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『新賢明なる投資家(上)』の解説

良い本なので、投資をするなら是非読んでください。

という一言で終わってしまうほどの良い本なのですが、投資や経済にあまり縁がない人が読むと難しい面があるかもしれないので、多少の解説を試みます。

改訂版とオリジナル版のどちらを買えば良いのか?

まず、改訂版についてです。原著は古い本で、財務諸表の前提などが今と違うので読みにくいところがあるのが玉に瑕なのです。結論、こちらの改訂版を読めばいいと思います。というのは、改訂版の方は、原著をそのまま残しつつ、ツバイクさんが、現代に合わせた注釈を載せているので、買うなら改訂版で良いと思います。

この本に関しては、上記くらいしか、解説として書くことがないです。なので、投資をするなら、まず買って、本物を読めという話なのです。

ウォーレンバフェットが序文を書いています。バフェットによる序文の最初に投資の全てが要約されて書いてある上に、グレアムの追悼文をバフェットが書いていて、それがそのまま載っている。もう、これで、私が投資について付け足す言葉がないんです・・・

中身の紹介として、一文だけ抜きますと、

グレアムが唱えている行動やビジネス原則に従えば−また、第8章と第20章で述べられている貴重な教えに細心の注意をもって臨むことができれば−投資でひどい目に遭うことはないでしょう(これは、みなさんの予想よりもかなり良い結果を意味します)。

(ああ、この後の文章も引用したい。バフェット様、いいこと言っているんですよ。そうそう、という。でも、引用していると、全部引用になって著作権の侵害になるので、ここでやめておきます)

じゃあ、第8章と第20章が何か、気になりますよね。

第8章は、投資家と株式市場の変動
第20章は、投資の中心的概念「安全域」

バフェットが常々、投資に大切なのは二つと言っていて、「ミスター・マーケット」と、「マージン・オブ・セイフティー」この二つです。

「ミスター・マーケット」というのは、日本語でいうと市場価格の捉え方。マーケットさんという躁鬱気味の人がいて、毎日、あなたに株価がいくらと言ってくる。それが、株式市場における価格。つまり、株価。これが一つめのポイント。これが、第8章で書いてある。

マージン・オブ・セイフティー。安全域として訳されていますが、ここは、カタカナでも良いから、元の言葉を理解しておきたい。

マージンというのは余裕とか余白という意味です。のりしろなんて言われることもあります。利益率なども「マージン」という英単語の意味に入っています。人参を100円で売っている八百屋があるとします。80円で人参を卸売業者から仕入れていれば、マージンは20円です。20/100なので、20%がマージンとなります。この場合、売値が100円から80円に下がったとしても損をしませんが、60円に下がれば、売れても20円損します。

50円で人参を仕入れていれば、100円で売れればマージンは50円で50%という計算になります。この場合、売価が100円から60円に落ちても10円儲かります。この利幅のことを、マージンと言います。

仕入れ価格が安いほうが損をしない(=安全)というのが、マージン・オブ・セイフティーが高いのであって、マージンが大きい方が安全な商売ができる。この概念が、「マージン・オブ・セイフティー」なんですね。

「安全へののりしろ」と訳した場合、こんな概念でも良いです。

車がビュンビュン走る幹線道路があります。あなたは歩行者で、ここの横断歩道があって、信号が赤で待っているとします。

道路ギリギリで立っていれば、「安全へののりしろ」はゼロ。車がちょっとはみ出して走ってくればひかれますし、後ろから誰かにちょこんと押されれば車に轢かれて死んでしまいます。

ところが、道路から30cm離れたところで待っていれば、車に轢かれる可能性はもっと下がるでしょうし、3m離れたところで待てば車に轢かれる可能性はかなり低くなります。

マーケットの運転は、基本的に酔っ払い運転なので、これに轢かれないためには、十分な距離を取り、安全地帯に自らを立つ必要があります。この道路からの距離が、概念としての「マージン・オブ・セイフティ」になります。

ちょっと長くなりましたが、投資の秘訣は、この二つだけなんですよね。これが実践できれば、投資で大火傷はしない。だけど、ちゃんと鍛錬しないと実践はできない。

ということで、この二つの章だけ噛み砕いて解説してみようと思います。
本を読みながら、読んでくださいね。


第8章 投資家と株式市場の変動について

債権の話

最初に債権の話が出てくる。債権とは主に国債や社債のことで、国や会社の借金の手形である。昔はこれで利回りが7%取れた訳で、「短期のこれ買っとけ」で終わったのが、グレアムの本が書かれた時代である(2020年は超低金利で、1%の利回りもつかないので、真逆)。

売り買いの判断は、タイミングか価格か?

次に、株式投資は、タイミングなのか価格(プライシング)なのか、という話が出てくる。結論は、「タイミングは誰にも計れないので、価格で買え」である。もし、「株式投資は売り買いのタイミングだ」と言っている人がいれば、それは全部株式投機家であって、投資家ではない。一つ引用する。

このように投資家と投機家を区別することを、一般の人はくだらないと思うであろうし、そうした区別はウォール街全体に受け入れられている訳でもない。株式仲買人や投資サービス業に従事する人々は、職業柄あるいは妄信的に、株を買う投資家も投機家も、相場予測に十分な注意を払わなければならないという原則に凝り固まっているように思える

失敗例して出てくるのがダウ理論。中身はどうでも良いが、要するに売りのタイミング、買いのタイミングと言った部類の話(例えば、チャート分析)は意味がないというのを実例を通じて言っている。

よく新聞や株式ニュースに今日の株式相場の上昇・下落の理由づけが出てくる。ああいうのを真面目に聞くのは、全部無駄とグレアムさんは言っているのである。「投機筋が買っていた」というような事実はあるのだろうが、基本、相場に理由などない。誰かが買ったから上がり、売ったから下がっただけだ。そこに理由などない。

強気相場、弱気相場は読めない

安く買って高く売るというのがあるが、これも通用しない。高い安いをどう見るかにもよるが、p340中盤からある「注意しなければならないことがある」以降を読むとよくわかる。

1949年に始まった未曾有の強気相場以前ですら、非常に様々なパターンの相場サイクルが繰り返され、安く買って高く売るという望ましい売買プロセスが複雑化し、時にはその適用が不可能な局面もあったということである。

ボックス圏がどうこうとか、何十日平均どうこうとか、雲を抜けたとか、普遍性がなく、意味がないとグレアムさんは言っている。

自動売買は機能しない(ドルコスト平均法を除いて)

次にフォーミュラ・プラン。式に当てはめて、売り買いのサインを自動的に出すやつ。古今東西、よくあるらしい。ドルコスト平均法を除く、と丁寧に注釈が付いている。3つ、引用する。

こうした手法には、人々の目に論理的(かつ保守的)なものとして映り、また過去のデータでシュミレーションしてみると何年にもわたり素晴らしい結果を示すという、二重の魅力を備えていた。だが不幸にも、まさにこのやり方が最も機能しない運命となったときに、その人気が頂点に達していたのであった。
1950年代にフォーミュラ投資を行なっていた人々と、その約20年前に純粋な機械的な形でダウ理論を実践したいた人たちは似たような体験をしている。つまり、どちらのケースも、流行し始めたのとほぼ同時にその手法が効果的に機能しなくなったということである。
教訓として言えることは、株式市場において金を儲けるための手法として、原理が簡単で多くの人が追随し得るものは、それがどんなものであろうと、単純かつ安易すぎるために長続きすることはないということだ。

フォーミュラプランというのは、最近でいうAIによる株価予測で運用、みたいなやつである。過去の株価に当てはめるとこんだけアウトパフォームしてます、というやつだ。例えば、誰でもウェルスナビを買うことができる現状では、それがはやる頃に機能しなくなるとグレアムさんは言っている。グレアムさんはウェルスナビに恨みでもあるんだろうかと思ってしまうぐらい狙い撃ちのコメントだ。かのCEOは、金融関係者でこの本などとうに読んでいるだろうから、知っていてやっているということになる。これが日本の金融業界の実態である。

他、FXで機械取引をしたり、そのロジックを購入したりという人が時々いるが、同様に無意味であろう。流行った頃に機能しなくなる、らしい。

私は試したことがないのでわからないけれども、グレアムは試してダメだったらしい。式だろうが、AIだろうがダメだろう。ドルコスト平均法だけは別だけどね(これはバンガードさんが成功を証明している)

投資家は株価の変動を気にしない

バフェットを尊敬してます、その通りに投資します、と言っていた人がついてこれなくなるのが、この辺りの事実の分析から。投資家は、株価の変動を気にしてはいけない。この辺りで脱落者満載です。

あえて淡々と書いていくと、二流企業の株価は安定しないという。現在でいうと、β値(ベータ値)という値でこれが示されていて、ボラティリティ(揮発性)と呼ばれています。株価は動きます。

次に、引用2つ。

思慮深い投資家は、日々の、あるいは毎月の株価変動によって自分の金が増減するものではないと考えているであろう。
はたまた−これは最悪パターンであるが−強気相場の空気に飲まれ、群衆(結局はみんなその一員なわけだが)の熱気とうぬぼれと貪欲さに感化され、大きく危険な売買をすべきなのだろうか?活字としてこの内容を見れば、最後の問いかけに対する答えがノーなのは自明であるが、賢明なる投資家さえも、群衆に同調しないためにはかなりの自制力が必要なのである

株価が高騰している、隣でなんとかさんが株で大儲けをしたという理由で株式投資を始めちゃいけないよ、という話であるのだが、これには強い自制心が必要。だけど、大抵の人は、こういう理由で株式投資(のつもりで、株式投機)を始めるので、大火傷をする(退職金をもらった東大卒の公務員とか)。

また引用

本当の投資家であれば、自分が群衆とは全く逆の売買をしていると考えることに充足感を覚えるものなのである。

逆張りすれば良い、というものではないが、結局、安いものを探すとこういうことになる。バフェットがコカコーラを買ったのは、その工場が爆発事故を起こして株価が下がった時である。タイミングがそれを引き起こしたのではなく、その時の株価が価値に比べて安かったので、バフェットは、買ったのである。

投資家は、株価ではなく企業の業績に注目する

投資家は、株式を価格の変動する紙切れとしてとらえるのではなくて、企業の一部を保有していると考えている。この立場は、個人企業の少数株主や物言わぬ共同出資者の立場と似ている。

企業の業績によって企業の価値は代わり、その一部を株式で持っていると考える場合、株価が変わろうが、株式の価値は変わらないと考える。

以前は、この企業の価値の算定(バリュエーションと呼ぶ)が、バランスシート(貸借対照表)のみで行われていた。よくある指標で言えば、PBRである。PBRは優良企業ほど上がるという話が続いている。

(ちなみに、PBRのBはBook Valueのこと。日本語でいうと純資産。これは、引き算で求める値なので、バランスシート上のあらゆる項目を理解しておかないと、本質的にこの数値が算出できない。グレアムのいう投資家にとって、財務会計の知識が必須なのは、まさに、この理由によるのである。ちなみに、厳密にいうとグレアムは、この純資産の計算に、無形資産やのれんを除いて計算している。無形資産やのれんの意味が分からないと、正確なバリュエーションはできないので、賢明なる投資家には、財務の知識は必須になる)。

話を続けると、PBRが高い企業は、株価がぶれるので、優良企業であるほど株価が乱高下する。昔のIBMやゼロックス、今でいうgoogle, amazon, facebook, zoomぐらいであろうか。

そして、PBRであれPERであれ、ただその数値を見て買ってはいけない。この素晴らしい数値が続くのかを予測しなくてはならない。これが、また困難である。

そのあと、実例としてA&P社の例が出ている。業績の安定した企業が、株式相場が弱気であるせいで株価が低迷している。だけど、数年経つとこの株価が戻った話が乗っている。こういうのが、典型的なグレアムの投資である。

再び引用に入ると、

その第一は、株式市場は誤った方向に大きく振れることがたびたびあり、機敏かつ度胸のある投資家は、その歴然たる誤りから時として利益を得られるということ。第二は、ほとんどの企業は長年の間にその特徴や質が変化するものであり、以前より良くなる場合もあるが、大抵は悪い方向に向かうものだということである。
真の投資家が持ち株を売らざるを得ない状況など滅多になく、そういった状況以外の時は株価を無視しても構わないということだ。相場にどれだけの注意を払ってそれに従うかは、自分で決めれば良いのである。

要するに、真の投資家は、弱気相場において自分の持ち株の株価が安くなろうが、損をしたとは思っていない。企業の業績が安定していれば、企業の部分所有者であるので、株価なんて気にしていないのである。これが、できれば真の投資家であるが、これをできる人がなかなかいない。

引用が続くと、

したがって、正当な理由なき市場価格の下落によって、驚いて逃げ出したり過度に不安がるという投資家は、基本的な強みを逆に弱みにしてしまっていることになる。そうした人にとっては、市場価格など存在しないほうが幸せであろう。そうであれば、他人の誤った判断に起因する精神的苦悩を味あわなくて済むからである。

そして、最後に有名な下りの引用になる。

ある個人企業に1000ドルの出資をしていると想像してほしい。共同出資者の一人には、ミスター・マーケットというなの非常に世話好きな男がいる。彼は、あなたの持分の現在価値に関する自分の考えを毎日教えてくれ、さらにはその価格であなたの持分を買い取ってもいいし、同じ単位価格で自分の持ち分を分けてもいいと言ってくる。彼の価値評価が、企業成長やあなた自身の考える将来性に見合っており、適切なものに思える時もあるだろう。その反面、ミスター・マーケットはしばしば理性を失い、あなたには彼が常軌を逸した価格を提示しているように思えることがある。

(残りのミスターマーケットを利用したお金の儲け方は、続いて書いてあって、読んだ通りなので、本を買って読んでください)

最後に債券価格の話

(2020年の超低金利時代にこの話は無用を思われるが、金利が上がる時代にも文章は残るので書いておくことにする)

最後に債券価格の話である。企業や国の借金手形である債権についても価格がついている。満期まで持てば額面が返ってくるのであんまり気にする必要がないが、価格がついていると気になることもある。その価格も変動する。

価格が変動するということは、利回りも変動するということである。

例えば、5年償却の100万円で固定利回り5%の債権があれば、1年間で5万円入ってきて、5年後に100万円も返ってくる。

これが、1日後に債券価格が下がって、50万円で買えると、やはり、1年間で5万円入ってくる。満期の5年後に100万円が返ってくる。この場合、50万円で年間5万円返ってくるので、利回りは10%となる。

お金を貸した会社や国が潰れない限り(デフォルトという、よく起きる)、こうなるので、債権は基本、利回りをみて買えば良い。

債権は「潰れるか、潰れないか」を予測し、「利回り」をみて買えば良い。

長期(30年とか)で買うと面倒だが、短期であれば、それでよかろう。


まとめ

というわけで、第8章だけかい摘んで解説をしてみたが、どうやっても、本物を超えることはできない。なので、わかりにくいところがあるのをかい摘んで解説することぐらいしか、筆をとる意味がなかろう。本物を読んで、第8章のこの部分がわからなかったということがあれば、コメントをいただければ、追記で対応するつもりですので、ご気軽にどうぞ。

それでもなお、まとめると、やっぱり、ミスター・マーケットなのである。株価というのは躁鬱病気味のおっさんの言い値に過ぎない。株式は企業の一部である。この二つだけ、分かって実践できれば良いのだが、なかなか株価をみないということができない人が多い。多いから、真の投資家は、株式市場から利益を得ることができるのだけれど、この記事への「いいね」はすごく増えることもないのだ。

下巻の第20章の解説に続く

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