形できるため、球体そのものが最高級の寸法基準ゲージとして利用されることがあります。

②最大の比表面積

比表面積とは「体積当たりの表面積」のことである。球体はこの比表面積を最小にするための究極の形体といます。石油精製工場、LNG船などでの大型貯蔵タンクが球体であることの理由のひとつは、その構造用材の使用量に対して内容積を最大にできるという経済的メリットにあり、比表面積最小という球体の特長を生かしての構造設計です。

③高い空間充填率

所定の容器に充填する物質塊の最大化を探るのが3次元詰込み問題です。一般の立体に比べその接吻数(個体どうしが1度に接することができる接点数)が多い球体(接吻数=12)は所定の容器に対して最大の充填密度を期待できます。球充填の応用に関する最近の話題として、クリーンエネルギー源である天然ガスのハイドレート化輸送(凍結紛体輸送)があげられます。

球体の作り方

球体は、単純な形状であるため、様々な方法で作ることができます。読者の皆さんの中には小学校入学前や小学校低学年の時に球体の代表的な作り方として、泥んこボールを作ったことがある人は多いのではないでしょうか。

泥んこボールを作る方法は、簡単ながらも球体を作るための基本的な手法です。まず、泥を適量取り、手でこねて球状に整えます。その後、表面を滑らかに整えることで、球体を完成させます。泥んこボールを最大限に輝かせられるかはここからの表面磨きにかかっていることは皆さんもご存知の通りだと思います。

この方法は、簡単に球体を作ることができるため、子供の遊びや、工作などにも適しています。

では、実際どのように球体を整形しているのでしょうか。

伯父がつくった球体

球体を苦労して実際に作った話です。

55年以上前に伯父が墓石店を営んでいた時に地元の大きな橋のリニューアルに伴い橋の欄干の4つの親柱の製造を依頼されました。デザインは横から見ると「く」の字の口に球体をくわえるような形でした。「く」の字の石板も球体もすべて石材です。

墓石を製造販売しているので平面の磨きは当たり前にお手の物ですが、石材の球体を作ったことがなかった伯父はどうやって作ったら良いのか全く見当もつかず頭を抱え込んだそうです。

最終的に地元の学者のアドバイスを受け正方形の石材から少しずつ角を落として多面を増やして出来る限り多面体を球体に近づけてから最後は手作業で磨き上げ球体を完成した苦労話を子供の時に聞いた話を思い出しました。

橋の完成後、伯父の案内で親類一同親柱を見に行きましたが、長さも高さも大人並みに大きくとても立派な親柱であったのを覚えています。

子供の頃の記憶では墓石を製造する加工機械は、巨大な原石をカットする「石切り機」と墓石の平面を磨き上げる機械だけで旋盤のような回転運動する機械はなかったと思います。今から考えてみても、それらの加工機械だけでどうやって石材を球体まで磨き上げたのか非常に知りたいところです。しかし、何十年も前に伯父は他界しているので、その願いが叶わないのはとても残念です。

球体加工の落とし穴/完全球

柴田順二教授は「球体のはなし」の中で球体を加工する上で専用工作機械をいくつか紹介しています。

  • カップ形砥石を用いる球面研削盤(カーブジェネレーター):伝統的なレンズの研削加工法として定着している。

  • フライカッター(舞カッター)を用いる球面切削加工機

  • サーキュラーテーブルによる円弧切削:最もわかりやすい球体の成型機構である。

しかし、球体加工の落とし穴があると柴田順二教授は「球体のはなし」の中で話しています。

『球体加工の落とし穴は、完全球を対象としたときにその姿を現す。すなわち、工作機械によって一気に加工を完遂できるのは部分球、せいぜい過半球止まりであり、完全球の創成に際しては工作物の把持(チャッキング)部が邪魔になり、全球面をすべて加工し終わるまでに必ず途中に把持換えを要する。このことがその作業能率と加工精度に対し、致命的なダメージをもたらすことになるのである。

(中略)

そこで、把持換えなしに棒材から連続切削できる鋼球製造用の専用旋盤も開発されてはいるが、成品球を母材から分離する難しさ(複雑な工作物保持機構、回転中心部に残るへそ、など)があり、せいぜい数十μmの真球精度が限界となる。』

素人の私でも完全球の創成がいかに大変なことかこれまでの話を読むと多少なりとも理解できるようになりました。人類は、球体を作り始めた太古の昔から完全球体に魅了され少しでも近づけるために色々と試行錯誤が繰り返されてきました。その技術は、1800年代後半から急激に発展して現代まで引き継がれています。

おわりに

次回は、どこまで真球度が達成できているのか、究極の真球に迫りたいと思います。「デザイン漫遊記④球体 第3回目」お楽しみにしてください。

筆者経歴

株式会社346 大野 清
米国大学で会計学・機械工学を修学。帰国後、PTCジャパン、ソリッドワークス・ジャパンなどでテクニカルサポート領域の管理職を歴任し、2022年より株式会社346に参画。346社では生産管理・CADシステム運用を担当。

参考文献:
(1)        球体のはなし | 柴田 順二 |本 | 通販 | Amazon

提供:株式会社346


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