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葬儀屋、ヤバ過ぎ(その1)

好感度抜群の美人女優がCMキャラクターを務めていて、明るく現代的なイメージを抱いていた。その関連会社である。急に経理担当者が辞めたので、大至急お願いしたい、とのことだった。悲惨な毎日だったので、あまりの幸運に舞い上がる。

が、またしても厳しい現実にぶち当たる。すでにピンチヒッターの経理(事務)の人がいて、2か月ほど、やっつけ仕事で凌いでいた。彼女も何やかや丸め込まれてそのポジションを押し付けられた風だったが、にっちもさっちもいかなくなって、みみずにお鉢が回ってきたというわけだ。

しかし、人の心は難しい。書類や仕事の内容を説明するはずが、どんどんちぐはぐになり、他のスタッフに対する不満になっていく。ひたすら「ハイ、ハイ」と耳を傾ける(少なくとも振りをする)みみず。だが、彼女はますます自家中毒をこじらせていく。

自分でも「?」なことを人に教えなければならない、と言うのは壮絶なプレッシャーだ。聞いているこちらも辛くてたまらない。早く、帳簿丸ごと渡してくれよ、と思うが、ぐっとこらえる。

葬儀会社の売り上げは、不思議な成り立ちをしている。正確に言えば、冠婚葬祭業だが、ド田舎のことゆえ、適齢期の若者なんてほとんど見かけない。よって、おめでたい方はほとんどなく、もっぱらお見送りの儀式。で、ご葬儀自体を執り行うのは勿論だが、事前予約の囲い込みが大きな柱となっている。つまり入会して月々積み立てると、いざと言う時、大層お得に儀式が行えますよ、と謳って会員登録させるのである。

入社した途端、みみずも会員登録させられた。抵抗しようとしたら、積立金は会社負担だし、提携の施設やお店が割引で利用できるわよ、と言われた。その一つのレストランはみみずの家から徒歩5分の所にある。悪い話じゃない。

社会保険は入れてくれるし、積立金も会社持ちだなんて、こんなことしてて会社は大丈夫なのか、ベテランスタッフに小声で聞いてみた。

新規加入は、手当が大きいのよ。払った分以上のものは必ず会社に戻ってくる。件数がまとまるほど、バック率は高くなるし、その他の所でもいろんな加算が付くのよ。昨日から研修生が3人入ったじゃない、お給料も払うけれど、本部からは育成費っていう形でその倍以上の手当がつく。ただし、3か月だけ。その間に契約が取れなかったら、それで終わり。口では「頑張ります」とか言ってるけど、内心どうだか。すぐ辞める魂胆で入る人も多いし、今回の3人の内2人は社長が飲み屋のツテで連れ込んだっていう噂。3か月間は間違いなく本部から会社に手当が支払われるだから。

何しろ本部が重要で、やたら細かい規定があり、契約を計上するタイミングを操作するだけでも、本部から振り込まれる金額は大きく違ってくるらしい。物を売ればお金が入る小売店とは、ずいぶん仕組みが異なるようだ。

ついでにもう一つ、気になっていたことを聞いてみる。「実際のところ、会員になると得なんですか。」

確かに、通常価格の半額、とか書いてるけどね。でも、こういうのって、もともと定価なんか、あってないようなものじゃない?それに、契約コースそのままの葬儀をすることなんて、まずない。何だかんだいろんなものを付け加えたり、もっと上のランクに変更させたりするわけよ。そこが私たちの腕の見せ所。

みみずは、働いた分のお給料さえいただければ、十分である。

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