書評:『LIFE SHIFT―100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン, アンドリュー・スコット, 池村 千秋)

今更、昔のベストセラーをkindleで読むのは、価格が下がるからです。

結論、この本は面白いし、読む価値があったと思います。

要旨としては、人の寿命は伸びていて、今20代の人は100年まで生きるのが当たり前になる。そういう社会構造になると、今までの工場的な産業革命社会のライフスタイル、すなわち、学校、仕事、引退という75年人生設計は崩壊して違う常識ができる。今までは一つの仕事で引退できたが、100年人生では、複数の仕事に取り組む必要があり、転職で済む話ではなくて、集中的な再学習を通じて、マルチステージの職業人生を送る必要がある。また、1つの仕事をするだけでなく、複数の仕事をするポートフォリオワーカーや、自分探しのエクスプローラー(中田英寿的なやつ)、個人事業主的なことをするインディペンデントプロデューサー、集中的な移行期間といった様々な働き方の組み合わせで人生ができるという話。男性が働いて、女性が家事というのも経済的に成り立たないので、お互いがお互いを支えるパートナーになっていくよねという話。また、人生100年あると、定年退職後が長いので、人脈というか、お金に換算できないものが大切になるという話。こちらは経営でも一緒ですが、いわゆる「インタンジブル・アセットが大切だよね」という、ウォーレンバフェットがいうことと同じことを言ってます。

特筆すべきは、年齢で人を見るのが意味がなくなって、人がどのステージにいるのか、の方が重要だと言います。誤解を恐れず、わかりやすさ重視で端的に言えば、その人が何歳なのか、よりも、その人には子供が何人いて、それぞれ幾つなのか?の方が、仕事とは関係してくるという話だと思います。

一言で言えば、すごくよくまとまった本で、いい本だと思います。


感想。

すでにベストセラーで語り尽くされているという事もありますが、読後の感想はあまり感動はなく、「ドラッカーの言っていたことが、よくまとまっているなあ」というものです。

ドラッカーが言っていた高齢化社会の到来と、「人は20年も同じ仕事をしていると飽きてしまうので、仕事を変えた方が良い」という話、それから、『ネクスト・ソサエティ』あたりで言っていた、「歳を取ってからはNPOで働くのが当たり前になるよね」という予言を形にしたのがこの本であるというのが私の認識です。

人生100年時代になることをデータを用いて話、その時代の生き方を具体化して、具体なシナリオを落としてわかりやすく解説して見せたという点で、良い本だと思う反面、ステレオタイプ化してしまっていて、新しい時代はマニュアルがない世界を切り開いて生きねばならない人たちなのに、新しいマニュアルを欲する人たちに、新しい時代のマニュアルを与えてしまっていて本末転倒的な気もするので、読み方に気をつける必要はあると思います。

我が人生とともに振り返って見ると、「そうさなあ」と思うわけで、私のように働いて20年ぐらいはたった身からすると、「親父の時とは違うよな」と思うわけで、70歳を超えた親父に話をしてみても「俺の頃とは違う」というわけです。まあ、90歳をはるかに超えて死んだ祖母枯らしても、「私が若かった頃とは全然違う」というと思うのですが、それを持ってなお、1990-2020年というのは、変革期で大きく社会構造が変わってきたとしみじみするわけです。

そもそも、その前の時代は、工場時代です。蒸気機関をはじめとした動力革命が産業革命を起こし、大量生産を行うために最適化された時代でした。そのために、社会に核家族化を起こさせ、家族や地域コミュニティを崩壊させつつ、その代替はまだないという社会の不安定化をもたらしつつ、今の時代がやってきました。IT/AIおよび人型じゃないロボットが、急激に工場労働者の仕事を代替する今、工場型の社会制度は破綻して、次の社会制度に移行しているのが今であります。だから、工場時代の常識をひきづる人には、第三次産業がメインである今の時代をリードさせてはいけないわけです。そもそも、農業従事者が少なくなった米国で、農業中心の社会制度は成り立たないと同じように、工場従事者が多数である社会を前提にした今の製造大企業の伝統的な会社の仕組みは、破綻しているのは、禁煙の品質偽造が相次ぐ大手製造業や、インチキばかりする東芝を見ればわかるのであります。

大学院を頂点とする学校に行く、一社で働く、65歳で退職する、という工場時代の人生は、もはや現実的ではありませんし、メジャーではありません。こういうもはや過去の遺物になった常識をひきづっている人に、新たな社会設計をやらせてはいけない、ということがよくわかる一冊であると思った次第であるし、若い人の感覚はいつも合理的で正しいなあと思うわけです。


というわけで、私は少し勇気をもらいつつ、30代、40代ぐらいの再教育、再学習というのを人生のテーマに加えて、こちらにも貢献しつつ、人生のインタンジブル・アセット、もとい、お金と関係ない人間関係の充実にもう少し時間を使って生きたいなあと思いました。

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