宅急便配送センター
宅配物の仕分け作業の募集があった。家から遠くないし、勤務時間もほどよく選べる。これはいいかも、と応募した。
応募画面にネットで必要事項を入力し、連絡を待つ。2、3日してから電話があった。どこの事業所の応募かと聞かれた。募集業務は別の場所でやっているらしいが、なんだかぞんざいな感じがした。
また、何日かしてから、その事業所から電話があった。履歴書をもって指定の時間に来るようにとのことだった。昼間と夜は人が入れ替わるらしい。
事業所にたどり着くのは骨が折れた。よその会社の倉庫を間借りしているらしく、暗いし看板もない。ようやく探し当てて敷地内に入ると、乗用車がびっしり並んでいた。この辺りは田んぼの中の倉庫地帯なので、通勤手段は車しかない。「駐車場は停め放題」が募集広告の売り文句の一つだった。
倉庫は窓もほとんどない無愛想な四角い建物で、4、5階建てほどの高さは有ろうか。学校の校舎よりも大きそうだ。見渡す限りの田園地帯に、同じような建物が点在している。建物とそれを結ぶ道路はライトで明るく照らされているが、まるで人気が感じられないので、ゴーストタウンに迷い込んだような気持ちになる。
それでも、これほど多くの車があるのは、大勢の人がこの時間まだ働いているということだ。建物の中は別世界なのだろうか。
すっかり日が暮れた頃、集合場所に来たのは3人だった。一人は東南アジア系の若い男性、一人は話がしどろもどろのおじさん。説明会が始まるまで、部屋の片隅で待たされたが、隣同士に座っても会話は成り立たない。スタッフの休憩室に使われているようで、壁にいろんな紙が貼ってある。椅子は元の場所に戻せとか、ごみはごみ箱へとか、テーブルを汚したら拭くようにとか。外国語でも書いてあるが、知らない文字だ。ベトナム語かもしれない。
登録のためにと、また別の用紙に、名前や略歴、資格や志望動機などを書き込む。項目がたくさんあり、うんざりする。
面接の担当者は40歳位か。応募者がもう一人いたらしいが、来ないのはそれなりの事情があったのだろう。一人ずつ面談が始まる。自分の番が来て、履歴書と先ほど記入した用紙を渡したが、一瞥もしない。家からの所要時間を聞かれただけだ。書類は体裁と、時間つぶしのためだったのだな、と合点する。いくつかの機械的な質問と、それに対する機械的な返答を行って終了。
薄暗い部屋の入り口付近に自販機が置いてあり、休憩に来たスタッフが2、3人、椅子に座って缶コーヒーを飲んでいる。日本人だ。
その後、面接官について職場見学を行う。ワクワクしながら倉庫に入ったが、外見同様、殺風景の極み。飛行場の荷物受け取り所を薄暗くして、四角い壁で囲ったらこうなる。やたら天井が高いので光が行き渡らない。背の高いカードが所狭しと並び迷路のようだが、すべて番号で区分けされている。外国人が多数を占める作業場では理にかなっている。ここでは、数字さえ読めれば仕事ができる。それと、体が良く動くこと。
先ほどの面談の時点で、先はないなと感じた。たぶん呂律の回らないおじさんも同じだ。採用は東南アジア系の若者だけだろう。
実際に作業している人もちらほらいたが、皆、無言。ひたすら、自分のなすべきことをすると言う風に、黙々と動いている。肌の色の濃い痩身の若者が、荷物のぎっしり詰まったカーゴにひらりと乗り、ヨットを操るように体重をかけてカーゴの動きを制御していた。フォグランプを着けるような薄暗く暗がりの中、ゴシック体のナンバープレートだけが浮かび上がっている。
帰り際、呂律の回らぬおじさんは、千葉や茨木の事業所でも働いたことがあるようなことを言っていた。経験あっても、採用されるかどうかはわからない、とも。乗り込んだ車は随分でかい車だった。みみずと同じ失業者の割には、金回りがよさそうだ。
しかし、もう一つの可能性もある。車で寝泊まりしているというケース。最近、シャワーも使える仮眠室が、国道沿いのあちこちにオープンしている。
採用される場合のみ電話しますということだったが、勿論、電話はなかった。