書評:『パクス・ロマーナ──ローマ人の物語[電子版]VI』(塩野 七生)

とうとうきました、初代皇帝アウグストス。

私みたいな真面目な人間は、カエサルをあまり好きになれない。カエサルになれる気もしない。でも、アウグストスは結構好きである。性に合うのだろう。

お腹が弱くて、アグリッパがいないと戦いも勝てない。血縁への執着を見せ、親戚の結婚まで介入して人を不幸にするが、結局、後継には全部死なれてしまう。そんな人生ではスキがありつつも、仕事は完璧にこなすのがアウグストスの人生と言えるであろう。

パクス・ロマーナという平和をビジョンとし、その実行に戦略的な思考で取り組んでいく頭でっかちな頭の良い皇帝がアウグストスである。カエサルが決めたローマの範囲をみて、軍隊戦力の絶対値を決め、それを割り算で配分していく。内政や選挙制度などを整え、元老院を中心とした共和制復活宣言をしつつ、その逆の初代皇帝への権力基盤を少しづつ固めていく。そして、何よりも、平和を愛し、平和を継続させることを優先し、実際に平和を継続させた。

欧州の地形を見るときに、河を知らねばならぬことは、この本を見るとわかる。ライン川とエルベ川のラインがある。やっぱり、ドイツ人は森の民であり、肉食の民である。フランス人(ガリア人)とローマ人は、小麦の民である。日本人も米食という炭水化物の民であるから、どうも、肉食のドイツ人とは気が合わないのである。そこの争いがアウグストスにはある。

アグリッパとマエケナスという素晴らしい相棒をもち、少子化対策までして真面目にやる。カエサルがいたら大笑いしそうな姦通禁止法を立てるが、娘の性が奔放で困ってしまうことになる。最後の後継は、仲の悪かったティベリウスしか残らず、ティベリウスに皇帝を譲る。でも、血縁への執着は見せる。

本当にいい仕事をするんだけど、本当にダメな人の香りがするアウグストス。Augustは彼にちなんで命名されたのだから、8月になる度に思い出そう。

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