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名鉄の特別車の運賃改定がとっても良く考えられていることを知ってほしい。


前節

2023年5月26日、名鉄は運賃の改定を発表しました。2024年3月をめどに、感染症の落ち込みが戻らない需要に加え、様々な資材の高騰や東海地方特有のマイカー利用率の高さ故の利用者数の少なさなどを理由に、消費税率関連を除いて約30年行ってこなかった運賃改定を実施する、としました。

https://www.meitetsu.co.jp/profile/news/2023/__icsFiles/afieldfile/2023/05/26/unchin2023.pdf

詳細はこのPDFファイルに記載がありますが、初乗りは170円から180円に10円アップします。ただし、元の運賃が高いこともあって先に行われた近鉄などの運賃改定に比べると控えめな印象です。
また、現状でもかなり安い通学定期に関しては完全据え置きとなりました。一宮~名古屋の通学6カ月がJRは高校生なら31,710円、大学生なら35,240円のところ、名鉄ならどちらも26,680円ですからね。。半年で5,000円~9,000円も変われば、いくらJRが速くて便利でも親御さんはお値段重視ですから名鉄にしろとなるでしょう。名鉄はこの学生層を逃さないようにしているのだと推測できます。

さて、本題は普通運賃の改定についてではありません。今回の運賃の改定に併せて、ミューチケット、つまり特別車の追加料金についても改定が予定されています。これがとても良く考えられている、ということを見てもらいたいのです。


上記のPDFファイルより

まずは改定内容を見て頂きましょう。現在は一律360円の特別車両料金を、3つの種類に分類する、というわけです。
1つめは基本料金。通常の料金がこれに当たり、450円となります。
2つめは閑散時間帯割引料金。平日9時~16時と土休日の利用に限り、300円となります。
3つめは車内精算料金。事前に券売機や窓口でミューチケットを購入せずに乗車した際の料金で、500円となります。

さて、この改定内容がどう良く考えられているのか、というと、名鉄の会社サイド・名鉄の現場サイド・そして我々乗客サイドの三方への悪影響を最小限に抑え、逆に好影響を最大限に与えるようになっているからです。では、その内容を見ていきましょう。

①単純な値上げによる増収

これは簡単な話で、基本料金が90円値上がりするわけですから、10人乗れば900円多く入るようになります。特別車の定員はだいたい100人弱なので、仮に満席になれば9000円の増収になるわけです。名鉄の会社サイドとしては当然単価が上がりますからうまいですよね。ただし乗客サイドからしてみたら同じサービスなのに90円多く取られるようになるので、当然いい話ではありません。

②そもそもかなり安い

ただし、改定後の450円という金額でも、全国の特急の座席指定サービスと比較するとかなり安い金額なんですよね。

これは全国の大手私鉄のうち、リクライニングシートを採用した特急列車の特別料金を抜粋した表です。改定前の360円はもちろん最安で、改定後の450円でも西武や京阪が下回る程度ですし、西武は18kmまでという短距離です。名鉄で18kmを例えると名古屋~一宮でもギリギリ超えるぐらいですし、特急系が基本ノンストップで走る神宮前~知立がそもそも19.4kmのためこの枠に入りません。しかも名鉄は均一料金ですから、岐阜~豊橋の100km弱乗っても同じ金額です。まぁ岐阜~豊橋は現実的に乗り通す利用者がほとんどいないとは思いますが、通勤利用などもあるであろう名古屋~豊橋なんかだと68kmあります。これを他社料金に置き換えると、小田急なら750円、西武なら900円、近鉄なら920円、東武に至っては1,250円です。こう見ると360円があまりに激安で、450円でも高くない、ということが分かるかと思います。

③日中・土休日は今よりお得になる

さてこれだけ安さを強調してきましたが、今回の改定では一部値下げになるパターンが存在します。それが閑散時間帯の割引料金で、平日9時~16時と土休日の利用においては、なんと300円になります。今回"運賃改定"としているのはこういうことなんです。一律値上げ、というわけではないんですよ。

この閑散時間帯の割引設定は大賛成です。正直昼間の時間帯は特別車2両に数人、なんてのも珍しくないですし、特に河和線特急なんかはすごく空いているイメージがあります。これを値下げしてでも回転率を上げよう、という狙いが見えます。仮に10人乗っていた場合、3600円が3000円になるので2人分多く利用を取り込む必要がありますが、そこは値下げによる利用者増でカバーできると判断したのでしょう。

ただし、この閑散時間帯割引には2つの条件があります。
1つめは中部国際空港発着の利用は除くということです。これは、空港利用であれば値下げせずとも現状と同程度の利用が見込めるからでしょう。事実、スーツケースなどの大きな荷物を持って移動する空港利用者は着席需要が高い傾向にあることは全国各地の空港アクセス鉄道を見ればわかりますよね。そういった利用者層が360円が450円になったところで利用を忌避するとは考えにくい。であれば日中も値下げする必要はないだろう、ということだと思われます。

そして2つめの条件は、ネット予約限定ということです。駅での発売や車内精算には適用されません。チケットレスでネットから買った場合にのみ割引となります。これは、駅での発売業務の負担軽減や、チケットレスのネット予約へ徐々にシフトしていこうという意図が見えます。他社の事例を挙げると、小田急はネットから購入すると一律50円引きになりますし、天下の東海道新幹線もEX予約などからの購入で割引やポイント付与のサービスがありますよね。ネット予約にすれば、紙きっぷを発行しなくていいのでその分の経費が削減できますし、利用が拡大してこれば、販売窓口や券売機の数を減らしても問題ない、となってくるので、名鉄側にしてみればそういった未来も含めての60円の割引なのでしょう。

④車内精算はおつりが出にくい料金に

今まではどこでどのように買っても360円でしたが、これからは乗る日時と行先と買い方によって料金に差が出るようになるわけです。普通が450円、空港以外で平日日中と土休日にネットから買えば300円でしたが、ミューチケットを持たずに車内で精算・購入した場合については、他社と同様に料金が上乗せされるシステムが名鉄でも導入されます。その金額は50円で、500円となります。私が今回の発表で一番巧いなぁと思ったのがこの部分で、この500円という金額が非常に絶妙なんです。

今までの車内精算は通常料金360円を徴収していました。この360円という金額、どう頑張っても硬貨が5枚必要になりますよね。しかも中途半端な金額のため持っていない場合も大いにあるわけで、360円がないので1,000円でとなったら今度は640円というまた中途半端なおつりを車掌が出す必要があったわけです。

これが500円になったらどうか。500円硬貨1枚で済みます。しかも2人で利用した場合はぴったり1,000円。1,000円紙幣1枚出すだけで精算完了です。つまり、500円にしたことで10円硬貨はおろか、100円硬貨すら必要なくなり、500円硬貨と紙幣だけで精算ができるようになるわけです。名鉄の現場サイドとしては相当ありがたい話でしょう。揺れる車内で硬貨を何枚も出したり入れたりするのは大変ですし、3人以上になるとさらに金額は複雑になりますからね。500円になれば計算も簡単で精算も簡単。

そして500円という現状から140円も上げた金額になること、これに関しては車内精算という以上は言い方は悪いですが払うしかないですし、基本が450円に対して50円増しなだけなので、そこまで抵抗感がある金額ではないのではないかとは思います。加えて、今回から座席の指定も可能になるので、今までの空席利用で誰か来たら他の席移動してね、よりかはちょっと割高になってもきちんと目的地まで座席が保証される方がいいに決まっているわけです。いくら特別車両券(=座席指定券ではない)とはいえ、座席指定をウリにしているわけですから。

車内精算での追加料金は各社が先行して導入している通り、車内で精算する手間とコストを考えての追加料金なわけですが、これも他社に比べて料金は抑えられています。近鉄・南海・京阪には設定がありませんが、東武と西武は200円、小田急は350円が加算されます。JR東日本のグリーン車でも同様のシステムがあり、車内料金は事前料金に260円加えたものになっています。一方名鉄が今回導入する車内精算の料金はわずか50円。元の金額が安い分、この追加料金も抑えられている、と捉えてもいいですが、上記の名鉄側のメリットを見るに、おそらく車内500円にするための50円だと思われます。

まとめると

さて、前節で「名鉄の会社サイド・名鉄の現場サイド・そして我々乗客サイドの三方への悪影響を最小限に抑え、逆に好影響を最大限に与えるようになっている」と述べました。①~④の項目を振り返って、どのように各サイドに好影響と悪影響があるかをまとめると、こうなります。

我々乗客サイドにとって基本料金の値上げによる負担増大は結構しんどい話ではありますが、平日日中と土休日には逆に値下げされる負担軽減もあるので、結果として大きな痛手にはならないのではないでしょうか。そして名鉄の会社サイドとしてみれば、ここを値下げする代わりに日中の利用率を上げつつネット利用を拡大させるという思惑があるのでしょう。名鉄現場サイドは単純にネット利用が拡大すれば駅での発売業務も軽減されますし、なにより車内での現金精算がとっても楽になります。

このように、悪影響は基本料金の値上げそのものぐらいで、その他は各方面にメリットを生むような形になっているので、私はとてもよく練られた運賃改定だと評価しています。具体的な運賃改定の日付まではまだ発表がありませんので、続報を待ちましょう。ということで、発表から大分遅くなりましたが、特別車の運賃改定についてでした。