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マチネの終わりに
まだ国際電話の通話料金がべらぼうに高かった頃の話。
当時はまだスカイプやLINEなんてもちろんなかったし、携帯電話が人々のライフラインのうちの一つではなかったし、海外からの電話を受け取るには、家の電話が唯一の連絡手段だった。
激しく電話音が家中に鳴り響いたのは、夜の7時頃。
「もしもし、○○です」と私が電話に出ると、6つ上の兄からの電話だった。
通話音もあまり良くないし、雑音が多くて聞き取りにくかったことはよく覚えている。
「どこにいるの?」と聞くと
「マドリード!」と返事をした兄。
自身の生存だけを一方的にこちらに伝えた兄は、すぐに電話を切ってしまった。
それは国際電話料金がほんとに高い時代だったから。
バカな私がその後、正確に「マドリード」という言葉がスペインの首都であり、日本との時差が7時間もあるということを知ったのは、この後何年も先の話というから、つくづく自分のバカさ加減に呆れてしまう笑。
兄はこの時、マドリードにギターの修行に行っていたらしい。
当時、自宅から通っていたギター教室の先生に紹介された場所に行ったのだと思う。詳しくはわからない。
兄は「就職氷河期世代」ど真ん中の世代のせいもあってか、大学4年時の就活がうまくいかず、両親を困らせた。
結果からいえば、大学卒業直前でなんとか決まった会社に就職し、現在もその会社に勤めている。
いわゆる普通のサラリーマンってやつをやっている。
兄の就職戦線突破までには、我が家ではこんなストーリーが繰り広げられていたことが思い出される。
兄は覚悟を決めたかのような真顔で
「俺はギターで食っていくっ!」と言い出し、両親と度重なる話し合いをしていた。
今思い返せばこれは、これは兄にとっては冗談ではなく、本気の決意だったのだ。
それは後に兄が結婚して授かった子供(私の甥っ子)に、兄自身が音楽(ギター)で辿り着くことのできなかった”無念を晴らすため”とでもいうべき名前を与えたときに気が付いたのだが。
「奏(かなと)くん」
これが私の甥っ子の名前だ。
私は奏くんに、兄のこんな想いが自身の名前に込められていることを知っているのかどうかを確かめたことはない。
いつかそういう機会に恵まれたら聞いてみようとは思っている。
ちなみに奏くんは、ギターはやってない(笑)。
部活はサッカー部らしく、奏くんから音楽をやってるという話が出てきたことは一切ないから、叔母の私としては面白すぎるんだよなぁ。
そんな過去の経緯もあり、ギターの話が出てくると、私の中では「イコール兄」の数式が成り立つ。
そんな私が、2年前に小説で読んだ「マチネの終わりに」を本日、アマゾンプライムで映画鑑賞した。
率直な感想は「兄がサラリーマンでよかった」ということだから笑、私のこの映画の感想を歪めた兄の存在はデカイということが証明されたのだった笑。
天才クラッシックギタリスト「蒔野聡史」役を演じるのは福山雅治。
相手役には石田ゆり子で、国際ジャーナリストの小峰洋子を演じる。
基本的には二人の切ないラブストーリーなのだが、そこには芸術やら、生と死やらが描かれており、とにかく福山が演奏するギターの旋律に、心が奪われてしまうという展開だ。
二人の出会いは簡単に言えば
「あなたの演奏するギターの音色に惹かれたのよ」的な感じで始まり、
ラストは
「コンサートホールでスポットライトを浴びながら、たくさんのお客さんの前でギターの演奏に集中するあなた(福山雅治)の姿を、また見に来ることが出来たわ」と二人が再会。
ギタリストで食っていくって生半可な気持ちじゃ無理だし、そもそも才能が必要だし、とにかく福山カッコよすぎるしで、
あのとき兄に、ギターで食っていくことを必死で諦めさせてた両親の判断は
正しかったなーって!笑
もーそれしかないわけよ、こんな感動的な映画観てるはずなのにっ!!
ギタリストじゃなくて、サラリーマンばんざいっ!!って
私はそれがいいたいだけ笑
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