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書評:『ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)』(宮口幸治)

幼児教育は、本当に大切であると言うのがこの本を読んだ感想である。

病院で子供向けの精神科医をしてたのが著者の宮口さんで、ふとしたことから、少年院の子供たち向けの医者に変わったと言う。親が病院に連れてくる家庭の子供は幸せな方で(それでも、対応が十分とはいえない)、親が子供の病気に気づかない場合というのは、そのまま社会不適合となり、犯罪者となって少年院にくることになる。そこでよくよく診てみると、子供は何らかの障害を抱えている状態であるという。その障害の状態さえも気づかれず、社会に放置されているので、犯罪を犯すことになるという。

犯罪を犯してしまった少年(少女も含めて少年という言葉をこの本では使っている)たちに、「反省しなさい」と人は言うが、そもそも彼らは反省できない。なぜなら、何を言っているのか理解するほどの言語能力を持ち得ていないからである。認知機能と著者は言っているが、国語力として、聞いて理解する力が不足しているため、普通の大人が何と言っているのか、理解できていないのであるそうだ。でも、ワーワー怒られるから、分かっていないが分かったふりをして過ごしていると言う状況らしい。

感情を押さえる力も弱い、融通も聞かず、長期的な計画を立てて、順序をへて複雑なことを処理する忍耐もない。意思疎通の能力も低い。身体的な不器用さがきっかけで、非行の道に走ることも多い。

これらの非行少年たちは、教育の失敗であって、本人の失敗ではない。日本の義務教育の失敗である。要するに、普通の義務教育のトラックからは違う学習支援をしてやるべき子供たちに教育現場が気づかず、障害があるまま、一律の教育を施すものだから、社会不適合になってしまい、結果犯罪を犯すまでになってしまった子供たちと言うことだ。

このような子供たちは、強く叱って、反省文を書かせるのではなく、幼稚園・小学校低学年レベルからの再教育が必要であるとのこと。言語能力、計算能力をはじめとした認知能力や、人とうまくやっていくための社会性の教育、身体の訓練が必要である。各々の状態に合わせた訓練プログラムが必要なのだが、今の少年院はそうなっていない(彼らにとって難しすぎる反省を求めている)ので、さらにこじらせてしまうという。

幼児向けに性的犯罪を犯す男性のほとんどは、いじめられた経験があるという。性的欲求というのは健康な男性であればあるものであるが、それを晴らす正当な方法がないものだから、幼児を狙って変態行為をするわけだ。そもそも、男性が女性を口説くというのは、高度な意思疎通能力が必要である。大人の女性相手だと「怖い」という感覚になるんだそうだ。幼児であれば、わからないから安心して相手ができるが、難しすぎる言葉をかけてくる大人の女性は「怖い」存在なのである。

と、非行や犯罪者に至る道とその正しい更生方法の話を本で読んでみると、大事だと思うのは、幼児教育と小学校教育である。再教育するにせよ、幼稚園の園庭でしっかりと遊んで社会性を身に付けるようなことであるし、認知能力にしろ、幼稚園や小学校低学年で学ぶような知識の訓練である。計画性にせよ、あまり高度な話ではない。

小学校の授業についていけなくなった子供たちを一歩立ち戻って粘り強く訓練をしてやることで、彼らというのは犯罪者にならずに済むのである。

知能テストをした場合、かつては、IQ85未満というの知的障害のラインだったらしいのだが、今はIQ70未満にされてしまっているんだそうだ。70以上-85未満の人は、生活に支障があるけど、普通の人、健常者として法律的に扱われる。そうだけれども、実際に生活に支障があるので、安易な道を選んで犯罪を犯してしまうのだそうだ。

人生100年と言われる時代において、たかだか3-12才までの9年間の投資を社会的にも惜しむべきではないと思う。公立小学校に置ける授業についていけない子供たちに対する支援を充実させることが、大変重要であるという意見を持つようになった。当たり前ではあるが、当たり前であるがゆえに大切な政策になろうと思う。

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